カッパ捕獲許可書
アオヤ
本当のアイドル
俺は中年のつまらない普通のサラリーマンだ。
生活の為にアセミズながしながらアクセク働いている。
家に帰っても二人の娘と鬼嫁に怒鳴られ、俺の居場所なんて何処にも無い。
ちなみにそんな我が家の夕食の風景は・・・
「あぁ~ 調理するのには時間がかかるのに食べるのはあっという間だね。後片付けはアナタがやってよね!」
夕食後、鬼嫁のいつもの愚痴が俺に突き刺さる。
毎日俺は仕事で神経を擦り減らし、家では鬼嫁に気を遣いヘトヘトだ。
だがここで鬼嫁に何かを言ったところで倍になって帰ってくるだけだ。
食べ終わってボォ〜としている鬼嫁を見ながら俺はテーブルに置いてある食器をシンクに運ぶ。
鬼嫁達はテーブルでお笑い芸人のトーク番組を観てニヤニヤしていた。
その様子がなんとなく気になり、俺もシンクで食器を洗いながらチラチラとテレビを観た。
そこでは80年代のアイドルだった東田瑠美がツッコミどころ満載な話しをしていた。
「タテガミが有るライオンが雄で、タテガミの無いライオンの雌は虎と呼ばれているんですよね?」
東田瑠美は真面目な顔で当たり前の事を言うように呟いた。
「そんな訳ないやろ? 虎は最初から虎で、タテガミの無い雌のライオンはちゃんとおるねん」
司会者の言葉に驚いて知らない世界に迷い込んだかの様な顔するルミリンは幾つになってもアイドルのままのルミリンだった。
80年代、ルミリンがデビューして間もなくから俺は彼女のファンクラブに入会し熱心に応援していた。
ルミリンは生まれつきのアイドルだと俺は思っている。
彼女の顔、スタイル、声、仕草どれをとっても普通の女の人には真似できないものだ。
そんなルミリンを知ったのは・・・
80年代・・・
その頃俺は高校生だった。
高校の英語の先生はウトウトした俺に向かって「IDOLとは何?」と質問してきた。
寝惚け眼の俺はボォッとして「分かりません」と応えるのがやっとだった。
先生はそんな俺を観て
「IDOLとは何にもしない事、テレビに出ているアイドルは何にもしないでしょ?」
なんて言ってた。
俺はそんな昔の事を思い出しながらテレビを眺めている。
『アイドルは何にもしない事』
本当のアイドルは何にもしなくても、そこに居てくれるだけで俺の心をハッピーにしてくれるもの。
今、テレビに出ているルミリンはあれから四半世紀を経てそれなりの姿に成っている。
でも、彼女の輝きは今も変わっていない。
今も彼女は好奇心旺盛に、そして無邪気な子供の様に輝いている。
そんなルミリンがテレビに出ているのを俺はうれしく思う。
「東田さんの『推しの子』とかは誰なんですか?」
司会者からルミリンに質問がとんだ。
「えっ花の子ルンルンですか?好きなキャラクターはですね・・・」
話しの途中だったが司会者が間髪入れずにツッコミをいれる。
「違うわ!推しの子、つまり応援している人の事やねん!」
そんな司会者のツッコミにルミリンはフフフと少し恥ずかしそうな笑顔で応えた。
「最近はそんなふうに言うんですね? 推しの子になるのかどうか分からないですけど、最近私『河童捕獲許可書』っていう資格をとったんですですよ」
司会者はルミリンの変な返しに目をまるくしていた。
「なんですか? その河童捕獲許可書って?」
「えっ、知らないんですか? その文字通り河童を捕まえてもいいですよ~! って云う資格なんですよ」
「河童の捕獲ですか? それって沼の鯉を捕まえるみたいに上手く出来るもんなんですか?」
「ハハハ、まだ先月とったばかりの資格なんで私も是非カッパに遭ってみたいと思ってるんです」
ルミリンの突拍子も無い推しの子を聴いて、俺は洗っていた皿を落としそうに成って慌ててしまった。
そして幾つになっても変わらない、ルミリンの普通の人には理解できない不思議な所が益々好きになった。
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