第2話 義手
青年は
「便利だな。ここまで簡単に取り付けられる義手など見たことがない。」
「性能も最高レベルだ。君の職業を考えれば、今後十年は研究対象になりうる物だと思うが、どうかね?」
『遺跡』の軽口に青年は答えず、再び自らの疑問を叩きつけた。
「俺は一体どうなった? いや、何があって、こうなった?」
音が途切れた。義手を試すわずかな駆動音が部屋に響く。
義手は樹脂とも金属とも見分けのつかない物質で精巧精緻に作られており、大きさも重さも違和感がない。さらには驚くべきことに感覚まで再現している。
そして手の甲……ここには何かレンズ状の物質がはめ込まれている。
(『
『回路』――エネルギーの供給、練成、増幅などを行うオーパーツ。
相当大ぶりだ。制御できるエネルギー量はかなりのものと見た。
一通り観察し終え、カシャリ、と左手を握りしめた瞬間、『回路』を包み込むようにカバーがかけられた。
不可思議な仕組みに、研究者としての興味が湧いてくる。
そんな様子を見ていたかのように、タイミングよく『遺跡』は語った。
「君は一回死んだのだ。魔獣の襲撃でね。」
「確かにな……。
あんな『
青年の脳裏に最後に見た怪物の姿が思い出された。
名刀すら弾くと言う白銀に輝く鱗を持ち、全身から雷を放つ龍。
噂にしか聞かない怪物と対峙した記憶が蘇る。
恐怖か、それともかつての戦いの高揚か、全身の血がざわめく。
「だが、君は自らの命と引き換えに奴を葬り去った。
それは魔導士として十分誇っても良い事だと思うが?」
『遺跡』は全て見ていたかのように語る。
その通り。
青年は、たった一人、魔法と徒手空拳を駆使して龍と戦い、そして勝ったのだ。
だが、その直後、彼は意識を失い、そして今ここにいる。
青年は気を静め『遺跡』に語りかけた。
「相討ちでは駄目だ。
俺たち『護る者』は勝たなければならない。」
「そうだったな……。『魔導闘法』の教えの一つだ。」
青年はいよいよ大きな違和感を感じていた。この『遺跡』、どうも自分の事を深く知りすぎているように見受けられる……。
「それにしても、全くもって妙な話だな。
何故お前は俺の事をそこまで知っている?
俺には『遺跡』の知り合いなどいなかったのだが?」
青年は探りを入れるように『遺跡』へと話しかける。
その言葉に『遺跡』は意外にも答えを返してきた。
「心外だということは承知で、君の記憶を探らせてもらった。
君が何者で、どういった能力を持つのかはっきりしなければ、施術もままならなかったのでね。」
手術台と思しき寝台に腰を掛けつつ、用意されていた服を着る。
いつも着ている黒い詰襟の制服。
なぜか全く新品のその服に青年が袖を通している間にも、『遺跡』は続けて語りかけてきた。
「君の記憶に関係するが……私は君の父親に会っている。」
「なんだと!?」
一気に気色ばむ青年。
顔の色が蒼白なのは、心中に渦巻く怒りが途轍もない強さ故だからだろう。
「あの男は……今どこだ?」
言葉の端々に怒りを漲らせ、青年は『遺跡』に問いかけた。
『遺跡』はそんな怒りを真正面から受けつつも、静かに、そして冷静に答える。
「彼はここで死んだ。最期に自分の想い人と息子を案じながらね。
もし息子に会うことができたら謝罪せねばならない、とも言っていた。」
「身勝手な!!
そんな真似をするようなら、俺は……俺はっ!!」
『遺跡』からの言葉を聞き、青年は怒りの感情を再び燃え上がらせる。
「あの男は……あの男は母を弄んだ!!
母と将来を誓い合いながら何処かへ遁走したんだ!!
その死体があるなら俺が業火で焼き尽くしてやる!!」
怒りに任せて、勢いよく立ち上がる青年。
大股で部屋を出ようとする彼を『遺跡』が引き留めた。
「やめておきたまえ。
それを行なったところで、君の中に何が残る?
残る物といえば、歪んだ達成感と自己満足の感動だけだ。」
ひとしきり心中の澱を吐き出したことで冷静さを取り戻したようだ。
青年は『遺跡』の言葉を聞きつつ、話の続きを促した。
「すまなかった……話を続けてくれ。
俺の身体に何が起こり、どうやって生き返ったかを聞かせてもらいたい。」
「いいだろう。」
『遺跡』ははっきりそう言うと、語調を改めて話し始めた。
「だが、今から話す内容は、君にとっては悍ましい、忌むべきものかもしれない。
冷静に、そして取り乱すことなく聞いてくれ……。」
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