第7話 遺跡……ってかミニダンジョン?


 夜が明けた。

 上部の穴から射し込む光で目を覚ます。


 無事に朝を迎えられたということは、寝ている間にモンスターに襲われることはなかったらしい。


 ぶるりと身体を震わせながら起き上がる。

 焚き火があるとはいえ、野外の朝は寒い。


 この地域がどんな気候なのかは知らないが、日本の春と同じくらいの感覚だ。三月や四月の朝は意外と寒い。

 寝具としてブラックボアの毛皮にくるまって寝たが、なかったら風邪引いてたな。


 俺はブラッボアの干し肉を腹に入れ、簡易な松明を作って、昨日作った最後のクラフト――≪サイレンサー≫を付けたカスタム銃を腰に付ける。


 ≪マナゴーグル≫

 ≪魔石爆弾≫

 ≪サイレンサー≫


 この3つを解放するためにスキルポイントは使い切った。

 ≪マナゴーグル≫は暗闇で物を見るため、≪魔石爆弾≫は集団戦対策で、≪サイレンサー≫は音で敵を呼び寄せないために。


 これで備えは全てだ。

 後はここを脱出するのみ。


「すぅーはー……。よし、いくか」

 

 深呼吸をひとつ挟み、俺は真っ暗な横穴に身体を滑り込ませた。


 1秒ほどの滞空時間で地面につく。

 思ったほど高くはなかったな。


 大まかな構造にについては昨日マナゴーグルで下見した通りだが、松明の火で照らして見ると印象が違う。


 洞窟や洞穴のような、自然に生まれた地下空間ではない。素の岩肌ではなく、足元はタイル張り。所々に太く滑らかな柱が屹立して天井を支えている。

 これは――


「……遺跡?」


 しっとりした地下の空気。魔力をふんだんに含んだ石材。人の姿を象った像。それらは明らかに人によって作られた構造物だが、今はもう人の気配を感じない。

 すでに忘れられた宗教的な建造物だろうか。


 縦穴と地下で接していたのは、洞窟などではなく、地下遺跡の一室だったらしい。


 何に使われていたのかは分からないが、像が数体あるだけの小部屋だ。他になにもなく、素通しで通路に繋がっている。


「ッ、いきなりかよっ……!」


 通路に出るなり、マナゴーグルの視界に数体の生きた魔力の塊が映った。大きさとフォルム的にシャープスパイダーだろう。

 蜘蛛共も俺に気づいたようだ。

 ――バシュッ! バシュッ! バシュッ!


 即座にカスタム銃を発砲する。

 サイレンサーで音は絞られているが、それでも静寂の中での発砲はやはり目立つ。

 音でモンスターに集まられると昨日みたいなことになる恐れがある。できるだけ発砲はしたくないな。今日のカオスグランツはステルスゲーだ。


―——————―——————―——————

MP:52/66

―——————―——————―——————


 ステータスポイントをMGに振り、さらに一晩寝たためMPはほぼ全開。

 俺は倒したシャープスパイダーの魔石を拾って、探索を続ける。


「思ってたよりしっかり神殿だな」


 通りを中心に左右に部屋が並んでいて、さらに横合いに大きな道が一つずつ伸びている。俺が初めに降り立ったのは、この横合いの道からつながる区画だ。

 部屋の残骸や大きさからみて、居室が集まった区画だろう。

 

 規模的にかつては数十人が出入りしていたんじゃないだろうか。

 だとすればなおのこと、しっかりとした出口があるはずだ。中央の通路に沿って進めば、どちらかに地上へ繋がる道がきっとあるだろう。




 ……と、思ったんだが。


「あちゃあ……」


 出口と思われる上への階段を、大量の土砂が埋めていた。

 この量を一人で掻き出そうと思ったら悠に一週間はかかるだろう。間違いなくその前に飢え死にしてしまう。


 出口が埋まったから捨てられたのか。

 捨てられたから手入れされずに埋まったのか。

 どちらだったのかは分からないが、少なくともこの階段から脱出することは不可能だ。他の出口を探すしかない。


 ええい、階段がダメなら通路の奥だ!

