【本編完結】眼鏡ギャルの近間さん 〜陰キャの俺がギャルと友達になれたのは、眼鏡女子が好きだったお陰です〜【SS不定期更新】

しょぼん(´・ω・`)

プロローグ:眼鏡ギャルの近間さん

プロローグ:住む世界の違う相手

 夜も八時前。

 駅前が街灯や店の明かりで華やかに彩られる時間。

 今年からこの街で暮らすようになった高校一年の俺にとって、それは神秘的でもあるけれど、何処か緊張もする時間。


 とはいえ、この街で暮らし始めて一ヶ月弱。

 この時間に買い出しに来たりとか、用事のために少し帰りが遅くなるなんてこともあって、こんな光景にも少しずつ慣れてきた……はずだった。


「ほら。遠見とおみ君、こっちの店にしよ」

「え? あ、うん」


 普段なら俺一人。

 それなのに、今日は隣にあり得ないはずの女子がいて、俺をゲームセンターの一階、プリ機が並ぶコーナーに導こうとしていた。


 彼女の名前は、近間ちかま海笑瑠みえる

 俺と同じ県立青藍せいらん高校こうこうに通う、一年C組のクラスメイトだ。


 ウェイビーな髪の毛を後頭部の高い位置でポニーテールにまとめた、やや褐色寄りの健康的な肌をした彼女。

 制服のスカート丈の短さとか、シャツの襟元のボタンを外したカジュアルな着こなしとかも含め、露骨なギャルらしさを隠そうとはしない。

 ただ、その割に珍しく眼鏡を掛けているのがとても印象的だ。


 入学して一ヶ月弱。

 既にクラスメイトにも溶け込んで、毎日楽しげにしている近間さん。

 既に男女問わず人気者の彼女は、本来陰キャで友達もまともにいない俺とは、絶対に住む世界が違うと思っている。


 けど、そんな彼女は今俺の側で、街と同じくらいキラキラした笑顔を振りまいてくれていた。


「あ、ここ空いてるよ」


 大きなギャルの写真が目印のプリ機を見て、近間さんが手招きをしてるけど……へ? 本気で俺とプリを撮るつもりなのか?


「ほーらー。ぼーっとしてないで。一緒に入って」

「え? え!?」


 ぎゅっと強く手を引かれ、俺は同じプリ機の中に入れられてしまった。


 思ったより柔らかかった彼女の手。

 しかも、決して広くないスペースに、近間さんと二人っきり……。

 正直頭が混乱して、まったく何をしていいかわからないんだけど、彼女はそんな俺なんてお構いなしに、プリ機の撮影準備を手際よく進めている。


「これでおっけいっと。じゃ、遠見君もポーズ取ろ?」

「へ? ポ、ポーズ?」

「そ。こんな感じで。ほら、いくよ。イエーイ!」

「い、いえーい?」


 元気よく片手をカメラに伸ばし、もう片一方は目の側に据え、両方でピースを作りウィンクする近間さん。

 釣られて思わず俺も腕を伸ばしてピースサインをしたけど……こ、これでいいのか!?


 そんな戸惑いを吹き飛ばすかのような、はっきりとしたシャッター音を聞いた瞬間、近間さんはすぐポーズを止めた。


「よーっし! 次の行くよー!」

「え? 次?」

「当たり前っしょ! 記念だもんねー」


 俺の戸惑いに笑顔で答えた近間さんは、その後も俺に無茶振りをした。

 よく女子がやってる、なんか手でハートの半分を作るポーズを一緒にさせられたり。なんか背中合わせに銃を構えたようなポーズをしたり。

 正直、緊張と混乱で何をどうしたかも曖昧なんだけど。その痴態は撮影が終わった後の画像で、赤裸々に見せつけられた。


 うわぁ……。

 画面に映る、さっぱりした黒い短髪に眼鏡を掛けた冴えない自分と、対照的に笑顔が眩しい金髪眼鏡ギャルの近間さん。


 っていうか、何で俺、彼女とこんなポーズしてプリ撮ってるんだよ。彼女と一緒っていう時点で場違い感しかないのに……。

 そのせいもあって、どの画像も緊張で表情がっちがちだわ。顔も真っ赤だわ。正直見れたもんじゃないだろ……。


「うっわー。遠見君顔真っ赤っかだねー」


 ほら。近間さんだってそういう感想になるじゃん。


「そ、そりゃ、こんな風にプリ撮るのなんて、昔妹にねだられて家族で撮った時以来だし……」

「え? じゃあ同級生とかと撮った事もないの?」

「全然」

「あー。だからこんなにガッチガチなのかー」


 現実を突きつけられたみたいで、自然と肩を落とす俺。

 それに気づいた近間さんは、こっちを心配するような表情を──する気配もなく。


「じゃあ、ちゃんと記念になるの選ばないとね!」


 ぐっと人差し指で眼鏡を上げると、眩しいくらいの笑顔を見せた。


「遠見君はどれか好みある?」

「え? こ、好み?」

「そ。どれも恥ずかしいかもしれないけどさー。あたし達二人の秘密にしておけばいいだけだし。誰にも見せたりなんてしないからさー。だから、少しでも遠見君が納得するのを選ぼ? ね?」


 馬鹿にする雰囲気なんて微塵も感じさせない、屈託のない明るい笑み。

 彼女は他の友達に話しかけている時のように、軽快に、だけど気遣いを感じる言葉を掛けてくれる。


 ……何で、彼女はここまでしてくれるんだろう?

 誰かと話すことに不慣れで、弱気ばかりが先行する俺の心に、そんな疑問が浮かんだけど。そこまで深く考えずとも、答えはわかってる。


 さっき言った通り、近間さんは俺と住む世界が違う。

 だからこそ、彼女は誰にでも分け隔てなく接するだけの社交性があって、自然とこういう行動をさせているんだって。


 ……とはいえ。

 下がった眼鏡を中指で直し、プリ機の液晶に映る撮影した画像を見る振りをしながら、画像を選ぶのに悩む彼女の横顔をちらりと見る。


 きっと、これはたまたま。

 俺がを知った事で生まれた、一時的な関係。

 確かに共通する部分もあったけど、明日になったらきっとまた、前と同じくほとんど話もしない、クラスメイトに戻るだけ。


「個人的にこれは良いと思うんだよねー。あとこっちのやつとか。真面目にやってる感じが好印象って感じ? 後はこの辺なんか、結構素が出てるしー。それから──」


 ──でもまさか、こんな風に彼女と接する事になるなんて……。


 一生懸命写真を選ぶのを手伝ってくれている彼女の横顔に見惚みとれながら、俺は気恥ずかしさから現実逃避するかのように、これまでの出来事を振り返っていた。

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