第43話 侵略されゆく居場所
『通報しました』
『通報しますた』
『通報しました』
『通報しました』
『通報しました』
『通報しました』
『通報しました』
『通報しました』
『通報しました』
『通報しました』
配信を開始してすぐ、画面が通報しましたコメントで埋まる。
ネタだとわかってるけどやめて!?
「えーと、改めて紹介します。彼女は妖狐の鈴珠と言って、あの狐の変化した姿です」
「ど、どうもよろしくお願いします!」
『ちっちゃい妖狐かわいいよ妖狐prpr』
『ちっちゃい狐ちゃんペロペロ』
『小さい狐は正義』
「……」
「あっ、あの、お気持ちは嬉しいのですが、さすがにそういうのは……」
『狐ちゃん照れてるw』
『もどして』
『人化するとか作者わかってない』
誰だよ作者って。
「あ、えっと……戻れますですっ」
鈴珠はそう言うと、ぽんっ、と煙と共に、今までの子狐の姿になった。
『おおっ!』
『もどれた』
『もふもふは正義!』
『可愛いは正義』
鈴珠はそのコメントを見て、どうだといわんばかりに胸を張る。
どうやらかなり力は回復しているらしいな。化かす術を使えるようになったか。
……ん?
この流れ。
俺は嫌な予感がして、慌ててカメラのスイッチに手を伸ばす――
それと同じタイミングで、
ぽんっ。
鈴珠が人の姿に変化した。
「ハイアウトーーーーー! アカウント停止されるわ!」
間に合っただろうか。
そう、鈴珠の変化は……身体だけだ。
つまり狐の姿から人化したら、全裸なのである。
「……?」
はてなじゃねーよちくしょう。前回もやばかったんだぞ。
「お前配信中に変化するの禁止! どっちかの姿で固定な!」
俺は叫んだ。
やめてくれよ本当に。
◇
「えっとすみません、失礼しました。改めて……」
鈴珠を着替えさせて、配信を再開する。
『なんでカメラ切った』
『おのれキチク』
『お前はまじでキチクだ』
『絶対に許さん……』
『●REC』
『説明しろなぜ切った』
『もう一度変身見たいなー鈴珠ちゃんの』
「BANされるからだよ! 前回もギリギリセーフだったんだよ、うちのチャンネルはいかがわしいチャンネル違いますから!」
俺は叫んだ。
『なるほど鈴珠ちゃんの裸を一人占めしたいと』
『前々からそうかと思ってたけどこいつ……ロリコン……』
『幼女を自分のものにしようとするなんて……やっぱり……』
『まあ確かに鈴珠ちゃんの裸は誰にも見せたくないな(本音)』
『わかる(同意)』
『尻目なら裸がユニフォームじゃん』
「違うわ! お前ら本当にちょっとは自重してくださる!?」
泣きたくなってきた。
「あの、えっと、その、私なんかのことで、皆さんにご迷惑をかけて申し訳ありませんでした!」
鈴珠はぺこりと頭を下げた。
『鈴珠ちゃんは悪くない』
『悪いのはキチク』
『それな』
『気にしないで』
……。
もういいやこいつら。ちくしょう。
そんなこんなで、彼女のお披露目は終わった。
そしてやはりゲームは強かった。
千百合はまたもや普通にこてんぱんに負けて泣き、同接数はうなぎのぼりだった。
……うちのリスナーさんたちってロリコンばかりか。
◇
鈴珠が加わって一週間。
彼女はマヨイガの住人として、すっかり馴染んでいた。
鈴珠はよく働く。家事全般はもちろんのこと、ダンジョンでも幻術を巧みに使い、挑戦に来ている探索者たちを楽しませていた。
これに憤慨するのが千百合だった。
「マヨイガはねー、手入れしなくても人が住んでれば大丈夫なオートマチックな家なんだよ! なのに家事とか家の世話しちゃったら、マヨイガが楽しちゃうじゃない!」
ニート妖怪の言う事か。
ちなみに人が住んでいればいいというのは、マヨイガを訪れる人間の生気がマヨイガの力となるからだそうだ。
といっても、生きるのに支障の無い程度のエネルギーをもらう程度なので、体感としても実情としても問題はない。吸収変換効率に驚くくらいだ。
今はダンジョンに訪れる客も多いしな。
探索者達が多いほど……彼らがいるだけでダンジョンは、マヨイガは力を得る。
普通の、性悪なダンジョンなら探索者を殺して食って力に変えようとするが、マヨイガに制御されマヨイガの一部となったこのダンジョンではそんなことはない。
まあ代わりに、マヨイガダンジョンから出るアイテムはぶっちゃけ他所と比べて貧相なものばかりになっているわけだが。しかしあくまで他所と比べてだし、ここは命の危険が少ない。
安全な探索が可能ということで、ありがたいことに人気が出ている。
「おまけにダンジョンであんな……あんなにちやほやされちゃって!」
鈴珠は人気者になった。
ダンジョンで幻術を使い、探索者達の相手をしているが、それが中々に評判なのだ。
彼女の幻術はさほど強力でなく、触れば消える程度のものだが、しかし中々によく出来ている。
本物は誰だクイズとか、飛んでくる罠が幻覚だったりとか、壁や床が幻だったりとか、多岐にわたり探索者たちを翻弄し、楽しませていた。時々失敗するのもまたご愛嬌。
そんな感じで、鈴珠は今やこのマヨイガのムードメーカーとなっていた。
リスナーからも人気で、観光協会あてに彼女への贈り物も届くようになった。
油揚げや、あと「狐っ娘といったらこれでしょう」と巫女服が贈られてきたこともあった。確かに似合っていた。
「ボクの……ボクの居場所が……奪われていく……」
千百合は嘆いていた。
「そんなことはないと思うけどな」
俺は言った。
「お前だって頑張ってるじゃないか」
「……だけど……」
千百合はうつむいて言う。
「それでも……あの狐の方がみんなから喜ばれてる。ボクは……ボクは……」
そうして、千百合は部屋を出ていった。
今はそっとしておくか。
その夜。
夕食の時間になっても、配信の時間になっても……千百合は、戻ってこなかった。
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