第35話 新宿のダンジョン
「というわけで、また東京に拉致……呼び出されてました。まあ、今回はあくまで偶然で不可抗力で正当防衛で不慮の事故ですんで、どうやら俺はお咎めなしなようです。
いや本当、これで前科ついたりしたらどうしようかと思いました。
まあそうなったとしても、友達一人助けられたなら悔いはなかったですけど。
嘘です、思い出すだけでめっちゃ足震えて冷や汗出ます」
俺は雑談配信でリスナーたちにありのままを伝える。
ちなみに場所は東雲さんに手配してもらったホテルだ。
『うそつけwwwww』
『正当防衛で他人のダンジョン破壊とかwwwww無いわwwwww』
『なんでそうなるwwwww』
『どの口がwwwww』
『警察も協会も遠野人には手が出せなかったか……』
『アンチェインだなキチク』
『流石はダンジョンの破壊者』
『おのれ破壊者ぁぁぁ! お前のせいでこのダンジョンも破壊されてしまったぞおお!』
「いや本当に俺びびってたんですよ!?
賠償金来たらどうしようって。
ダンジョン破壊する気なんて本気で無かったですし」
本来の目的は、ただタガメたちを救出するだけだったのだ。
「まさかこんなことになるなんて……
どうしてこうなったんでしょうね」
『どの口が』
『どの口が』
『どの口が』
『どの口が』
『どの口が』
『どの口が』
『どの口が』
『どの口が』
「ひどい!?」
みんなが俺を責め立てる。泣くぞ! いや泣かないけど。
「まあいいや。いや、良くはないですが……それでとりあえず今東京にいるわけなんですが、どこかいいダンジョン知らないですか?
久しぶりに東京だし、帰る前にいっちょひと潜りしようかなって」
『やめて……東京のダンジョンも破壊する気なんでしょう! 蛙禍洞みたいに』
『やめろ!』
『破壊者め! 日本からモンスターを追い出す気か!?』
『遠野人ちょっと黙ってろ』
『帰ってくださいお願いします』
『いやマジ話で東京での無双も見てみたい』
『わかる』
『おっ、行くか?』
『本当にやめろ!』
「いや、だからあれはマジで不可抗力でしたから。
あっちが人為的に意図的に襲ってきてる犯罪者だったから、正当防衛でうやむやになったけど普通のダンジョンを破壊したらマジで億とか兆とかの賠償金ものですし豚箱行きですよ。絶対にやらねー」
『フリか』
『フリだな』
『押すなよ絶対押すなよですねわかります』
『お前らwww』
『草』
「いや、本当にやらんて。俺はちゃんと弁えてるからね? そんな何回もやらかしませんから」
みんな本当に俺を何だと思っているのか。
『弁えてる(キリッ)』
『いや弁えてないだろ』
『弁えてる(白目)』
「うるせー!」
そんなくだらない雑談配信をしつつ、俺はホテルの一室でくつろいでいた。
そんな時だった。SNSの通知が鳴る。ダイレクトメールだ。
『穴場のダンジョン知ってますよ菊池さん。ご案内したいです』
そんな内容だった。
……。
ふむ……まあいいか。
俺は返信する。話を聞かせてください、と。
『菊池さん、突然連絡してごめんなさいです! どうしてもダンジョン攻略手伝ってほしいダンジョンがあって……お願いします!』
場所は東京。その地下に広がる新宿ダンジョンのひとつが穴場らしい。
そのダンジョンは、新宿ダンジョンの比較的浅い階層にある。
「というメッセージ来ました。行ってみようと思います」
俺はリスナーにそう言いつつ、返信を返す。
『分かりました。案内してください』
そんな俺の返信に、すぐにまた返事が返ってくる。
『ありがとうです! じゃあ今すぐ行きますので待っててくださいね! 集合場所は――』
そして、俺は新宿の穴場ダンジョンのに潜るための待ち合わせ場所に向かうのだった。
「ここか……」
俺の目の前には、一見するとただの古びた地下鉄の入り口にしか見えないダンジョンの入り口があった。
「本当にここでいいのかな……」
俺は周囲を見回すが、誰もいない。
……まさかここじゃないよな?いやでも他にそれっぽい場所はないよな? 俺は少し不安になる。
「うーむ、もしかしてすっぽかされましたかね」
スマホに向かって俺は言う。
『罠だったか』
『釣り乙』
『ダンジョンの中で釣りとか草生える』
『流石にそれはないだろ、新宿ダンジョンならもう攻略されてるし、新しいエリアが開拓されたなんて話も聞いてないし』
『でも、今はメッセージの人来ないね。もしかして場所間違えたかな?』
『新宿駅にダンジョンあるんだから間違ってないと思うけどなあ……』
そんな俺に対してリスナーたちも好き勝手言う。いや俺も場所が合ってるか不安になってきたけど。
そんな時だった。
「あのう……」
後ろから声がかかる。
「あ、はい」
俺は振り向いた。その瞬間、
「――っ!」
顔面に噴きつけられる、これは……ガスか!
「ぐっ……っ、しま――」
俺は膝を折り、手に持ったスマホを落とす。
それを誰かが踏み割るのが見えた。
そこまでで、俺の視界は閉じたのだった。
◇
「うっ……」
俺は目を開ける。だが、身動きが取れない。手足は縛られている。ここは……洞窟の中か? いや、それにしては随分と広いし、天井も高くてしっかりした造りだ。それに壁にも天井にも人の手が入っている。
コンクリートの……廃ビルか?
「目が覚めたみたいですね菊池さん。おはようございます、そしてごめんなさいです」
声のする方を見ると、そこには一人の少女がいた。中学生くらいだろうか?
「君は……」
「初めまして! 兄がお世話になりました!
私の名前は水虎村雨と申しますっ!」
「……水虎?」
その名前は……それに、兄?
「はい! 貴方のおかげで失脚した水虎政宗の妹ですよ!
水虎村雨です!」
少女は、そんな物騒なことを明るく言
った。
その顔は――狂気と狂喜に染まっていた。
「どういうことだ」
「無駄ですよ菊池さん! そんなんじゃ縄は解けません!」
少女は楽しそうに笑う。そんな彼女に、俺は静かに問う。
「……水虎村雨と言ったな。これはどういうことだ? いや、まずここはどこだ?」
「それは私が説明しよう」
声が響いて、ドアが開く。
そこから現れたのは……。
「久しぶりだな、小僧」
水虎政宗だった。
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