十一人目の主

私は、不老不死のごく普通のメイドです。




西暦2077年。

私は、十一人目の主人にお仕えするようになりました。

今度のご主人様は、この国の大統領です。

当然ながら邸宅は大変広く、そしてとても豪華でした。

外から見る分にはただ豪華だなで終わりでも、それを維持するのは大変です。

何よりご主人様の身の回りのお世話もしなければならないため、本当に全く身を休める暇がありませんでした。

ご主人様は私の他にも数十人の使用人を雇っておられたのですが、それでもギリギリ成り立っているという感じでした。

何かしらの問題や事件が起きればその度に対応に追われるのですが、これがまた頻度もパターンも多く…

本当に大変でした。



しかし…

正直な所これくらい忙しい方が、お仕えしているという感じがしていい気がします。

これまでの主人は、お仕えするのは(多少の差はあれど)ここまで大変ではありませんでした。

もちろん、業務が楽なのは助かります。

でも私は、定期的に、そして確かに感じていたのです。

…同じような、退屈な日々を延々と繰り返し続ける事に対する空しさと飽きを。


2091年、ご主人様は大統領を退任されました。

色々とありましたが、あっという間の14年間でした。

激務続きだったものの、テロや暗殺などの事件に巻き込まれることもなく、任期を終えることができたのは、とても幸運な事だったと思います。


2105年、どんな病気も治療できる万能医療が確立されました。

さらに2108年には体の老化を限界まで遅くする技術が確立され、人生300年時代という言葉が出来るまでになりました。

勿論ご主人様も、その恩恵を受けられました。

私は内心嬉しかったです。

これからは、同じ主人に数百年お仕えできるというのはとても喜ばしいことでした。

誰でも容易に長生きが出き、しかもかつてのように、黒死病や結核などの病に苛まれる必要はないなんて…人類の技術の進歩とは、なんと素晴らしいものなのでしょう。


…ふと気になりました。

限界まで進歩した時、人類はどうなるのでしょうか?

もし私にそれを見る資格があるのならば、それを見届けたいなと思いました。


2187年。

ご主人様は、試作型のタイムマシンに乗り込まれたのですが、帰ってくる事はなく、そのまま行方不明になりました。



私の十一人目の主人は時空の狭間の中に消えました。

私は過去を振り向く事なく、今を懸命に生きました。

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