エルフ戦記
@dgtaydf
ラキード戦 上
帝国暦7年
現在プーゲ半島にあるダルメキア帝国は、元々エルフに支配されていた辺境だったが、大災害の影響により辺境での統治を大急ぎで切り上げたエルフ達は自国の復興に着手、辺境地域の他民族を見向きもしないで放置した。
そこから辺境での独立が相次ぎ、プーゲ半島では独立国が連帯、又は併合して帝国として、エルフとの対決姿勢を明らかにした。
エルフの国アティミカ神樹国は再び、辺境統治の再開を目論んで重い腰を上げた。
両者の軍勢はプーゲ半島と大陸を唯一接続している陸地、ラキード山脈において帝国軍11万、先陣のアティミカ軍15万が対峙した。
ラキード山脈
ラキード山脈、過去に栄華を誇った帝国がエルフに敗れた場所。
過去の先人たちの戦いがどのようなものだったかは知るすべはない、エルフの支配から解放されて七年、支配されていた頃の憎悪は自由を手に入れるにつれ増大した。
エルフの支配から独立した諸国との協調関係はエルフの憎悪によって形成された、エルフによる浄化統治は文化や知識を労働に必要最低限にまで落とされ、階級も種族も分け隔てなく奴隷にされた人々の苦労は今日この戦いをするためにあると多くの兵士と貴族たちは確信している。
帝国本陣
ラキード山脈の名の由来は、領主が鳥に向けて放った矢が空中で刺さった時に丁度山脈の頂点に見えたことからラキードという鳥の名前が付けられた。
ラキード山脈は木々で覆われており、崖や岩も苔や蔦で遠くからは地形を把握することは困難なその場所にエルフの正規軍を昨日は目視できた。
しかし、昨日までは旗と兵士の群れがこれでもかと言うほど確認できたが、今日は旗一つ目視できない。
恐らくエルフお得意の偽装戦術だろう。
主に作戦が決まらず、取りあえずの形でエルフは姿を隠して、何らかの方法で1年ほどその状態を維持して様子を見る。
前進したら奇襲、後退すれば追撃、魔法での範囲攻撃で対応すれば火力を集中して魔術師を狙い撃ちにする。魔術師が大きく消耗した場合、エルフの魔法になすすべもなく蹂躙される。
山脈に居座るエルフをおびき出し、叩かねば長期的にいつかは隙が出来て敗北する。
策がないわけではないが、囮が必要だ。
だがこれほど危険な役目、貴族達は拒否するだろう。
そこで丁度いい囮がいたことを思い出した。
全滅した場合、彼女に殺されるかもしれないが死ぬのが後か先になる話だと腹をくくった。
「ブラウン陛下、軍議のお時間です」
「分かった」
山脈から来る風から逃げるように向かった。
帝国軍前線
「反応は?」
「ありません」
敵勢の姿が確認できない今、魔法での探知を念の為に行っている。
魔法での探知、中身は一定の場所で爆音が鳴るだけの罠であるが、鶏がいればいくらでも作れるため、国境に三重に渡って敷かれている。
侵略をしに来たエルフが進んで来ないということは、こちらの出方を伺い、あわよくば奇襲の機会を狙っているのだろうか?。単純ではあるが手を出そうものなら負ける、それとも姿を消して何らかの策を悟られないようにしているのか?
「ライム様、テス伯爵様が増援を引き連れてまいりました」
「テスが?」
どいうことだ、テスが率いる手勢は攻勢時の戦力として温存していたはずでは?。
・・・まさかな、初陣の私では荷が重いと余計な気を遣ったのだろう。
馬具と槍が擦れあう音が近づいてくる。
テスが率いる騎士達には不思議な噂が最近ささやかれている、開戦当初に国外で公爵様の護衛をしていたはずの1000人ほどの騎士が国内にいることや、同僚に会っても名が分からないなど、領地に戻らないですぐに従軍する。まるで別人だが、馬も顔も本人としか思えない形をしているという。
「伯爵、何用で参った?」
「おおライム辺境伯!そこにおったか」
「実は王から攻撃を仕掛けるようにと命が下されてな」
「馬鹿な!?我らが進んだ所で奇襲を受け壊滅するのは目に見えているだろう!」
「安心せい、おびき出すだけだ」
「おびき出す?」
「お前ら!準備を始めろ」
「お、おい!」
ライムを置いてきぼりにテスはすぐに準備に取り掛からせた。
エルフが潜む山脈から山を一つ挟むほどの距離に大筒が山脈に狙いを向けるように置かれようとしていた。
最前線
僕の名前はレイ ハース、帝国の魔術師達に命令されてここに来ている。
魔術で造られたため、両親は存在しないが家族はいる。
後ろから僕を見下ろしているこの愛馬が僕にとって大事な家族だ。
だが、愛馬のテミンとはここで別れるかもしれない。
今まで受けた扱いから見て、実戦でも碌な使われかたをされないのは分かっていたからだ。
僕はここで死ぬのか。
そう思うと怖く感じた。
テミンの頭が僕の目と並んだ、するとテミンが僕の顔横にくっついた。
「テミン、お前は怖いのか」
「ヒィン」
「そうか」
言葉は分からないけど気持ちは分かった気がした。
「始めろ!!」
テス伯爵の大声が聞こえたと同時に大筒から雲が湧き出てくるよな勢いで、白い煙がラキードを覆いつくした。
ラキード山脈
エルフの国、アティミカは別名、大魔法帝国と呼ばれている。
全ての国に永世的中立を長年に渡って誓っていたが国内の若いエルフと老いたエルフで対立が生じ、(エルフではよくあること)結果的に若いエルフが政治を牛耳るようになった。
そして若いエルフ達は今まで禁術として放置されていた魔術を駆使し、繁栄と殺戮の限りを尽くした。
そこからは大災害と人造生物による管理によって今に至る。
「アティミス様、敵に動きがあります」
「ふむ」
初陣のアティミスはアティミカの一軍を率いる指揮官として、アティミカの神々に華々しい活躍を見せられると心を震わせていた。
「我らに正面から立てつこうとは愚かなことをするものだ」
「軍師!鎧を持て!」
「愚者なりの武勇を見せてもらおうではないか!」
「アティミス様、まず話お聞きください」
「うむ」
軍師は話を聞かずに行こうとしている指揮官を呼び止め、話を続けた。
「奴らは我らを挑発し、最前線の主力で当たろうとしているというわけか?」
「そのように考えられます、しかし敵の目的は」
言い終わる前に軍師の話は遮られた。
「軍師!奴らの目的は我らを死地に誘い込むことであろう」
「見事なご賢察でございます」
阿保ではあるが馬鹿ではないため、対処に困るなと軍師は思った。
「つまり敵の前線にいる騎士は囮か」
「はい、そこで一つ策がございます」
「策?」
表情が変わらないはずの軍師が微笑しているかのように見えた。
そして軍師は誰にも聞かれないよう、目を赤や緑に光らせ交互にそれを行うことで暗号にして伝えた。体のほとんどが魔術道具で造られた軍師ができる芸当であった。
「初陣で大勝か、兄上達がどんな顔をするか楽しみだ」
昼頃、エルフは進軍を始めた。
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