男の少ない世界〜僕のスキルは速読でした〜

あに

第1話 異世界転移


 僕はバッドエンドが嫌いだ。


「今回のはハズレか」

 本を持って売る方の本棚へ入れる。

「なんでバッドエンドになるんだ?あそこならハッピーエンドに持って行けただろ」

 なんなら続いてくれた方がよかった。


「はぁ、やっぱ読み終わったあとの爽快感がないとなぁ」

 お気に入りの棚から最終巻だけ抜くとそれを読み出す。何度も読んでいるから最終巻だけで十分満足できる。

 そして泣ける。

 良かったって思える様なハッピーエンドに心からありがとうと思う。


「あぁ、こんな旅をしてみたいなぁ」

 僕がこの物語にいてもただのモブだけど、僕だけの物語は僕が主人公で……。

「なんてなぁ」


 ふと周りが外になっている?座っていた椅子も机もなくなっている。

「え?」

 ドテッと尻から落ちた痛みだけが身体に残る。

「いやいや、痛いし……す、ステータス」

 ステータスなんて出てこなかった。いや、本当にどうなってるんだ?


 ふと持っている本が変わっていることに気づく。書いてあるのは見たことない文字だけど頭の中に入って来る。

「ふぁあぁぁぁ」

 ページの最後がめくり終わるとゆっくりと本は消えていった。


「はぁ、今度こそステータス」

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 忠野 健人

 二十一歳 

 レベル1

 力 F

 体 F

 知 E

 速 F

 魔 E

 

 スキル 速読 


 ユニーク 異世界言語 アイテムボックス 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「やっぱり異世界転移ってやつか、それにしても酷いステータスだな。スキルも速読って、俺読むの遅いし」

 じっくり読む派の僕が速読なんていらないだろ。


 しかもジャージの上下に裸足だし、これ詰んでるでしょ。

「あの?どうかしたんですか?」

「へ?」

 振り返ると綺麗なブロンドの髪、茶色の瞳に幼い顔立ち、軽鎧かな?大きな胸が目を逸らさせる。

「あ、あぁ、き、気づいたらここに居て」

「え?もしかして渡り人様ですか?」

 渡り人…様?ここでは異世界人は珍しくないのか?

「は、はい!たぶんそうなると思います」

「そうですか、なら街までご案内しますね」

 手を差し出してくれるのでそれを握り返す。

「あ、はい!ありがとうございます」

「フフッ、私はフレイヤと言います」

 僕は立ち上がりながら尻をはたき、

「僕はケントと言います」

 フレイヤさんは僕より少し低いくらいだから170は無いだろう。


 草原だなぁ。

「フレイヤさんは何をしにここに?」

「薬草を取りに来たんですよ。そしたらケントさんが座ってウンウン唸っているので」

 薬草かぁ、スキルとかレベルがあるんだし、ポーションとかもあるんだろうな?

「や、薬草ってどう言うものですか?僕、お金とか持ってなくて」

「薬草はこれですね、あと渡り人様は国から補助金が出るんで大丈夫ですよ?」

「あ、そうなんですか?それでも僕も薬草をとっていっても良いですか?」

 もし渡り人認定されなかったら僕は無一文だし。

「いいですよ、ほらそこにもありますから」

 指差した方向に薬草らしき草がある。丸い葉っぱで他とは違う。

「葉っぱだけ摘んでくださいね」

「はい!」

 耳元で囁かれビックリした。フレイヤさんの距離感が近いな。

 

 それから薬草を見つけるたびアイテムボックスに入れて、街の方に向かう。

 裸足のことを聞かれて背負われそうになったが、大丈夫だと言ってこのまま歩いている。たまに小石なんかが痛いが、久しぶりに外を裸足で歩いた。


「大丈夫ですか?私、力ある方なんですよ?」

「いや、いいですから、街に着いたら靴を買うんで」

「そうですか、キツくなったらいつでも言って下さいね」

 キツくても言いません。だってカッコ悪いしね。


 街は城壁に囲まれていて、遠くからでもよく分かった。

「あ、あれですね?」

「そうです。あれがテポッドと言う街になります」

 へぇ、あれだけデカいのに大丈夫かな?


 門の前の橋に着くと並んでる人を追い抜いていく。すいませんと謝りながら横を通っていくと門の前にすぐ着いた。

「冒険者のフレイヤです。渡り人様をお連れしました」

「わ、渡り人様だって!こりゃ大変だ」

 門番の女の人がわちゃわちゃしている。

「兵士長を呼んできてくれ」

 フレイヤさんは胸を張っているのでおかしなことではないのだろう。


「中でお待ちください、フレイヤも一緒にな」

「はい」

 僕は後に続いて門の中に入っていくと、部屋がありそこの椅子に腰掛ける。

 石造りの部屋だから少し冷たい感じがするが、日の光が入ってくるのでそこまで閉塞感はない。

「お、お待たせいたしました!兵士長のブランドゥです」

 金髪のイケメンが慌てて入ってくると、服装を正して敬礼をする。

「冒険者のフレイヤです」

「ケントと言います」

 二人とも立って挨拶をする。

「あ、座って下さい。冒険者のフレイヤと渡り人様のケント様ですね」

 

 これまでの経緯をフレイヤと一緒に話し、大きな水晶の様なものに手を触れる。

「間違いありませんね、ケント様を渡り人様と認定します。これから身分証の発行と準備金を用意しますのでしばらくお待ちください」


 身分証などができるまでブランドゥさん達と話をしながらこの街の様子を教えてもらう。

 渡り人と言うのはたまに異世界から来る人のことで、こちらでも貴重なんだとか。この世界は男一に対して女五人ほどの割合らしく、渡り人は全員男だと言うこと、このままだと世界は滅んで行く方向だと言うことを聞いた。


 あと魔法がある事、モンスターがいる事などファンタジー要素満載だと言う事だ。

「凄いですね、僕でも魔法は覚えられますかね?」

「魔導書を読めば大丈夫だと思いますが、結構分厚いですよ」

 ここで僕の速読が役にたつのか!


