無名勇者と新米魔王 〜4度目の世界救済はハーレムを作る片手間にやらせて貰いますよっと!〜

溶くアメンドウ

第1話 ドーテイ勇者、新天地へ。

世界を3度、3度も救った。


…もっとも、この事を知っているのは俺が聖邪剣ヴァレヴレヴラで斬り殺した魔王と、闇槍で穿ち殺した八龍帝トカゲちゃん達と、異世界から召喚されたとかいう…何だったかな…ロボッ…ト? だったかな、そいつらだけ。あ、それからシェスタ王国の闇神官長と、古い付き合いの自称神様・・にも事の顛末は話してある。


「んで、聖邪剣と光で満たされた法杖ブライトネス・アルビオン深淵を滅する四鎧アナザー・クラウンと闇槍の4つの天宝アークだけじゃ飽き足らず希少なアイテムやら装備やらほとんど全部献上させられて端金・・だけが手元に残ったわけだ」


穏やかな陽の光と山風が優しく頬と髪を撫ぜて来る。


「割に合わんてえーーー!!!」


骨董屋で仕入れた格安の剣を全力で地面に叩きつける。木っ端微塵に砕け散り、風と共に剣だった粒達は吹き飛ばされていった。


「そりゃあね? 俺のポリシーは『勇者は無名たれ、勇者は無欲たれ、勇者は求めるなかれ』ですよ?? 童話の英雄様に憧れて16から真面目に勇者稼業一本だけを余所見せずに進みましたよ? それでもよ??」


今年で28の誕生日を迎える、それなのに。


「背中を預け合える戦友とか、無名の俺を支えて寄り添ってくれる恋人とか、敵ながら不思議な絆で結ばれた宿敵とか!! 何も無いのも考えものでしょーよ!!!」


人間って奴は、弱いもんだね。心に決めた事1つですら真っ直ぐ死ぬまで貫けないとはさ。


「ま、それで生き永らえて来たわけですし?」


人生60年と言うし、遊び金すらないが兎に角。


「女の子とエッチな事くらいしてぇよ…」


結局、男として生まれたが故の呪い・・か祝福か…年々強まるこの欲望を抑え切るのは中々に骨が折れる。ナニに骨は入ってないらしいけどね?


「とは言ってもどうしますかね? シェスタ王国には暫く入国するなと言われちゃったし、淫魔の国に行っても金無いし…というか淫魔の姉ちゃんには視界に入っただけで全裸で土下座されちゃうし」


強さだけを追求した肉体は、強大な生命力を宿し歩くだけでその力で辺りを威圧するんだとか。《覇者の慈悲》とかいう特性スキルらしいが、ドーテイの最後の生命線をよくも断ち切ってくれたものだ。


「タバコも酒も効かない・・・・俺にどうしろっちゅうのさ」


『光で満たされた法杖』のせいで、何とか言う自動超快復スキルを獲得した俺には身体に害のあるものは無毒化される便利機能が備わっちまってる。装備してない時も効果を発揮するなんてトンだ疫病神・・・だ。あれだけは手放せて清々した気になったのに。


「遠方の冒険者歓迎の国にでも行ってみますかね? 流石にバレ・・なかろう」


シェスタの救世主…世界を3度救った勇者はシェスタ王国の姫様の婿の…えぇと…忘れたが、よく知らん顔が良い馬の骨という事に表向きはなっている。凱旋のパレードとか祝福の宴とかもその馬の骨が主役で開催されましてね(当の本人は味もしない安酒を一本貰っただけである)。踏んだり蹴ったりとはこの事を言うと思う。


「ともあれ、これからは好きな事をやって生きていく! 行くぞ、新天地へ…《黄金飛翔軌跡グレイトフル・ムーン》」


5対の光の翼を一時的に召喚し、空間を連続跳躍する超魔法だ。魔力の無駄遣いでしかないが、完全無敵と化すこの魔法なら不時着とかしても大体無傷で済むので俺は長距離を移動する際は好んで良く使っている。


「待ってておくんなませよ〜、俺の未来の花嫁さんよ!!」


飛び立ち、遥か遠くになってしまった足場の山が粉々になった音を聞きながら新天地を目指して俺はごく僅かな飛翔を開始した。


————


「シエスタ、逃げろ!! せめて、お前だけでも…くっ!? ぐわああああ」

「アランッッッ!! ひぃ」


目の前でパーティのリーダーであるアランが真っ二つに裂かれてしまった。パワーもグランタもグチャグチャに…


「ど、どうしてCランクのクエストに危険度A+の這いずる飛竜ワイバーンが…こんなの…嘘よ…夢じゃないと、おかしいわよ…」


這いずる飛竜は仲間達の臓物を呻きながら啜っている。殺意を秘めた眼差しだけは私に釘付けのまま…次は私だ。


「あ、いや…あぁ」


仲間達と同じところに…グチャグチャに切り刻まれて内臓を啜られて…


「おうぇぇ…あっ…はぁ…いやぁ…」


想像したその瞬間にはお腹の中身を全て吐き出していた。口の中が酸っぱい、最悪だ。這いずる飛竜が興奮しながら私の方へと頭を擡げる。その下半身に熱り立った生殖器をぶら下げて。


「う、嘘…こんな時に…」


聞いた事がある、這いずる飛竜の一種は獲物やその亡骸で繁殖行為の練習・・をするのだとか。


「いや、いやああああああ!!」


逃げなければ臓物を啜られるよりも酷い目に合う。それだけは、それだけは嫌!! 目線の端にグランタの使っていた短剣が見える。


「ごめんね…アラン、グランタ、パワー…私もすぐ行くから…」


仲間の武器で死ぬなんて申し訳ない気持ちになるが、きっと許してくれ…


「!?」


這いずる飛竜の尻尾の一閃が私の掌を貫き、短剣を粉々に砕いた。


「…ハハハ」


視界が霞む、人間の3倍はありそうな体格の化け物が鼻息を荒げて迫ってくる。


「どうして冒険者なんかになっちゃったんだろう」


病気がちな家族の為に大金が必要だったからだ。何で皆病気がちだったんだろ? 皆が健康だったら私1人がこんな目に遭わずに済んだのに。


「あぁ…最悪だ」


化け物の欲望の捌け口にされて、仲間達の亡骸を弄ばれ、愛してる家族を憎むなんて。


「最悪だ、私」


両手を広げ、化け物を迎える体勢を取る。最悪な私にはきっと、罰が必要なのだ。


「来なさいよ、この…化け物!!」

「シャアアアア」

「ッッッ!!」


土煙や紫色の体液や肉片を撒き散らしながら、這いずる飛竜の頭が私の真横に斃れる。


「え、何…」

「…あらら、もしかして手柄横取りしちゃった?」

「ハハ、ハハハハハ!!」

「えぇ、何事??」


這いずる飛竜の骸の上に無精髭をはやした黒髪の男が立っていた。彼がこの化け物を殺してくれたらしかった。


「なんで…」

「なんで?」

「もっと早く来てくれなかったのよおおおお!!」

「ええー」


無精髭の男は偉く困った顔を浮かべていたのを、今でもよく覚えている。

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