怠惰な悪辱貴族3巻発売記念SS(サポート限定)

 『大事なお知らせ』

 このたび、怠惰な悪辱貴族3巻が明日発売します!

 加筆、修正しておりますので、ぜひご予約、お買い求め宜しくお願いいたします。


 また、続刊の決定において大事なのは初週の売り上げとなっております。

 本作品は重版もしておらず、4巻を出せるかどうかかなり厳しい状況です……!


 何とぞよろしくお願いいたします……!

 のちほど、近況ノートにもあげさせていただきます。


 また、サポート限定でのSSを新たなにあげさせていただきます。

 こちらは一巻相当の024 ヴァイスとミルク先生の夜食。2739文字

 となります。

 時系列でいいますと、閃光タイムラプスの特訓の裏話みたいな感じです!


 よろしくお願いいたします。


 ご予約はこちらから↓

 https://amazon.co.jp/dp/4041161576

 ――――――――――


 夏休み《エスターム》が終わる少し前、ミルク先生が故郷から戻って来た。

 嬉しくてたまらなかったが、タッカーが死んだ後だということもあって、少し複雑だった。


 閃光タイムラプスは奴の形見だが、俺は視て奪い取ったようなものだ。

 果たしてこれを使用することが、奴の手向けになるのだろうか?

 

 それとも俺は、やはりただの屑なのだろうか。


「――迷いがあるな」


 久しぶりに手合わせした夜、ミルク先生に見抜かれてしまった。

 剣も、魔法も、俺としては何も変わっていないつもりだ。


 だが――。


「……どうしてそう思うんですか?」

「体調、心情、過去、未来、その全てが剣や魔法に乗る。――以前のお前のほうが強かったな」


 なんて言い返せばいいのかわからなかった。

 ミルク先生の前だと、俺はなぜか素になってしまう。


 食事も喉を通らない日々が続いていた。そのせいで――。


「――ぐぅ。……あ、え、あ、これは!?」

「行くぞ」

「え? 行くぞってどこに!?」

「深夜に腹が減ったら一つしかないだろう」

「……一つ?」


 ピュルルールル、ピュルルルルー。


 なんとミルク先生と馬で二人、数時間掛けてとある街へやって来た。

 てか、こんな街、原作であったか? 

 

 ……なんだあの屋台?


「あれだ。着いて来い」

「は、はい」


 ヴァイス・ファンセントというキャラクターは、貴族ということもあって地位が高い。

 だがミルク先生はそんなこと関係なく接してくれている。

 それはある意味で居心地が良かった。


 ちなみに屋台はその、なんていうか、完全にアレだった。


 暖簾っぽいのをかき分けると、渋めのおじさんが細麺を湯切りしていた。

 スープがぐつぐつと煮込まれている。


「ん――、おおミルクじゃねえか」

「まだ生きてたんだな」

「はっ、お互い様だ。――もしかして子供ができたのか?」

「雇い主の貴族様だ。口には気を付けろよ」

「……ま、まじか?」


 だが俺は普通でいいと言った。おじさんの見た目は歴戦の勇士っぽく見えるが、人当たりがいい。


「二丁だ、よろしく頼む」

「はいよっ」


 すげえいい匂いがする。夜に食べると最高に美味しいアレと似ている。ずるずると音を鳴らし、スープを飲むと背徳感が得られるヤツ。

 ノブレスにもあったんだ。


「ヴァイス、お前は悩んでいるのか」

「……そうかもしれません」


 完全に見抜かれている。

 だがタッカーの事を言うつもりはなかった。

 口に出すことすら、まだしたくなかったからだ。


 それを察してくれているのか、ミルク先生は何も聞かなかった。


 だが――。


「人は死ぬ」

「え?」


 突然、ミルク先生が前を向きながら言った。

 おじさんは世話しなく動いている。


「私が騎士をやっていた時、毎日のように人が死んだ。新兵、古兵、老兵、平民、魔法使い、誰でも関係なく死はやってくる」

「…………」


 まるで俺の事をすべて見抜いてるかのような発言だった。

 俺は黙って聞き、ミルク先生は話を続ける。


「そんな日々が続いたことで、私は人の名前を聞くことをやめた。何故だと思う?」

「知りたく……ないからですか」


 ミルク先生は、いつもより悲しい目をしていた。


「過去も、未来も、そいつが何を成し遂げたいのか、聞けば聞くほど私の心に残る。無知は楽だ。隣で死ぬ奴が何者か知らないほうがいい。だがだある日、私は考えを改めた。それは、私の大切な人が死んだからだ」

