第十章 織姫絆桜V2 編
第1話 鏡の前に自信持って立てるようになったら一人前
嘗て愛した
すれ違う人々は、僕のことなんか気にしちゃいない。いや、正確に言えば『赤』のことは気にしちゃいた。『大丈夫なのか? 何かあったのか?』って、心配げな眼差しは十二分に感じたから。
驚くべきはやはり、この顔のことを認識できていないことか。こんなボロボロだってのに見向きもされてない。アンドロイド部分については、相変わらず秘匿されているようだ。
これが親父の言ってた『管理』の力ってやつなんだろう。まあ、このあたりにいるアンドロイドは全部、
と、ごちゃごちゃ言ってるが、どちらにせよ結果は変わらんだろう。要はこれだけの力があれば、人類もきっと幸せにできる。僕が言いたいことはそれだけ。
――舐めないでちょうだい。
あと残すは
きっと……きっと……
――そっか……。よかったぁ……友達、でき……テ……――
でも、もう少しだけ、何か――
◆
なんてこれからの展望ってやつに、頭の中を捏ね繰り回してると、気付けば僕は家の前まで帰ってきていた。
そんな自分に少々驚きつつも、僕は玄関の戸を開ける。いつも通り、『ただいま』と、声をかけながら。
そのままリビングに進むと……
「お帰り、渉。……えらい声だぞ? あと顔も」
親父がテーブル席にて、コーヒーカップ片手に待っていた。
時計を見遣れば、まだ十七時過ぎ。時間的に仕事中だろうに、相変わらずほっぽり出してきやがったか。いい御身分ですこと。
「死ヌ一歩手前クライノダメージヲ負ッタカラナ。冗談ジャナクネ。マ、生キテルダケマシデショ」
と、親父の言う通り、完全にイカれちまった声でそう返す僕。さっきも今も一応、普通に出してるつもり。
「割かし頑丈に作ったつもりなんだけどね。ま、あれだけ踏みつけられちゃ、そうなるのも無理ないか」
「……見テタノカ?」
「手の空いているアンドロイドに覗きに行かせただけさ。大激闘だったらしいじゃない? 本心を言えば、もう少しスマートにやってほしかったんだが……でも、まあいい。大義の為に友すらも葬ったお前は最高に……輝いていたよ」
親父は笑っていた。褒めてくれた。それは子として、次世代を託された者として、何よりも喜ぶべきこと。
「人が強くなるためには、乗り越える壁が必要不可欠。これで『失敗作』にも生まれた意味があったってなもんだ。製造過程で生まれた役立たずのカスも、最後にはいい壁役になった」
けど、なんでだろう……。心の奥底に、よくわからない……モヤモヤが……
「それでだ、渉。一皮剥けた記念を祝して、この後……お前を我が居城へと招待しようと思ってる。そろそろこっちの仕事も覚えないとだしね。ついでにそのナリも治すから、すぐに準備しろ」
そう言って親父は席を立つと、背凭れにかけてあったスーツ持ち、僕の前へ。
我が居城……というのは『ナナシノ病院』のことか。この世界……延いては上の世界の中枢となる場所。それだけ認められたということか。
「ドウシテコウ立テ続ケニ野郎カラノ誘イが来ルノカネ……。オチオチ先輩トノデートモデキヤシナイ」
「そう言うな。
ポンと僕の肩を叩いた親父は、小気味良くスリッパを鳴らしつつ、一足先に外へ。
「………………」
僕の方はというと……見送った後もしばらく立ち尽くしてたかな。まあ、特に断る理由もないので、兎にも角にも洗面台へと移動。染まりに染まったおててを洗う。
「酷ェ面シテラァ……」
ふと、鏡に目を遣る……必要もなく、自然と視界に入ってしまうこのお顔。しっかりこの目に捉えたのは、この瞬間が初めてか。人肌の部分は所々しか残っておらず、そのほとんどが金属。人工的でメタリックな顔が、そこにはあった。
「人ノ姿カ……コレガ……?」
いくら手を洗えども、返り血を浴びた服と、この姿は変わらない。ゆえに乖離する。思い描いていた人類の到達点と……今の自分が。
――バッリィィイイィイィインッッッ‼
そんな考えが過ぎった瞬間、僕は鏡を叩き割っていた。目の前の自分がバラバラと崩れ落ち、そこらかしこに散らばっていく。
洗ったはずの手も、また赤に……。チクチクと痛むこの感覚は、果たして染まった左手の所為か? それとも……
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