乙女ゲー世界に♂転生♂したけど悪役令嬢が気の毒なので悪役王子を目指すことにした(14)
「私たちだけお父様、お母様と夕食を摂れるっていうのも不公平よね」
「仕方ないのでは? 側室も一緒となれば、特に母上は気まずいでしょう」
夕食の席に呼ばれているのは同母の姉弟だけだ。
つまり、俺とエレオノーラだけ。異母である弟は実の母親と夕食を摂っている。
側室とその子の住処は後宮だ。
男子禁制の女の園。
中で生まれた一定年齢以下の男子と、国王だけが例外として出入りを許される。
後宮の主は正妃である俺達の母であり、建前上は妃同士の仲も良好に保たれているものの、実際のところはまあバチバチもあるだろう。
「誰だって自分の子供にいい位置について欲しいですから、派閥も分かれますよ」
「私が言いたいのは、あなたはそれがわかっていてあんな側近の選び方をしたのか、ってことよ」
テーブルに肘をついて黒幕のポーズしながら「その通りだが?」とか言いたい。
「俺がレモンと作った菓子は父上、母上にも好評だったでしょう?」
「じゃなくて。どうして有望株を選ばなかったの?」
「偉そうで気に食わない奴がいたのが理由の一つですね」
「ああ、まあ、誰のことかはだいたいわかるわ」
わかるんかい。
「後は単純ですよ。どうせなら弟につけてやりたいと思ったんです」
「あの子に王位を譲るつもりなの?」
「生まれの差で王になれるかが決まってしまうのはつまらない、とは思いますね」
これは本音だ。
できれば弟に譲りたいと思っているが、タダで譲ってやる気もない。
無能が王位についたら苦労するのは下の人間だ。
弟が才能を示せないなら俺が指名されるのも仕方ないし、その時のために勉強はしておきたい。
「つまり、完全に降りたつもりはないのね?」
「判断するのは父上達ですからね。いろいろ考えてはいますよ」
俺は「というか」と続けて、
「姉上はどうなんです?」
「私?」
姉弟だけあって親近感を覚える青い瞳が瞬き。
「姉弟だからって派閥が同じとは限らないでしょう。俺の真意を聞いてどうするんです?」
「別に。私だって自分の身の振り方を考えないといけないでしょう?」
基本的に、王位を継ぐのは直系の男子だ。
俺も弟も死ぬような自体になれば女王の即位もありえるが、姉が国を統べる事はみんな考慮していない。
女性王族の務めは嫁いで国を安定させる事だ。
高位貴族に王女が嫁ぐ事で関係を強固にし、反抗の芽を摘む。
パトリシアもそうだが、高貴な女子は政略結婚の道具だ。
「姉上も側近選びでバランスを取ったでしょう」
「そういう事をこの子達の前で言わないでくれるかしら」
軽く睨まれた。
同席している者の中にはエレオノーラが自分で選んだメイドが含まれている。姉が9歳で、メイドは現在13歳。
姉が側近として選んだのは騎士志望と文官志望の二人だが、このメイドは実質「三人目の側近」だ。
見た目の人数を絞ったのは俺や弟よりも目立たないようにするため。
俺達が二人ないしは三人以上を選べば釣り合いが取れるようにしたんだろう。
「メイドの指名なんて羨ましいです。俺のところにも誰か来てくれないでしょうか」
「好きに雇えばいいでしょう。あなたに仕えたがるのもなかなかの趣味だと思うけど」
「親戚筋を王に迎えて姉上が正妃になるルートもありますよね」
「お父様がそれを選ぶとしたら、あなたたちの努力が足りなかった時よ」
まあ、そりゃそうだが。
「最年長の姉上が俺達の頭を押さえる事にならないよう、振る舞いを加減してますよね?」
「……はあ。なんていうか、黙って腹のさぐりあいしてたのが馬鹿馬鹿しくなってきた」
姉がため息と共に会話を投げた。
「要するに私たち、二人して遠慮しあってるわけじゃない」
「いいじゃないですか。野心なんて持ちすぎると破滅しますよ」
「まあ、そうね。何事も適度が一番だわ」
探り合うような空気が弛緩し、和やかなムードが訪れる。
王族同士、腹を割って話せる機会はあまりないが、どうやら姉は信用してもよさそうだ。この歳にして全文演技だった場合は知らん。俺の敵う相手じゃない。
「で、姉上は俺とあいつのどっちにつくんです?」
「どっちにもつかないわよ。……少なくとも私自身は、ね」
「情勢の変化と、結婚相手の派閥次第ですか」
「ほんと、めちゃくちゃ話しやすいわねあんた」
俺的には人生一周目でそんだけ考えてるあんたがめちゃくちゃ怖いんだが。
俺はラノベ知識と前世の人生経験を活かして立ち回っているっていうのに。
「あんただってエルメス公爵家がついてるんだから十分でしょ?」
「まあ、パトリシアが俺に愛想をつかさなければの話ですけどね」
「そこまで考慮に入れてるわけ? さすがにそれはないと思うけど」
「わかりませんよ、そんな事」
「わかるわよ。だってあの子……いや、いいわ。これは言わないでおきましょう」
意味ありげに言葉を切りやがって。
「最終確認よ。お父様の政策を否定するために敢えて現体制から距離を取った──わけじゃないのね?」
「今のところ『国をこうしたい』とかはありませんよ。父上の治世は安定していますし、大きく否定する理由もないんじゃないですか?」
宰相の息子と騎士団長の息子を弟に流しつつ、公爵家の庇護は受ける。位の低い家柄の者を重用し、柔軟な思想を強調。
……なるほど。首尾よく俺が王になれば主流派の交代劇が起こりかねないな。
となると、それを狙って俺に近づいてくる奴も今後出てくるか。
「強いて言うなら兄弟仲は良い方がいいと思います。……兄弟喧嘩が望みの奴には痛い目を見てもらわないといけませんが」
「同感よ。あなたと意見が合って良かったわ」
俺的には家族とまで腹の探り合いとか面倒だから嫌なんだが。
「姉上。最近はどうです? 割と忙しそうですが」
「八歳でお披露目をしてからはまあ、それなりに忙しいわよ。でも、あなたたちの場合は私の比じゃないんじゃない?」
王族がパーティ等に参加を始めるのは八歳を迎えてから、という習わしがある。
そのため八歳の誕生日が貴族社会への『お披露目』として扱われる。
そのくらいの歳になれば病死の可能性もかなり低くなるので「今度ともよろしく」と印象付ける事になる。
「面倒ですよね。めちゃくちゃ肩凝りそうじゃないですか、ああいうの」
「それに関しては私の方が大変よ。ドレス着て背筋伸ばして笑顔浮かべてなきゃいけないのよ?」
「ははっ。姉上はスーツとネクタイの窮屈さを知らないからそんな事が言えるんですよ」
「はあ? あなただってヒール付きの靴での歩き方も、頭に本を置いて歩くのがどれだけ大変かもしれない癖に」
「なんですか」
「なによ?」
にらみ合う俺達。男として「女の方が大変だ」という主張には抵抗しておかなければならない。
と。
姉のお気に入りであるメイドの少女がぷっと吹き出して、
「お二人はとてもよく似ていらっしゃいますね」
「「は? どこが?」」
期せずしてハモった俺達は一瞬にしてバツが悪くなり、仏頂面をして黙る事になった。
そうして、あれこれやっているうちに月日は瞬く間に過ぎていって──。
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