第14話 一難去って

 後日、俺は『叡智の女神』のギルド前に来ていた。


 あの時はワープして来たから気付かなかったけど……改めて見ると凄いな、これは…


 目の前にあるのは大きなビル。

 どうやらそのビル全てが叡智の女神のギルドらしい。

 俺たちのボロ小屋とは比べ物にならない。

 そりゃ誰だってこっちに入りたくなる。


「いらっしゃいませ。ようこそ、ギルド『叡智の女神』へ。この度はどのようなご用件でしょうか?」


 ビルの中に入ると受付らしき所に座っている女性が声をかけて来た。


 凛とした雰囲気に眼鏡をかけている。

 秘書を連想させる見た目をした女性だ。


「ギルド『銀狼の牙』所属の前山進と申します。この度はそちらのギルドマスターである片桐叡山に呼ばれたので来たのですが……」


 俺も今年でアラサーになる。

 それなりにいい歳のおっさんだ。

 ある程度の礼儀作法は弁えている。

 まあ、冒険者一筋だったので多少非常識な部分があるとは思うがそこは多めに見て欲しい。


「かしこまりました。片桐に確認を取りますので少々お待ち下さい。」


 そういうと女性は何処かへ行ってしまった。


 ここで待ってればその内戻ってくるだろ。


 不用意に動き回る訳にもいかないのでその場でただ受付嬢の帰りを待っていると背後からいきなり声をかけられた。


「おい、邪魔だ!どけ!」


「——っと、悪い。」


 人相の悪い男だな。


 そう思い振り返る。


 男女4人組。

 あれはパーティだな。

 男女比率は3:1で男が剣士と盾職、女は魔導士と……あれは何だ?


 最後尾にいる一人の少年。

 まだ中学生くらいの年齢だろう。

 何やら大きなバッグを持って3人の後をついて回っている。

 あれは荷物持ちか?


 4人を観察していると先頭に立っていた金髪ピアスの男が歩み寄って来た。


「何だテメエ…見ねえ顔だな。ここが何処かわかってんのか。」


 胸元を掴み、メンチを切ってくる。


 昭和のヤンキーかよ、こいつ。

 それに力もなかなか強い。

 大手ギルドのメンバーだけはあるな。

 俺じゃ敵いそうにもない。


「気分を害したのなら悪かった。申し訳ない。ただ少し用事があって来ただけなんだ。すぐに帰るよ。」


 ここは大人の対応をするべきだ。

 どうやらこの男少々荒っぽい性格のようだ。

 何か気に食わない事があったんだろうな。

 どう見ても八つ当たり先を探してる。

 こういうのは相手にしない方がいい。

 俺は物を貰いに来ただけ。

 喧嘩しに来た訳じゃない。


「——ち、つまんねえなぁ!」


 俺の胸元から手を離すとエレベーターに向かってくれた。


 ふぅ、これで難は逃れたな。


 その時だ。


「やあ、進くん。よく来てくれたね。ところで……何の騒ぎだい?」


 片桐叡山だ。

 あの野郎、自分から降りて来やがった。

 せっかく何事もなく終わりそうだったのに……


「ま…マスター、これは…その……」


 さっきまで活きのよかったヤンキー風の男もすっかり怯えている。

 俺が叡山と知り合いなどとは思ってもいなかったみたいだ。


「彼は私の客人だよ。それを君はなぜ彼の胸ぐらを掴んだりしていたのかな?私が納得出来る説明をしてくれないか?」


「そ…それは……その……」


 叡山に詰め寄られ、何も言えなくなっている。

 ここまで来るとちょっと可哀想だ。

 まあ、別に助け舟を出そうとは思わないが。


「どうやら、君は私のギルドに相応しくないみたいだ。出て行くといい。除名だ。」


「ま、待って下さい!お、俺は———」


 こいつ…美玖ちゃんの時の男たちといい、随分とあっさり団員を除名するんだな。

 他所のギルドだから関係ないとはいえ、仲間だとかそういう信頼関係ってもんはないのか?


 ヤンキー風の男は何とかこのギルドにしがみ付こうと必死だが、まるで相手にされていない。

 このまま除名になる。

 誰もがそう思っていた時、叡山の口から信じられない言葉が出た。


「君の熱意は伝わったよ。そんなに残りたいのであれば、彼に勝つといい。そしたら君をこのギルドに置いてあげよう。」


 全員の視線が俺に集まる。

 何と叡山が指名した対戦相手とは——俺だった。

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