【完結】婚約破棄の代償は
かずき りり
第1話
「マーガレット・アーク侯爵令嬢!お前との婚約は破棄させてもらう!」
声高々に宣言したのは、金髪碧眼で見目麗しい、我がガーラント王国の第一王子にして王太子のシンス・ガーラントだ。
とりあえず今は王家主催で行われている、学園の卒業パーティ真っ只中。
国唯一の学園、しかも学ぶ余裕があるなんて貴族しかいないわけで、結局貴族のパーティ……しかも保護者がいるとなれば、大規模どころの話ではない。
この後始末はどうしたものかと考えた矢先、殿下は更に言葉を続けた。
「そして私は新たに、ここに居るアリス・ココットと婚約する!」
そう言って、ピンクゴールドの髪に金の瞳をした小柄な令嬢の腰を引き寄せた。
周囲はざわつき、視線を一斉に浴びているのが分かる。
そして私は色々と……諦めた。
否、考える事を放棄した。
「分かりました」
えぇ、分かりましたよ。
宰相であり侯爵の爵位を持つ父や陛下達がご存知かどうかは、考えない。
考えたくもないし、聞きたくもない。
殿下が言っている内容が分かっただけだ。
詳しくは後から父に聞こう。
「待て!」
そのまま踵を返そうとしたところに、更に殿下から声がかかった。
早くこの雰囲気を変えたかったし、私はこんな茶番をおこなうより、行きたい場所があったのだが、どうやら許してもらえないらしい。
「おまえはアリスを虐めていただろう!よってこの国から追放する!」
「それは困りますね」
追放の二文字に、私は振り返り即答する。
色んな意味で、それは困る。
これはもう後始末とか周囲の目とか言っていられない。
殿下のプライドとか王太子問題とか、もう全部無視して良いかもしれない。
それほどまでに、私にとって追放というのは逆鱗だった。
「そもそも誰ですか、その令嬢は。虐めていたと言われても心当たりが御座いませんので、証拠を出していただけますか」
「おまえ!先ほど、わかった。と言ったばかりではないか!」
「わかったのは、殿下が私と婚約破棄をし、新たな令嬢と婚約を結びたいと思っていることがわかった、のです」
私の言葉で眉間に皺をよせ顔を赤らめている殿下を無視して、ココット嬢がこちらに顔を向けてきた。
「心当たりがないなんて、嘘です!私の家が男爵の爵位だからと見下し、殿下と仲良いのが気に入らないからと教科書を破いたり、持ち物を隠したり水をかけたりしてきたではありませんか!」
「なんですか、その低脳な嫌がらせは。そんな足がつきやすい嫌がらせならば当然、山のように証拠がございますよね、ご提示ください」
正直、呆れた。
貴族同士の足の引っ張り合い、特に令嬢達となればその程度は日常茶飯事で、それに対し、どうやり返すか。どう自分の心を落ち着かせるか。
それで潰れていく令嬢も居るが、そういった令嬢は貴族と言えど辺境に領地を持っている人の元へ嫁いで、領地でゆっくりのんびりとした生活を送っていったりする。
ある意味で学園の生活は、自分の向き不向きを見極めることができたりもするのだ。
むしろ、この程度で騒ぐようであれば、嫉妬渦巻く王家ではやっていけない。
嫌がらせと言っても、それは命を狙われるレベルになるのだ。
ココット男爵令嬢もそうだが、その真っ只中にいる王太子は理解をしていないのか、理解をしたくないのか。
この程度の嫌がらせならば証拠を提示して揚げ足をとってしまえば良いだけの話。
実際私は何もしていないので、証拠を捏造しない限り、それは出来ない話で、話の筋をおおまかに理解したであろう周囲の令息令嬢達は不信な目を殿下達に向けている。
この際、周囲の視線は完全に無視した。
王家主催のパーティがどうなろうと知ったことではない。
そもそも壊しているのは王太子なため、後は全て陛下が処理をするだろうと、開き直ることにした。
何か言われたとしても、追放を回避する為で手段を選ばなかったと正直に言えば、父だけでなく陛下も納得するだろう。
それだけの理由が私にはある。
「それで、いつ私がココット嬢を見下しましたか?存在すら知らないのに」
「ひどい……」
ひどいという返事が、私が放ったどの言葉にかかるのか理解できません。
私は事実を述べたまで。
感情を返すのではなく、きちんと話が出来ないとは、そもそもの学びが足りないように思えるので、王太子の婚約者として彼女を選んだ殿下には疑問しかない。
これは陛下の邪魔が入る前に片付けたいが、落としどころをどうしようか悩んでしまう。
もう手続きも何もかも吹っ飛ばして、婚約破棄が決定できないかとさえ考えてしまう。
「存在を知らない?俺といつも一緒にいたアリスのことを知らないわけないだろう」
「知りませんよ。殿下と仲良い人どころか、殿下の行動範囲も知りませんし、知ろうと思ったこともありません」
殿下が眉間に皺を寄せ、理解できないという顔をして、こちらをジッと見ている。
「お前は……私が……自分の婚約者が何をして居るか知ろうとすら思ってなかったというのか?」
「失礼を承知で質問を質問で返しますが、殿下は私が何をしているか知ろうとしていたのですか?」
「っ!……それは……」
「何言ってるんですか!?王子様ですよ!?知りたいと思って当然じゃないですか!?」
「身分で見下されたと喚く人が、王子という身分に憧れて当然という言葉を使うのですか?」
途中から入ってきた低脳な言葉に目眩を起こしそうになり、頭を抱え、つい反論した。
矛盾しかないなら、もう黙っていて欲しい。
「私……そんなつもりじゃ……だって殿下はカッコイイじゃないですか」
「アリス……」
瞳を滲ませ、俯くココット嬢を、愛おしそうな瞳で見つめる殿下。
そんな二人の良いムードを破るように言葉を紡ぐ。
「追放されるのが嫌なので、この場で正直に申し上げさせていただきます。そもそも大前提がおかしくないですか?殿下とココット嬢が仲良いと私が気に入らないと思うわけがありません。そもそも、貴族、特に王家の婚約なんて政略以外ありえません。お互い恋愛しているわけではありませんから、嫉妬のしようがありません。更に言うのであれば、私的に殿下が側室を何人、何十人と侍らそうが、文句を言うつもりもないほど無関心なのです。」
そうよね、と言う呟く声や、クスクスと笑う周囲に居る貴族の令息、令嬢たちは二人に対し呆れたような目線を向けて居る。
それと相反するように驚いた顔をする二人。
ココット嬢はともかくとして、どうして殿下まで驚いて居るのだろう。
そもそも、周囲に貴方達の味方は誰一人としていないと思いますが、それも理解しているのでしょうか。
「大丈夫だよ。何があってもマーガレット様は追放にはならないから」
入り口の方から凛とした声が響き、皆の視線が一斉にそちらへ向いた。
声の主はシンス・ガーラントの2つ下の弟であり、第二王子のラドリック・ガーラントだ。
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