「……大切な……」


 原作でミルク先生は過去を語らない。いや、語りたくもなかったのだろう。

 だが俺の為に……。


「戦争が終わった後、私はそいつのやりたいことを叶えてあげた。そして気づいた。ああ、おそらく、これで良かったんだとな。――ヴァイス、お前が何を想ってるのかはわからない。だが死人は何も話さない。自分が思ったことが全てだ。その気持ちを大事にしろ」

 

 頭をぶん殴られたような衝撃だった。

 俺は、閃光タイムラプスを使っていいのか悩んでいた。

 ヴァイス・ファンセントは屑だ。だが、俺の行為はそれ以上、死人につばを吐く行為なんじゃない、と――。


 しかし、そうじゃない。結局それを決めるのは俺だ。

 そして、それを使ってどうするのかも俺次第だ。


 それにタッカーは最後、俺にこう言ってくれた。


『――ありがとう、ヴァイス・ファンセント』


 ……悪いな、タッカー、。

 俺は屑かもしれない。だからお前の閃光を使わせてくれ。

 ――許してくれるよな。


「はいよ、二丁っ、肉も野菜もマシマシぃ!」


 そのタイミングで、ドンっと器の中に入った細麺が美味しそうなスープに投入されマシマシで置かれた。

 食欲のそそられる匂いだ。


「腹が満たされれば余計な事を考えずに済む。悩んだら食え、そして戦え。それが一番だ」

「はっ、ミルク、お前は変わってないな」

「うるさい。喋ってないで仕込みを続けろ」

「はいはいっと」


 二人の関係性は、どこかゼビスとの会話を思い出した。

 俺は覚悟を決めて、迷いを断ち切り、勢いよく麺をすする。。

 

 その味は、濃厚こってりだった。


 ――旨い。


 流石ノブレスだ。


 その後、俺は括り付けていた馬を取りに一人で向かった。

 俺のほうが立場は上だが、そのくらいはすべきだ。


 ――――

 ――

 ―


「おいミルク、俺は生きてるだろうが」

「誰がお前を大切な人だと言った? 全く別の人のことだ」

「はっ、よくいうぜ。この屋台の立ち上げを手伝ってくれたくせに。それにゼビスと一緒に仲良く戦場を駆け回っていたのが懐かしいなあ。ま――足が無くなっても、俺の心は折れちゃいねえけどな」


 男は、屋台の横からスッと足を出した。

 両足が義足、戦場で受けた傷だ。


 そしてヴァイスが、遠くからミルクを呼びかける。

 ミルクは立ち上がると、男に声を掛けた。


「じゃあな。まあまあ腕を上げたな」

「はっ、ありがとよ。まあでも、お前に味を見てもらっていたおかげで今は人気だ。ゼビスによろしくな」

「ああ、伝えておくよ。班長元リーダー


 それから男は、ミルクとヴァイスの背中を眺めていた。


 そして思い出す。ミルクの言葉を。


『凄い逸材だ。あれが天才だというのだろうな。私、いや、王国騎士団全員の才能を集めても越えることができないはずだ』


「……あいつがヴァイスか。ま、確かに言葉通りだったな。すげえ魔力だった。――頑張れよ、少年」


 男は、東のビルトーヴァの戦争で、ミルク・アビタス、ゼビス・オールディンが新兵だった頃に手ほどきをした、元――鬼の騎士団長である。

 とはいえ、ミルク・アビタスは二日で敬語を止めた。その理由は、面倒臭いから。


「ひよっこミルクも、いつのまにか俺に似たなあ。まったく、長生きはしてみるもんだな」



 その翌日、ヴァイス・ファンセントは、閃光タイムラプスを使った訓練を始めたのだった。

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