第8話 開花スキル 

 

 寝室。特になにもなし。蜘蛛がいる。


 石机のある食堂。蜘蛛が何体かいる。即殺。金属製の食器を発見。


 執務室らしき部屋。中身のないインク瓶やペンが転がっている。蜘蛛はいな……天井の隅に隠れて後ろから襲ってくるなボケ、このッ……!


 ――などなど。etc。

 それなりに回ってみたが、目ぼしいものは今のところ0だ。


 神殿の中に鉱石はないし、モンスターもシャープスパイダーばかりなので新しいドロップアイテムは手に入らない。


「……うーん、ゲームだったら色々アイテムが手に入るんだけどな」


 現実はなかなか世知辛い。

 収穫のないまま探索を続けていると、通路の突き当りで本棚がいくつも立ち並んだ部屋を見つけた。


「ここは、図書室か」


 岩壁を削りだして作られた本棚に、埃の積もった書物が残っている。

 手に取ってみると、『神聖騎士王国の五百年間 ——建国五百年を祝して――』『魔法概論』『フォボニアの黒森林の植生 薬草・毒草・擬態草』などなど、様々なジャンルがある。


 だが、表紙をめくって実際に読んでみようとすると、どの本も紙が破けてしまったり、ボロボロと崩れ落ちてしまったりで、ろくに読むことができない。


 ここの神殿がどれほど前まで人に使われていたのかは分からないが、他の部屋を見ていても石造りのものばかりで、それ以外のものはかなり劣化していた。紙も寿命が近いのだろう。

 もしモンスター関連の本があれば、シャープスパイダーの弱点が分かるかもしれないと思ったが、そもそも読めないのではどうしようもない。


「残念……ん?」 


 諦めて外に出ようと思ったその時、目の端に一冊の本がとまった。



   『魔導工学研究書 魔力精製技術の変遷と技術的課題について』



 それは、古びた本たちの中で唯一劣化が少なかった。

 いや、劣化がなかったと言ってもいい。

 埃こそ積もっていたが、それを除けば新品同然と言ってもいい。


 マナゴーグルで見ると、うっすらと魔力を帯びている。なんらかの保存処置が施されているものなのだろう。

 俺は興味を惹かれ、本を開いてみた。


【――技術史とはすなわち、魔力精製の歴史と言える。その足跡は古く、2000年前から辿ることができる】

【――大気に充満するマナは、生物の細胞膜を通して体内に取り込まれ魔力となり、またはからモンスターを生み出す。そしてそれらの消費や、死によって再び大気に還る。この根源的なエネルギーこそ、人類文明最大の貢献者である】

【――人類の最大の外的魔力の入手方法とは、モンスターの核である魔石を採取することであり、いかに魔石からロスなく魔力を取り出すか、それこそが多くの研究者が心血を注いできた魔力精製技術の根幹である】

【――ラマニヌス法。魔石の一面を魔力浸透比率の高い状態へと変質させ、浸透率をコントロールすることで必要な魔力を取り出す手法】

【――ポウル式とは……】


 めっちゃ、ガチな文献だァ……。

 全部を読んでいる時間はないが、目ぼしい章に目を通していく。この世界の法則、文明、過去の技術者たちの積み重ねが見えてくる。


 これがどれくらい前の時代のモノかは分からないが、特別な保護をされるような書物だ。きっとかなり重要な専門書だったのだろう。当時の主流な技術、実用に至っていない理論段階の技術さえも書いてある。


 魔力、というエネルギーがある世界。

 生物やモンスターの体内にて凝縮されるマナは、2MPだけでさえモンスターを殺傷できるだけのエネルギーだ。

 そんなエネルギーを取り出すことができたら、色々なことができるだろう。魔石から魔力を取り出す方法か……地球だったらどうやるだろうか。俺だったら……



〈【叡智】を1獲得〉

〈開花スキル―—『★★★魔力伝導の革命的発見』発現〉



 なんて考えていたら、急にスキルが解放されたぞ!?

 ウィンドウがピコンと現れ、変化を知らせてくる。


―——————―——————―——————―——————―——————

|≪ステータス≫| クラフトツリー | バッグ | マップ | Lv8


STR DEF VIT DEX AGI MG  ::MP

23(+6) 21(+4) 17 27  12  20 44/64


スキル:『製作クラフト


スキルポイント:0

ステータスポイント:0

【叡智】:1

―——————―——————―——————―——————―——————


 ステータスを開いてみると、新しい項目が増えている。

 【叡智】……確かβテストの時にもあったな。

 各ジョブにある『開花スキル』——通常スキルとは桁違いな、ぶっ壊れスキル――を解放するために必要な要素だ。


 『剣士』は【奥義】

 『神官』なら【加護】

 『技工士』は【叡智】

 名称は様々だが、どのジョブにとっても超重要であることに変わりはない。


 β版ではストーリーに触れることはできなかったため、入手条件は分からなかったが、こんなところで手に入るとは。

 条件は、「技術に関する情報を入手する」とかだろうか。


 なんにせよ、これは超絶ラッキーだ!

