プロローグ ~回想~

そして五年後、世界規模で伝染症が流行した。

発生源はわからない。ただ、高熱や頭痛、吐き気など様々な症状が現れた。

数えきれないほど多くの人が倒れ、薬が間に合わず、医者が足りなくなった。


この村も例外ではない。


近所の人、親友、そして家族も次々に倒れていった。

俺も師匠と協力して二人で何とかしようと動いていたが、薬も時間も何もかもが足りず、とうとう師匠も倒れてしまった。


「師匠!」

「まさか、俺がやられるなんてなあ・・・」


この村には師匠以上に腕の立つ医者はいない。

師匠が倒れたということは、この村が終わったも同然だ。

俺にはまだ一人で治療する力も、知恵もない。


「と、隣村に・・・!」

「行っても無駄だろうなあ」


隣の村に行くまでに、馬で往復三日はかかる。

こんな状況で、わざわざ医者をどこかに行かせる村なんていないだろうし、罹患した者の受け入れなんてもってのほかだ。


「ちくしょう・・・ちくしょう!」


あのとき俺が師匠の話をもっとちゃんと聞いていれば


もっと薬や薬草の勉強をしていれば


様々な後悔が頭の中を巡る。


「ばかか、お前は」

「あいでっ!」


こぶしを強く握り、大粒の涙を流す俺の頭に拳骨を落とした。


「たとえお前に力があったとしても、一人でできることなんてたかが知れている。自分を追い込むな」

「師匠・・・」

「お前は村を出ろ」

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