目隠しとたこ焼き

@sunaokyo

第1話 天才への試練

 この世の中にアインシュタインやエジソンと並ぶ、歴史に名を刻む真の天才と呼ばれる人は数えるほどしかいないだろう。そんな中俺はその偉人すらも凌駕する天才と言われてきた。俺が彼らを凌駕しているといわれる理由はただ勉強ができるからという理由だけではなかった。俺は見たことを大体一発で人並み以上にこなすことが出来たし、それを繰り返し練習して一週間もこなせば、全国大会でも賞をとれるレベルに上る詰めることが出来た、そう大した努力もせずに…………。そんな俺は周りからチヤホヤされて、お金のある裕福な暮らしをして、周りからも尊敬されて女の子から引く手あまたの人生。だからと言って、天才が一概に幸せと考えてはいけない。天才というだけで孤独好きであるという偏見から来る隔絶、そして何より心の奥底に重りを乗せられるようない感覚がしたのは、俺の進めている研究の企画を完全に丸投げされるとともに、確実に成績を残さないといけないという心臓が張り裂けそうなほどのプレッシャ-。俺はこの時初めて心の奥に圧し掛かる嘔吐しそうな感覚をプレッシャーと言うことを知った。逃げるという選択肢もこの心の気持ちを伝える相手がいないことは僕の初めての失敗を想起させた。しかし、僕には失敗は似合わないらしい……。


 よくある天才は孤独という固定観念を俺は持ち合わせてはいない。なぜなら、自分の一生を差し出してもいいと考えられるほどに大切なものを手に入れてしまったからだ。それは義務教育の時から埋めることのできなかった、心臓あたりが苦しくなる現象を簡単に取り除いてくれた。それが初恋の甘い味を教えてくれた現在の妻の存在だった。今現在も彼女の笑顔を見るたびに鼓動が早くなるのを感じるし、彼女の隣にいるだけで天才としての威圧を感じることなく生活することが出来た。そして、そんな俺の笑顔を作ってくれる毎日に革命を起こしてくれる存在が新しく生命の灯とともに誕生する、それは娘という掛け替えのない存在だ。4歳で少しずつだけど会話ができるようになってきたかわいらしい娘と甘い初恋の味の抜けない妻とともに最高の生活。あっ、そうかこれが幸せというものなのか。しかし、俺は失敗を知らないがゆえに、初めての失敗の恐ろしさを身をもって体験する……………………。


 ある日、妻と娘と三人で買い物に出かけた時のこと。いつもは仕事が忙しくて娘と毎日二時間ほどしかジャレ合うことが出来ていないが、今日は娘と遊ぶために夏休みの課題くらいある量の仕事を徹夜で終わらせてきたので、一日中娘にかまってもらうことが可能になったのだ。そして、タイミングよく妻も休みだったため、三人で買い物に行くことを決めた。今も都会のビルが並ぶ街中を皆で楽しく会話しながら歩んでいた。ここでいつもの流れで娘の後ろに回り込み目元を押さえて、質問する。


「だ~~れだ?」


「パパ、私ね。みんなでたこ焼きパーティーしたい」


 あれ?ここまでの流れを完全に無視するの?あと、そんな言葉教えたか?確かにたこ焼きは娘が大好きだから良く食べさせているが、たこ焼きパーティーなんて俺が高校生の時に流行った言葉で、今はあまり使われていないはずだが…………。


「その言葉どこで知ったの?」


「いや、私の好きなたこ焼きとみんな大好きなパーティーを合わせればもっと面白くなると思ったからやりたいって言ったの」


 鷹の子供はしっかりと鷹の子どもとして育ってくれていたようだ。自分の持っている知識の中から新しいものを作り挑戦しようと姿勢、この子の将来が楽しみでしょうがない。そういえばこの子の将来と言えば。


「とても工夫されていて素晴らしい考えだ。その工夫を大人になるまで忘れずにすればきっと賢い大人になれるよ。そんな立派な大人になった振り袖の姿を今すぐにでも見たいな~」


 自分が科学者で仕事をしていることと天才と呼ばれていることは内緒にしている。なぜなら、自分のお父さんはすごいんだぞと自慢する子供になって欲しくないし、プレッシャーをかけたくないからだ。大人になっても父と比較され続けるのはつらいであろう、だから娘には俺と比較されない道を行ってほしいと考えていたが、流石は俺の娘である。もうすでに科学者や発明家に向いている挑戦的で最高の発想だな。何なら俺を超えてくれるかもしれない。早く大人になった姿が見たいな、タイムマシンでも作ろっかな?