 開花スキルはどれもぶっ壊れの最強スキル。それが序盤に手に入るのはツイてる。


 まぁ、稀に強いが性能がピーキーすぎて『これはロマンビルド笑』『まさしく最強さいじゃく』とネタにされるスキルもあったようだが、それでも普通のスキルよりは強いはずだ。


 クラフトツリーを開き、発現した開花スキルの性能を確認してみる。


―——————―——————

『★★★魔力伝導の革命的発見』未開放

 すべての製作アイテムで魔力消費量が半分になる

―——————―——————


 ―—ぶっ壊れです。はい。確定。


 書いてあることがヤバすぎる。

 「すべて」の製作アイテムで「魔力消費量」が「半分」??????

 全部の要素が強い。強すぎる。

 

 やっぱり強いスキルはテキストの長さで分かるんだよな。効果説明が短文のスキルはだいたい強い。シンプルに強いことが書いていることが強いために説明文が短いんだよな。

 経験則的に、短文>長文>普通の長さ、の順番で強い。

 

 悩む余地なし、だ。

 【叡智】を1消費して、すぐに『★★★魔力伝導の革命的発見』を取得しよう。


 MPの消費量が半分になったということは、二倍弾を撃てるということ。

 ……って、あれ?


〈——全クラフトアイテムの改良を開始〉


 ……んん!?

 開花スキルを取得するという表示をクリックしたら、オートモードが勝手に始まったんだが!?

 製作クラフトはなにも指示してないぞ!? 

 

 俺の動揺を余所に、身体は勝手にまた簡易な炉を作り始める。

 仮に短時間で終わるとしても、このダンジョン中で製作が始まるのはまずい……!

 すぐ数十メートルも離れない位置に、大量のシャープスパイダーと、その親玉とも言えるボスがいるのだ。


 なにより、大きな亀裂からこちら側の区画にまだシャープスパイダーが残っていないとも限らない。もしいま気づかれでもしたら、抵抗もできず嬲り殺されてしまう。


 オートモードがやろうとしているのは、カスタム銃の改良だろう。

 俺の作った製作アイテムの中で魔力を消費するものは、まだカスタム銃しかない。

 地下神殿の探索でシャープスパイダーから手に入れた魔石を火に投入し、瞬間的に高温を生み出す。

 

 そこに『ナザレ石』を投入した。

 俺はそれを見ていて、内心驚いた。

 ナザレ石は最初のころから入手できたが、使い道がなくずっとバッグの底に眠っていたアイテムだったからだ。クラフトに用いるのはもっぱら『縞炎鉱』で、『ナザレ石』の出番は一度もなかった。


 ナザレ石はポロポロあちこちに落ちていた鉱石なのだが、があるようで、一切マナを付与できず、魔道具と相性が悪い。

 そのため、今まで使い道がなかったのだが、それを魔道具であるカスタム銃の改良に用いるとは。


「ナザレ石を使って、そもそも撃てるのか……?」


 ……と、初めは思ったのだが。

 俺の身体が銃把グリップ銃身バレルのほぼすべてをナザレ石で作り直し、置き換えていくのを見て、段々狙いが分かってきた。

 特に、俺の手から魔力を吸収し、銃身バレルへと魔力を流す無魔石の周辺は徹底的に少しも隙間ができないようにナザレ石パーツで配置している。


 これはつまり、手→無魔石→銃身バレル→発射までの魔力の通り道をナザレ石で構築することで、魔力のロスを最小限にしようとしているのだ。

 普通に魔力を発射しようと思えば、100%の魔力が無魔石には80%しか吸収されず、80%の魔力が銃身バレルから発射されるまでの工程で少しずつロスが発生し、発射される魔力は50%近くまで落ちてしまう。

 

 しかし、この構造であればナザレ石が、魔力の逃げ場を一方向に限定することで、魔力ロスをほぼ0に抑えることができる。

 画期的な手法だ。


 クラフトが終わる頃には、オートモードの自分にすっかり感心してしまった。

 やるなぁ、この男。……いや、俺なんだけど。


 解放され立ち上がろうとしたとき、背後にカサッと気配を感じた。

 やっぱりこんだけ派手に光と熱だしてたら、そりゃ見に来るよな。

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