その6 ドロシーの祝福

「私の出身はこの大陸の首都レウディオスでね、

ごく普通の家庭で育ったんだ。」


「首都・・・? 名前しか知らないわ・・・、

レナード君は行ったことあるの?」


「いいえ、僕もまだ・・・、ドロシーさんは

首都からここへ来たんですか?

かなり離れてますけど・・・。」


「ああ、正直言ってかなり無茶な旅路だったよ、

ここまで辿り着けたのは奇跡だった・・・。

そして、なぜ私がそんなことをしたのかと言うと・・・。」



 ドロシーは呼吸を落ち着かせるように大きく息を吸い、

そしてゆっくりと吐き出してから言葉を続けた。



「この国のお偉いさんに命を狙われているからさ、

私の知った様々な『秘密』を闇に葬るためにね。」


「命を・・・? 本当に・・・?」


「もしかして、『女神の祝福』で

知ってはいけない秘密を知っちゃった、

とかが原因なんですか?」


「大まかにいえばそうだが、

恐らく君たちが想像しているのとは少し違うかな、

私は最初、この『女神の祝福』を使って国に貢献していたんだ。」


「貢献?」


「そう、私がこの祝福に目覚めたのは

もうずいぶん前の話だ・・・。

私は他人の秘密を暴くのが大好きでね、当時からよく秘密を探していた。」


「それは・・・、随分と過激な趣味ですね・・・。」


「ふふ、危険ではあったがやめられなかったよ。

そのうちに私は祝福に目覚め、

そしてどこからかそれを知った偉い人が私をスカウトしに来た。」


「スカウト・・・、それはどういう役目として?」


「簡単に言うと厄介な存在の秘密を掴むお仕事かな。

そして同時に私の厄介な秘密も隠してくれる約束だった。

・・・もちろん、この胸のことさ。」



 そう言いながら、ドロシーはローブをめくって

豊満な胸を曝け出す。


 マイナは納得したように頷くだけだったが、

レナードの方は顔を赤らめながら視線を逸らしていた。



「この祝福に目覚める少し前からだったかな、

胸が膨らみ始めてきたものだから、

それを必死に隠して生活していた。」


「・・・大変だったでしょう。

私にもその苦労は良く分かるわ・・・。」


「ああ、ありがとう・・・。 話を戻すが、

その秘密も知られている以上は大人しく従う他なかった。」


「まあ・・・、そうするしかありませんよね。」


「・・・というのは半分建前で、

他人の大きな秘密を知れる機会が手に入り、

なかなかに心が躍っていたものだ。 それに給金も良かったし・・・。」


「そ、そうなんですか・・・。」


「しかしこの生活は私にもかなりのリスクがあった。

先ほども言った通り、秘密を暴く相手に

私自身の秘密を曝け出す必要があるからね。」


「・・・そっか、秘密を暴くために秘密を差し出せば、

それを繰り返す内に多くの人へ知れ渡ってしまうから・・・。

私たち巨乳にとっては一番やっちゃいけないことよね。」


「そうさ。 手っ取り早い方法ではあったが、

すればするほど漏れるリスクが高まる。

そしてある日とうとう私の秘密はバレてしまった。」


「それで逃げてきたんですか?」


「うん。 私の立場は一転して

危険な秘密を大量に握った危険人物となったからね。

雇い主を含めて多くの人間に狙われ始めたのさ。」


「こんな離れた場所までよく逃げられましたね・・・。

モンスターに出会ったりとかは・・・?」


「旅の心得はなかったが、モンスターへの対処法は少しだけ覚えがあった。

何よりも、狙われていることに気付いて

最低限の荷物だけを持って町を離れることができたのは特に運が良かった。」


「なるほど、あなたの状況は一応分かったわ。

それで・・・、一体私たちに何を頼みたいの?」


「そうだね、単刀直入に言うと・・・、

君たちと一緒に旅をさせて欲しい。

私一人ではこれ以上逃げるのは無理だと思ったんだ。」


「え・・・?」


「巨乳の女性とその逃亡を助けた少年、

誰かと一緒に逃げるなら君たちしかいないと思って待っていた。

君たちの危険は確実に増すが・・・、どうか頼む、この通りだ!」



 頭を下げながらドロシーにお願いされ、

二人は呆然と顔を見合わせる。


 相手はマイナと同じくこの世界において罪人と言える胸の持ち主であり、

そのうえ多くの秘密を握っているために

多くの人間から狙われている危険な人物だ。


 それを考えれば同行など避けるべきではあるものの、

やはりと言うか、ここまで話を聞いた二人が

そう簡単に切り捨てられるはずもない。



「・・・マイナさん、どうしましょう・・・?

その・・・、正直に言うと危ないとは思うんですが、

ここで見捨てたくは・・・。」


「・・・私としては、レナード君の決定に従うとするわ。

私もあなたの旅に同行させてもらってるようなものだし。」


「ありがとうございます・・・。

じゃあドロシーさん、これからは一緒に旅をしましょう。」



 レナードがそう言うと、

頭を下げ続けていたドロシーはゆっくりと顔を上げた。



「本当にいいのかい・・・?

私の存在がバレれば間違いなく追手が差し向けられるよ・・・?」


「今だって似たようなものですよ、

僕の手配書だってあるんですから。」


「これからは胸の大きな者同士、仲良くしましょうよ。」


「ふ、二人とも・・・。」


 少し照れたように笑う二人の言葉に、

ドロシーは今にも泣き出しそうな表情となる。


 そして感極まったのか、次の瞬間

二人へ抱き着くように飛び掛かった。



「ありがとう・・・! 本当にありがとう・・・!

本当のことを言うとずっと心細かったんだ。

味方と呼べる人間は誰もいなかった・・・!」


「それは人の秘密ばかり探ってたせいもあるんじゃないかしら?

まあ、ともあれ同じ秘密を共有する人がいるっていうのは

私も安心するわ。 これからよろしく。」


「僕もよろしくお願いします・・・。

だからその、ドロシーさん、少し離れて・・・。」


「もう少しだけこのままでいさせてくれ・・・。

こんなに安心できたのはいつ以来か・・・。」



 目じりに涙を浮かべながら、

二人を固く抱きしめるドロシー。


 マイナは少し困ったような笑みを浮かべながら、

レナードは身体を押し付けられている状態に頬を染めながらも、

とにかく二人はしばらくされるがままとなっていた・・・。


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