八人目の主

私は、不老不死のごく普通のメイドです。




私は前の主人だったお嬢様のご子息にそのままお仕えしたため、以前のように新しい主人を探し歩く必要はありませんでした。

さて、今回のご主人様はとても勤勉で真面目な方でした。

公立の学校に通われていたご主人様は、飛び年こそされませんでしたが、それでも私からすればとても優秀な方でした。

長らく尾を引いていた恐慌の影響がほぼ消えた事で、家の家計もだいぶ楽になっていましたし、景気も以前に比べるとかなり良くなっていました。


それもあってか、ご主人様は中学生の時には大学に入学することを希望され、これまで以上に勉学に励まれるようになりました。


そして、1998年。

ご主人様は無事、大学に入学されました。

しかしご自宅から遠い所にある学校でしたので、ご主人様は学生寮に入られました。

私としては、ご主人様が大学に入学なさる事自体は嬉しかったのですが、会えなくなるというのは何とも…


あの方にとってはこれでよかったのかも知れません。

しかし、私は何か、心に穴が空いたような感じがしました。


とは言え、3年後には帰ってきて下さるでしょう。

それに、長期休暇にはお帰りになられるはず。

なので、もう会えない訳ではない。

自分にそう言い聞かせ、心を落ち着かせました。


ご主人様は長期休暇の度、必ず帰ってこられました。

2年目の夏に帰ってこられた時、私は酒の席で昔話をしたのですが、そんな私を見て、ご主人様は笑って「相変わらずだな、お前は」と仰いました。

この時、何か懐かしさを感じたのはなぜだったのでしょうか。


そして2001年にはご主人様は大学を卒業され、海外の大手企業に就職されました。

空港でご主人様を送り出した時、私は寂しさと喜びの入り交じった、複雑な気持ちになりました。




しかし、それ以降ご主人様に会う事はありませんでした。

2001年の秋、飛行機がビルに突っ込む事件が起きたのです。

まさかと思い調べてみた所、被害にあったのはやはりご主人様が働いていたビルでした。

そして、私達の望みもむなしく…

1ヶ月後、ご主人様が亡くなられた事が知らされました。






私の八人目の主人はテロに巻き込まれ命を落としました。

私は主人の五つ下の弟様にお仕えして、生き続けました。

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