「準備できた様です。これが身分証と準備金の百万ゼルになります」

「百万?!」

「これでも足りなければまた言ってきてください、なんせ一からのスタートになるんですから」

「あ、そうか」

 日用品や宿など色々考えたらすぐに無くなりそうだな。

「僕も冒険者になれますか?」

「え?渡り人様がですか?前例はありますが」

 ブランドゥさんが口籠るが、

「なれるんですね!やった!」

「あ、あまり無茶はしないでくださいね」

「はい!」


 それからフレイヤさんに色々教えてもらいながら買い物、靴や靴下、替えの下着から全て揃った。

「フレイヤさん、ありがとう」

「いえ、ケント様に喜んでもらえて良かったです」

「様は辞めて欲しいな。ケントでいいよ、僕もフレイヤって呼んで良い?」

「は、はい!もちろん!」

 それから宿を教えてもらい、フレイヤもそこに泊まっていると言う事だった。

「ケント、じゃあ、あとでね」

「うん、助かったよフレイヤ」

 部屋に入るとベッドが一つに机に椅子、シャワーまで付いている。


「ふぅ、やっと休めるな。それにしてもここで何をしろって言うんだ?魔王を倒せとかじゃないし」

 男女比が偏っているのは分かるがそこまで深刻では無さそうだし。

「そうだ、魔導書があったんだった」

 速読でパラパラとめくっていく。本当に頭に入ってくるな。

 魔導書は二冊手に入れた。まずは鑑定、これは兵士長がくれた物。あとは風魔法の魔導書。

 本当は火魔法とかのがかっこいいかなって思ったけど森などでは使い道があまりない様だ。山火事になったら大変だろうしね。


“コンコン”

「ケント?ご飯食べに行きましょ?」

「はぁい!いまいくよ!」

 足だけ洗ってあったので靴下と靴を履いて出ていく。

 フレイヤは普通の格好でとても可愛かったが、腰に剣をさしている。

「ん?剣なんか持ってるけど危ないの?」

「あぁ、常に自分を守るためにもっているだけだよ?ケントも剣を持った方がいいよ」

「うん、僕もそうするよ」

 部屋に戻り、剣帯を腰につける。結構動きづらいな。


 宿は下が酒場の様になっていてそこでご飯を食べる。

「オススメでいいかな?」

「僕はなんでも良いよ」

 エールにオークのステーキ、サラダ、パンがオススメらしい。

「じゃぁ、カンパーイ」

「カンパーイ」

 冷えていて美味い!度数も低そうだ。


「え?じゃあフレイヤは彼氏とかいないんだ?」

「えぇ、いた事ない」

「こんなに可愛いのに?」

「そんなこと言われた事ないし」

 ん?なんで俺はこんな話をしているんだ?

「ま、まぁその話は置いといて、他の渡り人の話を聞かせてもらえる?」

「そ、そうね、十年ごとくらいに渡り人様はこっちの世界に来ていて、いろんな技術なんかを発展させてるわね。このエールが冷えてるのもそうよ?」

「冷蔵庫かー、僕にはなんの取り柄もないからなぁ」

「そんな事ないよ、ケントも何かあるから来たんだと思うし」

「そうだと良いけどね」

 エールを飲み干して笑う。僕にも何か出来れば良いな。


「よう!フレイヤ!良い男連れてるじゃないか?」

「うるさいわよ?男日照りのミーシャ?」

 これまた目のやりどころに困る格好の女の人だ。金髪にちょっと吊り目の綺麗な人。

「こんな女ほっといて私と飲もうよ」

「え?僕は今フレイヤと飲んでるんでごめんなさい」

 ここはフレイヤを立てなければ!

「くっ!じゃ、じゃあまたこんどね!」

「さっさとあっち行け!」

 フレイヤの口調が少し砕けた。



「もう飲めないわ」

「僕もお腹いっぱいだよ」

 フレイヤに肩を貸して部屋まで送り届ける。

「ねぇ?ケント?私じゃ魅力ない?」

「そ、そんな事ないよ。今だってドキドキしてるんだから」

 部屋に連れ込まれベッドに押し倒される。

「じゃあキスして」

「あぁ、いいよ」

 僕はフレイヤにキスをする。

 舌を絡め長く貪り合う様なキス。

 服を脱がせ合いながら胸を揉み突起を転がす。

「あ、あん、もう」


 はぁ、はぁ、と息遣いが荒くなり、僕らは繋がったままキスをする。

「はぁむ、ちゅ」

 出会ったばかりのフレイヤとこんな関係になるなんて僕は別に嬉しいけど。

「いいの?僕なんかで?」

「ケントがいいの。一目惚れってやつかな?」

 僕の下にいるフレイヤはまた抱きしめてきて二人で朝を迎える。

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