第24話 河童ハンター協会本部

「おい、なんか困ってるんだってなお前」


 学校で小鳥遊が話しかけてくる。


「まあ困ってるといえばそうだけど……

 みんなが俺をキチクとしか呼ばないとか」

「諦めろキチク。

 配信とかSNSでちょっと話題になってたぞ、カッパ密猟疑惑の話」

「ああ……」


 先日、河童を捕まえるなら理由なんでしょうねと聞いたりしたからな。


「んで、お前のスレでその話題が出てたぞ、ほれ」


 小鳥遊は俺にスマホを見せてくる。

 そんなスレ立ってたのか。

 というかなんだこのスレッドタイトル。


「千百合のスレじゃねえか」

「仕方ないな、一番最初に話題になったのあの座敷わらしだし。

 んで、ここだよ」


 小鳥遊が指さす。


「水虎テクノロジー……?」


 聞いた事がある。

 花巻市に本社を構える東北有数の企業だっけ。確かダンジョンを一つ持っているはずだ。

 探索者の雇用もしていて、探索者や探索支援員をたくさん抱えているらしい。

 探索者用のグッズも売っている。


「そいつらが河童を捕まえてるんじゃないかって、スレの連中が話してんだよ」

「まさか。なんでダンジョン会社が河童を捕まえるんだよ」

「そりゃ、需要があるからだろ」


 小鳥遊が言うにはこうだ。


 まず河童は食用としての需要がある。

 それは遠野人なら知ってることだ。だが遠野の人間が喰うのはあくまでも外来種の、知性の無いタイプである。

 だけど、遠野の外の人間にはそんなことは関係なく、いちいち区別しない。

 それどころか、赤い河童は全国でも珍しいので、需要があるんじゃないか、と。


「確かに、リスナーの人たちは赤い河童ってのに驚いてたしな」

「まあ外の連中には河童ってだけで珍しいだろうしなー。

 けど要するにだ、河童を狙うなら知性なしだろう、って考えは遠野の人間特有の先入観なんだよ。

 そしてこの大ダンジョン時代、モンスターの存在も認知されてるよな」

「ああ、ダンジョンに出るな」

「モンスターには知性は無い。だけど、モンスターと同類に見える妖怪、その遠野の赤河童には知性がある。

 それは妖怪の実在を知らない一般の連中からしたら、喉から手が出るレアモンスターじゃないか、ってことだよ」

「……盲点だったな」


 遠野の河童や妖怪たちは普通に喋る奴ら多いから失念していた。

 世間から見たら、モンスターも妖怪も同じなのか。


「あくまで噂だが、水虎テクノロジーみたいなダンジョンを確保してる企業は、雇った探索者でダンジョン探索によって儲けてる、その事業のひとつにモンスターの売買があるらしい。

 あくまで噂だがな、モンスターの売買は国際ダンジョン法で禁止されてるし」


 なにしろモンスターはテイミングスキル持ちなどの例外を除き、人間に懐かない。ペットのように飼育など不可能な生物なのだ。


 かつてダンジョン黎明期に、それで多くの犠牲が出た。


 にも拘わらず、裏の世界の金持ちたちに高値で売れるという噂は根強い。

 ……なるほど、人語を解す河童はそういったモンスター愛好家からしたら垂涎の品かもしれない。


 密猟の標的にする動機は……十分にあるということか。


「さんきゅな、小鳥遊。参考にするよ」


 確証が得られたわけじゃない。だけど疑念は深まった。

 河童の密猟……もしそれが事実なら。


 そして、友達が捕らわれたというのなら。


 放っておくことはできない。



 ◇


 遠野駅前の、観光協会。そこは河童ハンターたちの組織でもある。


 遠野の河童ハンターの仕事は、外部から侵入してくる知性の無い河童の捕獲駆除と、遠野の河童たちの保護保全である。

 年々減っていく個体数維持のため、河童同士の合コンを主宰する事もあるらしい。

 なお、タガメは確か独身だったはずだ。


 閑話休題。


 俺はそこに足を運んでいた。


「いらっしゃいませ」


 受付の女性に話しかける。


「すいません。少々お聞きしたいのですが……」


 俺は河童捕獲許可証を見せる。

 俺のは観光客用のではなく、正式ハンター用の奴だ。顔写真や名前などが記されている。

 これがあれば売店などで融通してもらえるし、話も聞きやすい。


「あっ、もしかしてキチクさんですか!?」


 ……。


 ここもか。


「はい、菊池修吾です。キチクではないです。

 それで実は最近、河童の密猟が頻発してると聞いて」


 その俺の言葉に、受付嬢のお姉さんは顔を曇らせる。


「……そうなんです。それで困ったことになってて……カッパおじさんからも相談を受けてまして」


 お姉さんの視線の先には、水面ちゃんがいた。


「あ、キチクさん……」


 だからなんでみんな俺キチクキチク言うのか。


「水面ちゃんも来てたのか」

「はっはい、みんなが心配で……」


 やさしい子だ。いい子だな。


「タガメの奴の行先とかわかったのか? まさかアイツも……」

「その事ですが……こちらに」


 受付のお姉さんが俺たちに言う。


 彼女の机の上にあるパソコン。

 今ではなかなか見ない、モニターが分厚いタイプだ。

 なんで役所のパソコンってのはやたら古いんだろう。いまだにフロッピーディスクとか使ってるし。PC-98ってなんだ。聞いた事ないぞ。


 それはともかく、そのモニターを見る。

 地図が表示されいて、点が明滅していた。


「これは……?」

「タガメさんは、仲間の河童たちが攫われているのでは、と疑っていました。

 そこで私たちに言ったんです。

 自分に発信機を取り付けてくれ、と」

「なっ……!?」

「そんなことを……?」


 俺と水面ちゃんは驚く。あいつ、そんなことを言ったのか。


「自然保護のハンターたちが捕獲した野生動物にマイクロチップのタグを植えて放つ、という奴ですね。生息範囲の確認のために使われるものです。あと、ペットにも植え付けられますね。逃げてしまった時に追えるように。

 それを彼が、自分から言ってきたんです」

「……もしかして、自分を囮に……?」

「でしょうね。そして彼は姿を消した。 

 マイクロチップのGPSは生きているので場所は確認できましたが……」

「何か問題が?」


 受付のお姉さんは言った。


「場所が、水虎テクノロジーの所有する……ダンジョンの中のようなんです」

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