第33話 あくまでも偶然の結果
蛙禍洞ダンジョンのコアが破壊された。
さて、ダンジョンコアが破壊されたらどうなる?
答え……壊れる。
さっきからの振動は……これだ。
『これヤバくね』
『ダンジョン壊れる』
『テレビの中継も揺れてる』
『倒壊するぞ』
『こんなん初めて見たわ』
『脱出の時間なくね?』
確かに普通に逃げるなら時間は無いだろう。崩壊に巻き込まれて死ぬ。
だけど俺たちは……マヨイガからやってきた。
「マヨイガぁっ!」
俺は叫ぶ。
そしたら、岩壁を突き破って和風の通路が生えてきた。
さすがマヨイガ。サポートが厚い。
「みんな、早くマヨイガに!」
「お、おう!」
タガメが他の妖怪たちをマヨイガに誘導していく。そして。
「よし、全員入ったな! 行くぞ!」
俺は泣き叫ぶおっさんを捕まえたままマヨイガに飛び込んだ。
その後ろで――崩落の音が響いた。
◇
水虎テクノロジー株式会社の犯罪と、蛙禍洞ダンジョンの崩壊は瞬く間にニュースとなった。
数々のダンジョン法の違反。モンスターの大規模密売、そして配信で生中継された、迷い込んだ未成年探索者への暴行、淫行、殺害未遂等。
それらが明るみに出た事で、水虎テクノロジーは司法の介入を許さざるを得なくなり、さらなる違法行為、犯罪が暴かれるだろう。
水虎テクノロジーの大本である水虎グループは、水虎テクノロジーを切り捨てる事になるともっばらの噂だ。トカゲの尻尾切りというやつである。
これで万々歳、四方丸く収まるハッピーエンド……というわけではない。
やっちゃったからである。
ダンジョンの破壊。
まがりなりにも他人様、というか企業の財産であるダンジョンを潰して待った。
今回の事で、国……ダンジョン協会も水虎テクノロジーから蛙禍洞ダンジョンを没収しようと企んだだろうにこれだ。
もしかして俺、水虎グループと国の双方から、あと日本中の探索者たちから恨まれる事になるんじゃないかな。
……こんなつもりはなかったんです。
子供のしたことですし、そんなに目くじら立てないでくださいね?
……無理か。無理だろうな。
「まあ、色々と言いたい事はありますけど、お咎めは無しという事です」
東京にて。
ダンジョン協会の東雲さんが俺に笑顔で言ってくる。その笑顔は多少ひきつっている気がしないでもないが、問題ないとのことだ。
ひゃっほう。
「表向きはあくまでも偶然、道に迷った結果ということですしね」
「はい、あくまでも偶然です」
彼女には、いや協会にはどうやらお見通しらしい。
「とはいえ、ダンジョンという貴重な人類の財産は、ひとつ失われてしまいました」
「すみません、まさかこうなるとは」
「配信のアーカイブを検証した所、ダンジョンコア破壊はあくまでも結果であり、戦闘の余波でしかない事はわかっています。残念ながら。
水虎テクノロジーと彼らが支配・使役したボスモンスターによる攻撃で命を狙われ、正当防衛の緊急避難が適応されますし。
よかったですね、未成年で」
東雲さんの微笑みが怖い。
威圧スキルとか持ってそうだよねこの人。
「しかし本当に大変な事になりましたよ。今回の事で、世間に広く知られてしまいましたからね」
東雲さんがため息をつく。
「ダンジョンの占有ですか?」
「いえ。ダンジョンを由来としない、知性、心を持つ地域在来モンスター……妖怪の存在です」
「?」
言ってる事がよくわからない。
「妖怪って昔から普通にいて知られてましたよ?」
「それはあなたが遠野人だからです!」
東雲さんが声を荒げた。
……?
そりゃ確かに遠野に妖怪はつきものだが。
別に遠野以外に妖怪はいないなんてことはないよ?
