第62話 真価

「シェリア!ちょっと待って!」


 一人先を進むシェリアに追いついたシルフィードが彼女の動きを止める。


「なーに?さっさと戦いたいんですけど。」


「一撃必殺であれを倒すつもりなんだろ?それじゃあ倒れるからダメだ。美玖さんに任せよう。」


 僕のこの言葉を聞いたシェリアは不機嫌そうな顔をした。

 当然の反応だ。

 だってシェリアは美玖さんと張り合ってるんだから。


「やだ。あの子になんて任せたくない。」


「相性の問題なんだ。わかってるんだろ。また進さんに迷惑かけたいのか?」


 この手のモンスターに有効なのは美玖さんの光魔法。

 そんな事はシェリアもわかってる筈だ。

 だけどシェリアは美玖さんに負けたくないが為にイモムシモンスターと戦おうとしている。

 一応、手段はある。

 一撃必殺の威力は絶大で、あのモンスターを塵すら残さず消し去る事は可能だろう。

 だけど全部は倒せない。

 多くとも10匹。

 攻撃範囲的にもその程度しか倒せない。

 この場面で僕たちに出来る最善策は美玖さんの魔法で地道に削り、シェリアの一撃必殺で残りを纏めて葬り去ること。

 ……だけどシェリアは美玖さんと強力する気はないみたいだし…どうしたら……


「……わかった。協力すればいいんでしょ。進にはこれ以上迷惑かけれないもんね。」


「シェリア……」


 そうだ。

 シェリアだってあの出来事から成長してるんだ。

 何気なく口から出た言葉だけど「進さんに迷惑をかける」という行為は今のシェリアにとって最も避けたい行為になってる。

 この言葉が今のシェリアには効いたんだ。


 よ〜し、シェリアが協力してくれるんだったらやり様は幾らでもある!


「シェリアは出来る限りモンスターを一箇所に留めて置いて。僕は美玖さんのところに行って来るから足止めだけだよ。絶対倒しちゃダメだからね。」


「わかってる。私だって腕なくなるのはゴメンだし。」


 その返事を聞いた僕はシェリアの元を離れ、美玖さんの元へと走り出した。


 ※


「美玖さん!!」


 シェリアが居た場所から走って2分程度の位置に美玖さんは居た。

 どうやら魔法でモンスターの足止めをしながら負傷した冒険者たちを逃していたみたいだ。


「シルフィードさん。すみませんが少し手を貸してくれませんか?私の魔法じゃ威力が足りなくて……」


 そうか……

 足止め要員のいない現状では、美玖さんは現時点の最高火力である艶美な閃光グロリアス・レイを放つ時間を稼げない。

 だから今は簡易魔法である魔力の矢で足止めに専念している。

 だったら——


 僕は自業自得を美玖さんにかけた。


「スキルをかけました。美玖さんの日頃の行いなら、威力は絶対に上がってる筈です。」


 普段はよく知らない相手にかけたりしない。

 自業自得は下手すると弱くなる可能性があるから。

 だけどこの短い付き合いでわかるほど美玖さんの性格はいい。

 彼女ならきっとパワーアップしている筈だ。


「わかりました。シルフィードさんを信じます。」


 美玖さんが先程と同じ動作で弓を引く。

 するとそこに現れた魔力の矢は腕を軽く覆い尽くす程の大きさをしていた。


「え、嘘?」


 あまりの大きさに驚きながらも美玖さんはその矢を放つ。

 光属性を纏った巨大な矢はイモムシモンスターを浄化しながら一直線に体を貫通して行く。


「す、凄え。」


 誰が呟いたかわからないこの言葉だけが響いていた。

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