第8話 ヘンタイヒゲマント

「《ラロルリリ》ッッッ!!!」

「そーゆうのもあんのね」

「!!! リリリ…」


ビームではなく光の棘が豪雨の如く降り注いでくる。圧倒的優位を確信しておかしくない場面だと思うが、奴さんは俺の余裕っぷりを見てか苦しそうな表情を浮かべていた。


「ほっ」

「リェリ!!?」


迫り来る光の棘を1つをデコピンで弾いて、他の棘とぶつけ合う。コレを繰り返すだけで殆どの棘は俺に落ちてくる前に消滅し、反射して飛んでいった幾つかの棘は加速して宙を漂う堕天使プニプニの身体を貫いた。


「あらら、5秒の間に随分とダイエットが捗ったんじゃない?」

「ァイ…ラロ…」

「もう立ち上がれないか? リナリアさんやワープ直後にぶっ飛ばされてたウチの新米魔王様の様子を見に行きたいし、さっさとしてくれない?」


ドス黒い血反吐を吐きながら地面を這いずる堕天使プニプニは突如起き上がった。


「《ラララリロ》! 《ロルルルリ》ィィィィィィ!!!」

「強化系のスキルも使えるのね! ハイスペじゃない〜」


基本的に魔法・スキルって奴は攻撃・防御・強化・回復の4系統に分けられる。んで、俺は詳しくは知らんのですがこの4系統の内、最初に使った1種類だけ覚えられる…てのが定石らしい。2系統使えるだけでも相当な手練れってな寸法なのよ。


「そい」

「ラ、ルロレル…ァイ…ァイ…」


島1つ消し炭に出来るビームをバレーのレシーブの要領で遥か天空の方へと進路転換してやると、堕天使プニプニは上空のビームを眺めて何か同じ単語を繰り返していた。


「アイレアさんが誰かの名前を呼んでるとか言ってたっけ…よっ」

「ロロ!?」


放心する奴さんの背後にワープして、無防備な心臓を左腕で貫いた。


「あぁ〜しまった! 服汚れるから袖捲っとけば良かったよお」


いくらプニプニ捕獲のクエストで財政が多少潤ったとはいえ、俺とアイレアさんの手持ちは5万ダラー弱。急な出費が嵩めばあっという間に素寒貧の魔王と勇者が出来上がるってな感じ。左腕を堕天使の身体から引き抜いた。


「…ァイ…リレレラロ…」

「もしかしてプニプニ語…的な奴があるんかね?」


普通のカワイイ方のプニプニは『ププ』とか『ニュプ〜』みたいな猫と人の中間みたいな高い鳴き声をしている。あれも何かしら意味があったのか…? 堕天使プニプニは身体が赤い結晶となった後、音もなく割れて粉々になった。


「改造された影響っぽいね…さてさて」


この辺りの土地の魔力の流れを感じとって見ると、魔王様は絶賛戦闘中だが問題はまるでなさそう。村の北のほうで弱々しい生命力5つと2つの魔力を使う存在が改造プニプニと戦っている…此方は少しまずいかも。


「《黄金飛翔軌跡グレイトフル・ムーン》!」



—タビ村・北部—


「リナリアさん! 右!!」

「《光よルクス》!! たああああ!」

「リリリリ…」

「くっ…剣がもうッ!!」

「《守りの加護よガーディアン・ローブ》!」

「助かる!」


通りすがりの祈祷師ヒーラーがいなければ3回は死んでいた。渾身の剣撃も悍ましいプニプニには蚊蜻蛉同然の様子、剣も今しがた中程から割られてしまった。防御魔法を掛けて貰ってはいるが、即死しなければ良い方だ。


「なんなんですか!! 這いずる飛竜ワイバーンだって! キモいプニプニだって! なんで私がこんな目に!!」

「泣き言は後だ、祈祷師!」

「最悪ッッッ…サイアク!!」

「リリ…リリ…」


先ほどのプニプニ程ではないにせよ、目の前の異形のプニプニもまた圧倒的強者だ。Cランクの祈祷師とDランクの騎士である私…そして。


(背後には0-7才の子どもが5人も!!)


「せめてローブの少女かヘンタイヒゲマントが来てくれれば…」

「ヘンタイヒゲマント…来てるの!? あの未知の魔法を使う男が!!」


祈祷師はヒステリックな質問を投げて来た。


「あ、あぁ、来ているが」

「あの男なら倒せるはず…ホント、タイミングがサイッッッッッアク…」


祈祷師は突然自身の頬を叩いて気合いを入れ直すと、大粒の涙達を拭って杖を構えた。


「あのキモいの、私達を侮ってます」

「! わざと死なない様に加減していたのか…」


これ以上ない侮辱だ、だが。


「むしろ絶好の機会だな、時間稼ぎには!」

「皆…私もそっちに、直ぐ…」


キモい笑みを浮かべたプニプニが此方に歩み寄って来る。


「来い、化け物!」



—タビ村・南部—



「《ラリロルレ》リリリラィィィ!!」

「《魔眼解放》!」


筋肉質な改造プニプニ(生理的に無理・マジキモイ)が放つ光線ビームは触手のように無数に地を這い突き上げる様に私を襲う。

が、解放した魔眼の魔力の前に細い光線の数々は雲散霧消した。


「威力は御粗末だな、それに…」


背後に剣を構え頭上からの斬撃をいなす。


「前方下方向に注意を逸らすなど、次の攻撃は背後だと教えているも同然だぞ」

「リレ!? ロロッッ…」


いなしたついでに脇腹と足元を2、3斬っておいた。深く斬り込んだつもりであったが、奴にはそうでもないらしい。


「ラリルレロ…ロロッッッ…ァイ」

「ほお、傷口が完全に塞がったか。相当な回復力があるのだな、キモイの」

「ギャピピィィィゲェェェ!!!」

「何処まで斬り込めば回復出来ないのか試してるのも、また一興か」


異次元からもう一振り魔剣を召喚し交差して構える。キモイのも鎌のよう鋭利で歪な指と腕を交差して構えた。


「少しは私を楽しませて見せろ」

「ロロロロォォォォォ!!!」

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