「私がパパに立派な姿見せてあげるね。でも、私がその姿を見せるのはパパを超えてからにするの、だって、私は立派な大人になるから」


「これは大きく出られたわね、あなた」


 妻の俺をからかうような笑顔は今日も可愛らしい。でも、確かにこれは一本と取られた気分だ。何とも可愛らしくも賢い回答なのだろう。そうと決まれば、父の威厳を見せるために簡単には抜かれてはいけないな。これは頑張り甲斐がありそうだ。この時の俺はまだ知らない、知らなくてよかった絶望という言葉を知ってしまう機会が訪れることを。


 大人になる娘の話をしていたからだろうか。気づけば、振り袖レンタルのお店に並んでいた。確かに早く見たい気持ちはあるかもしれないが、流石に気持ちが焦る過ぎている。でも、俺の足が言うことを聞かなかったのは事実。一応将来を見越して予約だけでもしておくか……。


「あなた、流石に時期尚早すぎますよ」


「もしかして私ってもうパパのこと超えてるの?」


 娘のかわいさは世界一だからもう超えてるよって言いたいけど、それだと父としての威厳がなくなるので言うのを辞めておいた。確かに、時期尚早なのは理解している。でも、一応話をなしにはされたくないので、予約だけでも取っておきたい。


「一応服を決めるだけ決めるのは、ありかな?」


 俺は無意識の内に今までにないほどに必死な顔をしていたのだろう、妻に笑われながら承諾をされる。そして、ママが頷いたことを理解した娘がトコトコと自分の好みの服を探しに行く。その後ろ姿はうれしくて寂しくものだった…………。


 娘の選んだ服は赤を中心とした振袖で、狐のような模様の入った柄をしていた。髪飾りにはまるで江戸のお姫様がつけているかのような大量の花のついていた。さらには、神社の巫女が持っていそうなジャラジャラとした鈴までついていた。これは早く見たいけど、早いとそれはそれで悲しいな…………。でも、娘の晴れ着姿が見られるまで俺は死ぬことが出来なくなった、これこそまさに生きるための活力。ここで、お店の人に娘が別れを告げる。


「ありがとうございました。また、会いましょう…………」


 ここまではよかった。俺の幸せがまさに最高潮まで上がった瞬間と言っても過言ではないだろう。しかし、嬉しい状態から一気に絶望のどん底に落とされた時の人の無力さを知ってしまう。


「ぱぱ、今日は楽しかったね」


「ああ、こんな日が毎日続けばいいのに」


 俺は幸せの味をかみしめて過ぎたのだろう。右目から青い一滴の雫が垂れる。今日も俺は幸せを感じているのだな。


「あなた、流石に大げさすぎよ」


 俺たちは来た道をまっすぐに帰っていく。そう、行きは何もなかったから、帰りも問題ないという軽率な判断をするあまり、躓きそうな石ころを見逃してしていたのだろう。バタバタと慌ただしくこちらに向かった走ってくる人の影。「電車にでも乗り逃しそうなのか?」


「うぉぉぉぉっぉーーー」


 走る男の上げる覚悟の決めた時のような咆哮、力強くまっすぐこちらに向かった来る。「きっと腹でも下したのだろう、トイレに急いで駆け込もうとしているのだろう。」平和世界の住人は悲しみがいつ訪れるかも知らず、ただ今ある平和がこの世のすべてだと錯覚する。


 「三人家族~~危ないぞ」


 何を言ってるこんな幸せな世界に危険なんて物は存在しているわけ………………。


 グスそんなちんけな音には感じなかった。何といえばいいだろうここから先は悪夢だった。


「キャアァァァァァァ~~~~~~~~~~~」


 娘を庇って妻が刺される、そんな妻のかっこいい姿を見たのに守ることが出来なかった。俺は何をすべきだったかは、はっきりとわかっていたのに。なのに、なのに、俺は腰が抜けて、終いにはあり得なさ過ぎる事実に衝撃を受けて嘔吐していた。いや、それしかできなかった。初めてのことでも人並み以上に対応できるから調子に乗っていた。何をやってもすぐに成果が出るから対応策など考えたことがなかったし、幸せを奪われたことがなかったから理解ができなかった。相手がな是そんな行動をとったのかも、なぜ俺は今こんなに涙が出ているのかも。「涙はこの上なくうれしい時に出るものじゃないのか?」


 その後、俺以外の家族が蹂躙される所をただただ泣き喚きながら見ることしかできなかった。まるで、4歳児のように…………。














 


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