三進二退~3歩進んで2歩下がる？レベルは中々上がらないけどランクアップボーナスで無双します~

第36話 兄妹喧嘩

　金色の髪に碧い目。

　シルフィードと同じ特徴を持ってるって事はこいつが妹のシェリアか。

　シルフィードの話を聞いてる分だと大人しく小動物の様な愛らしさを持った妹を想像してたがこれはなんていうか……予想とは随分と違うな。

　160センチを超えるであろう身長に鋭い目付き、動きやすさを重視したのであろう無造作に束ねられた髪。

　まあなんというか……良くも悪くもこのギルドに似合ってる感じだ。

　俺らが呆気に取られている間にシェリアはシルフィードに向かって歩いていく。

　目の前で立ち止まったかと思うといきなり彼の胸ぐらを掴み宙へ持ち上げた。

「この弱虫…私、帰らないって言った筈だけど。何回来たら分かるの？」

「で、でもこんなギルドにシェリア1人置いて行ける訳ないだろ。何処の誰がシェリアを狙ってるかわからないってのに……」

「私は私より強い男なら大歓迎なんだけど。だからこのギルドに入ったの。シンプルに強さだけを求めるこのギルドに。」

　なるほどねえ。

　兄貴は妹が心配で一緒に居たいが彼にはその力がない。妹は憧れのギルドに入ったからこのギルドを抜けたくないって感じか。

　はぁ…どうしたもんか。

　彼ら2人の兄妹喧嘩を眺めながら俺は横で同じ様に観戦していた鎧武に話しかける。

「で、そちらとしてはどうしたい感じですか？」

「兄妹一緒に居てえって気持ちは分かるんだが規則は規則だ。シルをうちに入れる事はできねえ。それにシェリアの奴はとんだ問題児だからなぁ。ぶっちゃけ他所に行ってくれるならそれはそれで構わねえんだ。」

　ギルマスである鎧武がこう言ってるって事は後はシェリア本人の意思次第って訳か。

　でも、一体どうやったらシェリアが他所のギルドに興味を持つ？

『狂暴な鬼人』は『叡智の女神』と並ぶトップギルドの一つだ。

　追放もされてないのにわざわざ抜けようなんて考えはしないと思うんだが……

　俺がそんな事を考えている間にも2人の言い争いがヒートアップしていく。

「だーかーら、絶対にダメだって言ってるだろ！1人でこのギルドに残りなんて絶対にダメだ！」

「なんで兄貴にそんな事言われなきゃいけないの！そもそも兄貴が追放されたのが悪いんじゃん！」

「それは……そうかもだけど……でも——」

　口喧嘩も妹の方が強そうだな。

　まあ妹の言い分は十分理解できる。

　過保護な兄がいるってのも面倒なもんだ。

　……なんかもう、俺らって必要なくね？

　隣で一言も話さず、ずっとぽかーんとしていた美玖ちゃんの肩を叩く。

「帰ろうか。結局ただの兄弟喧嘩みたいだし。俺たちが関わる問題じゃないよ。」

「そうみたいですね。帰りましょう。」

　美玖ちゃんの了承を得たのでギルマスの鎧武に挨拶をする。

「俺たちはこれで失礼させて頂きます。」

「なんだ？あいつら、連れて帰んなくていいのか？」

「ええ。ただの兄弟喧嘩の様ですので。それにシルフィードは別にうちのギルメンという訳でもないので。」

「そっか。まあ、あの喧嘩はいつもの事だから心配すんな。あーあ、シルの奴がもう一回うちの試験に合格すりゃあ問題解決なのによ。ま、後のことは任せてくれや。」

　鎧武に一礼し俺たちは『狂暴な鬼人』を後にする。

　兄妹2人の言い争いは外まで響いていた。