②
「僕が神隠しの事を調べていく中であることに気が付いた」
「あること?」
「上条村で神隠しにあったとされる記録が残っている人達は、全員女性か子供だということだ」
「別に珍しいことではないのではないかしら。あくまで、神隠しかもしれないと言われているだけで、事件事故で失踪している可能性をあるわけでしょ」
「だとしたら、なぜ男性がいない。絆の言う通りなら、男性が含まれてもいてもおかしくない。なのに、記録にはない。なら記録されていないだけで、本当はいるのか。それも、考えらえるが、ここは記録が真だと考えてみる。ならこの神隠しに遭うのには条件があるのではないか。その条件とは女性もしくは子供のみだと」
「そういうものの多くはそうじゃないの?」
「そうだな。そういったことに巻き込まれるのは、子供や女性が多いのは否定しない」
「なら、別にあなたにとって何も驚くことはなかったはずよね」
だが、こうして怜夜は私に説明している、ということは何かしらの関係があるという事。でも、そこから先が判らない。ここから怜夜は何に導きというのか。
「そうだな。僕自身このことに気が付いても、やはり他の事例と似たようなものだと思った。だけど、上条村には、他と違う点があった」
「…例のお堂ね」
「そうだ。あのお堂の存在がどうしても俺は関係がある気がしてならなかった」
確かにあのお堂には何かある気がしてならない。幽霊の正体を知るきっかけも、あのお堂だった。やはり、どうしてもあのお堂が付いてくる。だが、あのお堂は一体何のだろう。
「あのお堂の意味は何なのか。その意味を問う前に、あのお堂を管理しているのか誰なのか、覚えているか、絆」
「薬地英子さんも旦那さん、薬地政さんでしょ」
そのくらいは覚えている。
「そう。そして、薬地政さんは僧侶だ。戒名は
「僧侶? ということは、あのお堂はお寺ということ?」
私の言葉に対して、怜夜首を横に振る。
「いや、あそこがお寺であるという事実はない。もし、あそこがお寺だとするならば、やはり何かしらの痕跡があったはずだし、村の人達が知らないはずがない。ただ、あのお堂を薬地政さんが住職をしているお寺が代々管理しているというだけらしい」
「そのお寺は隣町にあるのよね? 村とは関係のない隣町の住職がわざわざ管理しているというのはおかしくないかしら」
上条村の村民が管理するのなら判るが、何故わざわざ隣町の寺が管理しているのか。やはり、あのお堂には何かあるのだろう。
「絆もあの村を見て判ったと思うが、あの村には寺はない。つまり、隣町のお寺が檀家の家がほとんどだ。これは、昔からの事だそうだ。だから、上条村とお寺は繋がりがある。管理しているのが、その住職であってもまあ判る。しかし、そのお堂がお寺でもなんでもないもの、用途不明なものを管理しているのは何故かという疑問が出る。そこで、僕はそのお堂と神隠しを繋がらないかと、妄想を飛躍させてみた」
そこまで言うと、怜夜はメロンソーダを飲む。本当に美味しそうに飲むが、早く先を喋りなさいよ。
「住職が管理しているお堂と女性や子供が失踪する神隠しこの二つを繋げると、思い浮かぶものは何か……」
怜夜は妄想の詳細を喋る。そこで、私もその妄想の関係を思考してみる。その妄想に付き合うと、私のなかで閃きにも近いものが降りてきた。
「まさか、駆け込み寺…」
ほとんど呟きにも近い、誰かに向けて発したわけでもない、その言葉を怜夜には聞こえたらしく、満足のそうにパフェを食べた。なぜ、そこでパフェを食べる。それでは、私の言葉に満足したのかパフェの美味しさに満足したのかどちらか判らないじゃない。
「どちらかといえば、今でいうシェルターみたいな役割の近いと思う。あの用途不明なお堂からしても、人に知られるとまずいという意図が感じられるからな」
「つまりあそこは、家庭から逃げたい女性子供を逃がすためのものだということね」
「ああ。今でこそ、そういった機関や施設があるが、昔はそんなものは少なかったと思う、ましてや、こんな地方の方ともなれば猶更だろうな。どういった経緯かは判らないが、隣町の住職がこの山でお堂を建て、そういった行為をし始めた。表立ってできない理由でもあったのかは判らないが、それは秘密裏に行われた。そして、その寺の住職が代々それを行ってきた」
「怜夜がそう考えた理由は、あのお堂にあった隠し部屋の存在ね」
「そうだ。あの部屋の発見がなければ、僕がこの考えに行きつくのはこんなに早くはなかっただろう。そういう意味では、日葵に感謝だな。あいつの直観は相変わらず鋭いよ。あの隠し部屋は文字通り人を隠すための用途だ。多分、逃げた人物がそこに隠れ、逃がす人物とそこで落ち合うのだろう。今のように電話で直接やり取りできないから、あそこの隠し部屋の存在を知っている事が、合言葉の意味にもなっていたと思う。あんな仕掛け、事前に知らなければ判るわけもない」
日葵の直観は私も素直に称賛に値するものだ、その直観に助けられたこともある。
あの隠し部屋の存在がなければ、あのお堂の意味を知ることは出来なかった。あの隠し部屋の扉を開いたことで、隠されていたものが明るみになったわけだ。つまり、失踪したと思われていた人達は、自らの意思で失踪したということになる。ならば、神隠しということになっているのは、どういうことなのかと思案する。
「神隠しは、隠れ蓑ということね」
「相変わらず、察しがいいな」
その言葉は素直に受け取っておくわ。けれども、パフェを食べるスプーンで私を指すのは止めなさい。私は、それを言葉にすることなく視線で指し返し、話を続ける。
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