その6 ダンジョンのモンスター

 マイナと三姉妹たちが攫われてからおよそ2日後、

レナードたちはようやく目的の場所に到着する。


 遠くまで広がる草原の中に不釣り合いな

洞窟の入口が地面から飛び出していた。



「ようやく着いたわね・・・。

あれがダンジョンの入口よ。

やっぱりまだあったんだわ。」


「どうやら間違いなさそうだね。

あの男から手に入れた情報にこの景色があった。」


「じゃあ早く行きましょう。

・・・と言いたいところですが、

ここがダンジョンならかなりの危険がありますよね。」


「ええ・・・。 二人とも必ず私の側を離れないで。

常に私の指示に従うように。」


「はい、お願いします。」


「承知した。 ・・・本当に頼むよ?」


「じゃあ入るから、ドロシーが私の後ろをついてきて。

レナードは一番後ろで、後方に気を配っておくように。」



 ダンジョンを探索した経験のない二人に、

ルビーが指示を出しつつ中へ入っていく。


 その後ろをドロシー、レナードの順番でついて行くと、

ほどなくして地面が歩きやすくなっていった。



「なんだいこれは。 整えられた石の床だなんて。

少なくとも洞窟じゃないことは確かだな・・・。」


「おまけに壁には松明が・・・?

一体ここは誰が何の目的で作ったんでしょうか・・・。」


「気になることはいっぱいあるでしょうけど、

こうして周りの地形が変わってからが特に危ないから

油断しないでよ?」


「おっと申し訳ない。 今は彼女たちを助けることを

最優先にしないとね。」


「その通りでした。 先を急ぎましょう。

・・・ルビーさん?」


「・・・二人とも構えて。 敵が来たわ。」



 ルビーの言葉に、レナードとドロシーは一気に緊張感を抱きながら

暗闇の方へ身構える。


 しかし闇に紛れて何かが襲ってくる気配も、

物音さえ聞こえてこなかった。



「・・・? 何も、いない・・・?」


「いいえ、もうすぐそこまで迫ってる・・・!

その暗闇に潜んでいるわ!」



 ルビーは大きな声で二人に警告しつつ武器を構える。


 その武器は、レナードの持っていた短剣ではなく

マイナたちを攫った集団のうち、

運よく捕らえることのできた人間が持っていた長剣だった。


 そして、暗闇から音もなく飛び出したモンスターの一撃を

力いっぱい受け止める。


 振りかぶった腕で剣を押さえつけているのは、

ネズミのような黒い塊だった。



「ぐっ! やっぱりこいつが・・・!」


「な、なんだいそいつは・・・!? そいつがモンスターなのか!?」


「そうよ。 暗闇の化け物『ハイドラット』!

音もなく近付いてくる黒いモンスター、

こいつは影そのものと言っていいわ!」


「ル、ルビーさん! いま助けます!」


「ダメよ! あんたは後ろを警戒してなさい!

こいつらは集団で現れることが多いんだから!

ドロシー! 炎の魔法を準備なさい! そこの松明に向かって!」


「えっ!? わ、分かった・・・!」



 良く分からない指示に困惑しつつも、

ドロシーは本を取り出して

言われた通りに松明へ狙いを定める。


 レナードは後ろに気を配りつつ、

ルビーの様子を気にかけた。


 そしてルビーは、苦悶の表情を浮かべながら

モンスターの爪を喰い留める。



「い、言われた通りに魔法の準備ができたぞ!?

次はどうするんだ!?」


「じゃあ、私が合図したら魔法を撃ちなさい!

・・・今よっ!」



 大きな声でそう言いながら、

ルビは渾身の力を込めてハイドラットを蹴り飛ばす。


 人の背丈ほどはあるはずのモンスターの体は、

意外にも軽々と天井近くまで飛び、

壁にかかっていた松明へ叩きつけられた。


 その直後、ドロシーが指示の意味を理解すると共に

構えていた魔法を放つ。



「そういうことか! 【フレイム・ショット】!」



 ドロシーの放った炎はほんの一瞬だけ周囲を照らしながら

モンスターへと命中する。


 ハイドラットは炎に包まれると、

断末魔すら上げることなくすぐに燃え尽きてしまった。



「はぁ、はぁ・・・。 よくやったわドロシー。

レナード、後ろはどう?」


「さっき炎で一瞬照らされてましたが、

何もいなかったみたいです。」


「じゃ、じゃあ今ので終わりなのかい・・・?

た、助かった・・・。」


「まだあんまり気を緩めないでよ?

早く進まないと次のモンスターが

前から後ろから湧いて出て来るんだもの。」


「地上では全く見ないモンスターでしたね・・・。

教習所ではさすがにダンジョンに出て来るようなモンスターまでは

習いませんでした。」


「ダンジョンに出てくるモンスターは

そこらのとまるで違うの。

これであんたたちも良く分かったでしょ? さあ行くわよ。」


「いや全くだね・・・。 話に聞くのと実際に見るのとでは

天と地ほども差があるものだ・・・。」


「ダンジョンにはこんなモンスターがゴロゴロと・・・。

マイナさんたち、どうか無事でいてください・・・。」



 地上とは比べ物にならないほどの危険を

なんとか退けたレナードたち。


 果たして、無事にマイナたちの元へ

辿り着くことができるのか。

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