第26話 ジェネラルゴブリン

「おっちゃん、前見ろ!前!」


 雨太の変わりようについ目を奪われていた。

 その声に反応して前を見るとジェネラルゴブリンの剣がすぐ目の前に迫って来ている。


 ——ヤベッ、当たる。


 ナイフを後方に投げ神出奇没を発動する。

 ゴブリンの剣は空を斬り、俺に当たる事はなかった。


 あっぶねぇ〜

 なんとかジェネラルゴブリンの剣を回避する事には成功した。


 クソッ、何年冒険者やってるんだよ!

 戦闘中に敵から目を逸らさないなんて当たり前の事じゃないか。

 そんな初歩的が出来てないなんて……

 あの子のお陰で助かったな。


 横目で雨太?の居た場所をチラッと見るがそこに姿はなかった。


 一体何処に消えた…?


「なあ、おっちゃん。あのゴブリンさあ、俺がやってもいい?」


 隣から聞こえた声に目を向けるとそこには雨太?の姿があった。

 俺は戸惑いながらも雨太?の問いかけに答える。


「別にいいけど……勝てるのか?お前、さっきまでビビってただろ。っていうかおっちゃんって……」


 まだそんな歳じゃないと思うんだけどなぁ…

 まあ、こいつから見たら俺も十分おっさんなのかも知れないけど…


「ビビってたのは雨太の方。俺は全っ然大丈夫。モンスターと戦うの大好きだからさ。」


 そういうと雨太の姿をした何者かは満面の笑みでジェネラルゴブリンへと挑んで行った。


「へへへ、ジェネラルゴブリンか…まあ、寝起きだしお前で我慢してやるよ。」


 雨太?の体から炎が溢れ出す。


「行っくぜえ〜、灼熱の炎を纏え『猛火の鎧フレイムメイル!!」


 体が炎に包まれる。

 だが、不思議な事に雨太?の体は何のダメージも受けていない様子だ。


 ジェネラルゴブリンが剣で斬りかかるが、剣が炎に触れた瞬間、刀身は消えて無くなっていた。


「何だよ〜これで終わりかよ。つまんないの〜。」


 そういうと雨太?は歩き出す。

 まるでジェネラルゴブリンなど見えていないかの様に目の前に立ち尽くすゴブリンに向かって無防備なまま、ただ歩いていた。


 その様子にナメられてると感じたのかジェネラルゴブリンは雄叫びをあげ飛びかかった。


「雨太!早く構えろ!」


 俺の声が聞こえたのか雨太?はこちらを振り向くとにっこり笑い何かを言った。


 遠くて声が聞こえない。

 唇の動きでその言葉を予測する。


 だ・い・じょ・う・ぶ


 次の瞬間、飛びかかったジェネラルゴブリンは炎に触れると消し炭になってしまった。


 雨太?は炎を解くと俺の元に駆け寄って来る。


「ね、だから言ったでしょ。大丈夫だって。」


 ニシシと笑う少年。


 俺が苦戦したジェネラルゴブリンを意図も容易く倒すなんて……

 雨太だが雨太じゃない。

 この少年の正体は一体……


 進はそんな雨太らしき少年が笑っている姿を見て、ただ呆然と立ち尽くす事しか出来なかった。

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