0-4 一つの国が壊れる話 ーー魔女狩りの始まりーー

ファインブルク王国にいつの間にか根付いた女神信仰。ハンク家は魔女狩り執行を名目に徹底的に信者を弾圧した。

「貴様らは魔女だ。よって裁きは受けず、我が剣によって滅ぼす!」

「「「「「ぎゃぁああああああっ!!!」」」」」

「ふん、魔女どもと同じ末路をたどるがよいわ」

こうして、女神ーー否、魔女を崇拝するものたちを皆殺しにした。

「くっくっく……。これでようやく奴らの息の根を止められた。やはり、我らが崇高なる女王は偉大だ」

「ええ、本当に」

当主は満足げな上位階級である翼人に笑う。

「しかし、魔女を崇拝する者たちがまだいるとはな。さあハンクの名のもとに奴らを狩ろうぞ!」


だが、この行動が更なる悲劇を生むことになる。



ーーーーーー


今日の魔女狩りは『黒翼の魔女』と呼ばれる魔法使いが相手だ。

当主は騎士団を集結させて魔女の住まう塔へと向かった。

「魔女め、覚悟しろ!」

先陣を切って飛び込んだ当主だが、その部屋には何もなかった。

「もぬけの殻…?」

馬鹿な。この塔の魔女は数日前から監視していた。逃走するはずがない。

「どういうことだ……!?」

「ふふッ」

少女の声がした。

突如、なだれ込んだ他の団員だ消えた。

いや。

石造りの武骨な内装だったはずが、豪華絢爛な内装の屋敷へと変化した。

「ひどいことをするのね、貴女。私はあそこの景色が好きだったのに、引っ越しをしないといけなくなったじゃない」

声は2階から聞こえた。

慌てて視線をそちらに向ける。

「う…!?」

不可思議な感覚に襲われた。

長い黒髪に金眼の魔女に親しみに近い感覚をおぼえたのだ。

そして、同時に背筋が凍るような悪寒も感じた。

「あら、どうしたのかしら?そんな怖い顔をして」

「……魔女め!!」

剣を抜き放ち、魔女へと斬りかかった。

「私、あなたたちに何かしたかしら?」

バサッ、と。

片翼の黒い羽根が広がると同時に、突き立てた剣には何の感触もない。

「翼人…?」

「さあ?それはどうかしらね。……ん、ダメねえ」

「な、何を言っている!」

「馬鹿にもなれない愚か者ね、あなた」

「このっ!!」

当主は必死に剣を振り回すが、手ごたえは一切ない。

「くそ、なぜ当たらぬ……!!化け物め……!!」

「化け物、ねえ。ふふッ、それは貴女じゃなくて?」

「……ッ!!」

魔女は当主を見下し、蔑んだ目で見つめている。

「ほぉ~ら、私はここにいるわよ?早く捕まえてみなさい」

「ぐぅ……!」

当主の顔が屈辱で赤く染まる。

その時だった。

魔女の金眼が鋭く光る。

「…!?」

魔女は霞のように浮かび、当主の真後ろに姿を現した。

魔女はただ、冷めた視線を向ける。

「人間だった貴女はもういないのね。

まあ、いいわ。愚かな人間は又生まれるでしょう?

馬鹿な人間もいつか。

…その時まで、私のことなど思い出さなくていいわ」


ーーーーーーーーー


気がつけば、当主はあの塔にいた。

だが。

何故、『任務でもないのに』あの辺鄙な塔にいたのかは騎士団も、彼らを監督する翼人も分からなかった。


それからもハンク家の当主は次々に代わっていった。

いつしか災厄の魔女討伐の使命ではなく、国の統治の為の魔女狩りへと変わっていく。

天災のような存在を炙り出し、命を危険にさらすよりも、反乱分子の民を殺したほうが楽だ。

災厄の魔女相手に初代当主は呪いをかけられ死んだ。

それにより一族の、特に女は短命。

短い時間で鍛錬を積み、そんなリスクを冒すよりも。王家の名のもとに治安維持を名目に異端者を刈る方がいい。こうして、ハンク家による魔女狩りは始まった。


ハンク家初代当主の英雄譚から100年と少し。人間がその偉業に依存し、堕落するには充分な時間だろう。


「我々は唯待てばよい。災いの種が芽吹くその日まで」

人喰いの王は彼らが蒔いたそれが、あの忌々しい先代の強い意志を捻じ曲げる状況に怪しく笑う。

人喰い種族である彼らにとってその100年は長めの休暇を取る程度の時間。その間、彼らはこの世界を観察し続けた。

かの英雄の意思などそっちのけで大義名分のもと行われる殺戮。


だが、その虐殺を観測していた者がいた。

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