正欺瞞
小狸
第1話
僕――
思わずにはいられない。
中学一年生の僕でもそう思うのだから、きっと世の中の大人も、同じように思って生きているのだろうと、簡単に想定することができる。
なぜ?
改めて問うまでもあるまい。
令和の世の中には、毎日のように犯罪で満たされているではないか。新聞にはどこでも犯罪行為が列挙され、ニュースでは日夜犯罪行為が報道され、テレビではまるで誇張するかのように犯罪行為を放送している。
中学生ながらに、僕は絶望したものだった。
どうして世の中から犯罪が無くならないのだろう、と。
犯罪――悪いことだ。皆道徳の授業や社会通念を、学校や部活で学び、その上で大人になっているはずなのだ。
にもかかわらず、まるで当然のように、人は人を殺し、人は人を犯し、人は物を盗み、人は人を殴る。
これで「学校の勉強が何の役に立つのか分からない」とか言っている輩がいるのだから、もう始末に負えない。一体学校で何を学んでいるのだろう。意味や意義が分からないなら自分で調べれば良いし、意味がない思うならば行かない選択をすれば良い。自ら何か行動を起こすことなく――世の中の側に変わってもらおうと思っている駄人間たちである。
そういう奴らこそが、将来の犯罪者予備軍なのである。
自分が何のために勉強しているかを理解できない――理解しようともしない、そういう奴らにとって、将来のことなどはどうでも良いからだ。
将来自分がどうなろうと、どうでもいい。都合よく誰かの責任にしてしまえば良い。今までそれで通じてきたのだから。
そんな風に思って――思い込んできた奴らがいるからこそ、世の中から犯罪は無くならないのだろうと、僕は思う。
大人は時に――そんな僕に対して、優しく諭すように、こんなことを言う。
世の中はそんな悪いことばかりではないよ。
良いこともあるよ。
悪いことばかりに目を向けるのは止めようよ。
いや、いや、いや。
冗談だろう。誤解も甚だしい。
そんな大人の甘言に
事実、世の中は悪いことばかりである。
良いことの方が少ないのではないだろうか。
大人たちは――毎日死にたそうに生きているではないか。
子どもを言い訳に離婚をしない親がいるではないか。
必死に死に物狂いで働いて、世界の自分よりも上位の存在に搾取されるだけ――そして挙句、隠れて悪いことをする奴が利益を得、小さな積み重ねは全て、報われないようになっている。
一日だって、犯罪行為のない日があったか?
不慮の事故などを除いて、誰も犯罪を行わない日があったか?
そんな日は、人間が恐らく記録をしてきてから一度として無いと断言することができる。
僕がそんな風に知ったことを言うと、必ず反論が返ってくる。
その中から一つを列挙しよう。
犯罪行為をしなければ、生きていけない人もいるんだよ――というような論調の質問である。
その物言いには勿論理解を示すし、言いたいことも分かる。明日の食事もままならぬ状態で生きてきて、物乞いをして何とか食いつないでいるひもじい人間も、確かにいよう。
しかしそれはそれ――これはこれである。
彼らに「生きること」を強要しているのは、今の世の中の仕組みに違いがない。例えば安楽死が可能になれば、そういう人々は苦しまずに死ぬことができるようになる。
苦しんで生きるよりも、楽に死ぬ方が明らかに簡単だし、誰にも迷惑をかけることがないから――皆そちらを選んで当然である。
まあ結局の所、世の中から犯罪をなくす――などということは不可能なのだろうな、と、僕は思うに至った。
中学生を舐めるな。
それくらい思い至る。
いじめをなくすのと同じくらい難しい。
人は争う生き物だ――と。
もう犯罪をする、規則を破るという機能を有した欠陥人間がいるのだと、そう思うことにしたのだ。
欠陥した大人。
大人はすぐに子どもを批判するけれど、なかなかどうして世の中を
そしてその欠陥した大人になるような者は、中学時代から頭角を現していると言っても過言ではない。
ずるをしている人間、先生の言うことを聞かない人間、規則を無視する人間。
挙句――どうして学校にトランプを持って来てはいけないんですか、などと言う。
そういう人間こそ、世の中に必要のない人間である。
その芽を今のうちに摘まねばならない――もとい、矯正しなくてはならない。
中学、齢十数歳の時点で――もう犯罪者になる人間は決まっている。
大概が親の教育によるものに等しい。
子にとって親は世界に等しい。親になるべきではない者が親になり、その子が子を成し、まるで負の永久機関である。
彼らが全員死亡するか消滅すれば、世の中は良くなるのに。
そう思って、僕は憂鬱な毎日を過ごしていた。
いつまでも静かにならない全校集会と「皆が静かになるまで〇分かかりました」などと教師から言われる毎日である。下らない、実に下らない。下らない奴らに付き合うのも実に下らないが、集団生活のためには仕方がない。
しかしだからと言って、大人が頼りになるという訳でもないのだ。
ちゃんとしろ――しっかりしろと我々に強要する癖に、存外しっかりしていないのだ、大人たちは。
できないことを、子にやれと言っている。
その証拠に、どれだけクラスメイトたちの迷惑行為を告げ口――所謂チクリをしたとしても、そのクラスメイトが糾弾されることはなく、断罪されることもなかったからだ。
悪いことをしているのに、他人に迷惑をかけているのに、どうしてこいつらはのうのうと生きているのだろう。
それが心底、苛ついた。
苛ついたからと言って――どうすることもできない。
憂慮し、憂鬱し、鬱屈し、屈折し。
それでも僕は、毎日生きていた。
そんな時だっただろうか。
(続)
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