「確かに妖怪の存在は知られていましたけど、あくまで寓話、噂話、都市伝説の範疇だったんですよ」
「そういやあの……水虎ヨシムネってのも言ってたな」
「水虎政宗ですね。
とにかく、世間的に広く知られて存在を確認されているモンスターは全てダンジョン発生であり、知性、意志、心を持っていなかった。
だけど今回のキチク様の配信、そこからの水虎テクノロジーのスキャンダル暴露によって、もはやネットでバズってる話、の範疇では収まらなくなったわけです」
そういや配信でリスナーさんがテレビやニュースにも出てたって言ってたな。
動画も拡散されまくって、テレビが勝手に使ってたし。雑誌からも使用許可依頼来てたし。
「何か問題でも?」
「大ありです。おかげでこれから問題が増えていきますよ。認知された妖怪に合わせての法改正。魔物保護団体も大喜びで動き出すでしょうし、宗教関連も市民団体もその他諸々とても活発になるでしょう。
十年前、ダンジョンがこの世界に現れた時どんなに世間が大変な事になったか……」
「そん時、俺すごいガキだったんでよく覚えてません。東雲さんは当時とっくに大人だったから覚えてるんでしょうけど」
「私も当時は中学生でしたよ?」
すごい笑顔で言われた。
部屋の気温が二度ほど下がった気がする。
テーブルの上にあるコップに亀裂が走った。怖い。
「……小学生のガキにとって、中学生ってめっちゃ大人に思えましたから」
フォローしておいた。命は惜しい。
「とにかく、これから大変な事になりますよ。この国は大きく動きます。
妖怪という存在が認知されたことでね……はぁ」
「大変ですね」
「はい、誰かさんのせいで♪」
「でも東雲さん別に政治家じゃないでしょう」
「公務員には雑務事務ってのがありましてね?」
「すみません」
謝るしかなかった。
「……しかし、逆に言うとなんで今まで妖怪がそんなに認知されてなかったんだろ。遠野とかじゃ普通にいたけどなあ……東京にいた時も、人面犬や口裂け女とかの話って普通にあったし」
幽霊なんて普通にいて、みんな実際にあるものという前提で噂しているように見えた。いや、ダンジョンでゴースト系モンスターやアンデッドがいたので、誰も疑わなかったが……。
「……」
東雲さんが、少し考える。
「確かに……でもそれは、ダンジョンとモンスターの存在があったから逆に目立たなかったのでは?」
「…………あ」
ふと思い当たったことがある。
さっき話に上がった政治家というワード。ダンジョンとモンスターの存在があったから逆に目立たなかったという事実。
「……隠されていた? いや、まさかな……」
「まさかって?」
「これはガキの思いつき、あまりにも適当で唐突な根拠のない考えだからスルーしてもらってもいいんですけど……。
ダンジョンとモンスターがいるから妖怪が目立たなかった、んじゃあない。
妖怪の存在を隠すため、目立たなくするため、そして……妖怪が認知されてもおかしくないよようにするために、ダンジョンとモンスターを誰かがこの世界に呼び出した、としたら……?」
「なっ……!?」
東雲さんが驚く。
確かにあまりにも荒唐無稽な考えだ。
なんでそんなことをするのか、普通に考えてあり得ない。
しかし、もしそうだとしたら……黒幕がいたとしたら。
「もしそうだったら……キチク様。
どうなされるおつもりですか?」
東雲さんが問うてくる。
いや、そんなシリアスな悲痛な顔で言われても、俺ただの学生なんですけど。ダンジョンマスターってのも名ばかりだし。
だけど……。
「もしそうなら、お礼を言いたいかな」
ダンジョンには、つらい記憶、思い出だってある。
あの時――。
だけど、それでも。
だからこそ、俺は。
「お礼……ですか?」
「ああ」
俺は笑う。
だってそうだろう?
「ダンジョンって、すっげえ魅力的で――ワクワクするから」
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