『 』
堂道廻
【第一章】追放
第1話
拝啓、おふくろ様。
ここは物語の始まりとしてそう始めるべきなのだろうか。
それとも無難に『俺の名前は
あるいは様式美に従ってトラックに跳ねられるところから始めるべきか。
しかしどんな始め方をしたところで意味はない。
この物語の主人公である僕の人生は、もうすぐ終焉を迎えようとしているのだから。
異端者として火炙りの刑が言い渡された僕は、処刑台の上で柱に縛られている。
僕の身を焼く燃料となる大小様々な木材に囲まれた処刑台から見える景色は、視界の至るとこで
刑はまだ始まっていない。
では何が燃えているのか?
処刑台ではなく町が燃えているのだ。
火を放ったのは誰だ?
放ったのではない。逃げ惑う人々が落とした松明から燃え移ってしまった。
誰から逃げているのか?
不気味に目を光らせる小鬼、ゴブリンたちだ。
この小さな町は刑が執行される夕刻のタイミングでゴブリンの集団にまさかの襲撃を受けている。
実は僕がゴブリンで彼らは僕を助けにやって来た、なんてオチではなく、彼らと交友がある訳でもない。
彼らからすれば、たまたま略奪に来たら人族の死刑が始まろうとしていただけに過ぎない。
彼らは僕のことなど見向きもせずに、町を蹂躪していく。
逃げ惑う人々をゴブリンたちは容赦なく殺していく。
中央広場の真ん中、僕の目の前で群れのボスと思しきひと際大きいゴブリンと女騎士隊長が戦っている。
いや、正確にはさきほど勝敗が決したところだ。
押し倒された女騎士隊長の甲冑は剥がされ、衣服が千切られ、白い肌が露わになる。
どうやらゴブリンのボスは僕の目の前で、アオカンをおっぱじめるつもりだ。
とんでもなくせっかちなゴブリンに身包みを剥ぎ取られ、女騎士隊長は泣き叫ぶ。
『くっころ』なんてエロマンガみたいなことは言わない。
言えるはずがない。ここにあるのは純粋な恐怖と暴力。間違いなく現実なのだ。
ここで本来ならばヒーローの登場シーンなのだろう。
では、誰がその役をやるのか?
もしその役を与えられるとしたら、異世界からやってきた僕だろう。
死刑執行の最中である僕がここでヒーローとしてヒロインを救うべきなのだ。んが、あろうことか柱に麻のロープで腕を縛られている状態だ。
たとえ縛られていなかったとしてもチートなスキルもパワーも持っていない僕にあんな化け物を倒す力はない。
僕にできるのは暴漢を傍観することだけだ。なんちゃって……。
結論、ヒーローは来ない。
ノーヒーロー、ノーフューチャー。
ああ、異世界で無双しなくてもいいから幼馴染のエルフと冒険したいだけの人生だった……。
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