 この大きさの神殿だ。他にもどこかがきっと外に通じているだろう。

 完全に密室なら、モンスターが入り込むこともできないはずだしな。

 地下遺跡にモンスターがいること。期せずして、それが希望だ。






「思っていたよりモンスターが多い……」


 シャープスパイダーとの遭遇戦を終えて、軽く汗を拭う。

 地下遺跡の探索を初めてからこれで四回目だ。


「ここには蜘蛛しかいないのか……?」


 それも蜘蛛ばかり。

 というか蜘蛛にしか出会っていない。

 道中、遭遇する度に倒しているが、あまりに続くとマナが枯れる。


 シャープスパイダーは音に鈍感なので戦闘音で寄ってこないのが不幸中の幸いだが、それにしても蜘蛛共はそもそもこの遺跡で何をしているんだろうか?

 エサを探すなら地上の方がいいはずなんだけどな。


 ――――スズンッッッ!!!!


「うぉっ!?」


 突然、地下神殿全体が大きく揺れた。

 とっさに身構えるが、崩落はない。だが、天井から破片がぱらぱらと降ってきているのでまったくの安全というわけでもないだろう。


 地震……の割には震源が近い。

 暗闇になっている通路の先から揺れが伝わってくる。巨大な何かが落下したかのような衝撃だった。


「……まさか」


 出口の階段のように、また神殿のどこかが崩落したんじゃないかと心配になった俺は、通路の奥に向かう。そして、そこでその答えは明らかになった。

 ―—予想よりも、はるかに悪い結末で。 



〈――『シャープスパイダー』『シャープスパイダー』『シャープスパイダー』『シャープスパイダー』『シャープスパイダー』『シャープスパイダー』『シャープスパイダー』『シャープスパイダー』『シャープスパイダー』『シャープスパイダー』『シャープスパイダー』『シャープスパイダー』『シャープスパイダー』『シャープスパイダー』『シャープスパイダー』『シャープスパイダー』『シャープスパイダー』『シャープスパイダー』『シャープスパイダー』『シャープスパイダー』『シャープスパイダー』『シャープスパイダー』『シャープスパイダー』『シャープスパイダー』『シャープスパイダー』『シャープスパイダー』『シャープスパイダー』『シャープスパイダー』〉



 ――――視界を埋め尽くす、大蜘蛛。


 通路を真ん中から分断する、大きな亀裂。

 かつて大きな地震などによって生まれたのであろう、天然の境界線によって隔てられた向こうのエリアには、数えきれないほどのシャープスパイダーが蠢いていた。


 床、壁、天井。すべてが蜘蛛糸に覆れ、所狭しと蜘蛛たちが行き交っている。


「……ッ」


 ——ここは、もはや遺跡などではない。

 シャープスパイダーの、巣だ。


 単独の蜘蛛が作り出す罠としてはない。

 蟻や蜂が作るような、コロニーとしての巣。

 罠としての機能に特化していなくても、無数の蜘蛛と上下左右を埋め尽くす蜘蛛糸に絡めとられて生還するのは困難だろう。


 そして俺は気づいていた。

 蠢く蜘蛛共のさらに奥。

 そこに、桁違いな存在感を持つ巨大なナニカがいる。


 距離があるため姿は見えないが、奴の持つ強大なマナだけは感じる。

 濃く、強大なマナを持つ敵だ。

 さっきの振動はおそらく、奴が出したものだ。


「……いやいや、地鳴りが起きるレベルのサイズかよ」


 想像するだけで冷や汗がでてくる。

 だが、その代わりにこれで状況が明確になった。


 まず一つ、ここはかつて地下神殿だったが、現在はシャープスパイダーたちが住み着き巣を作っていること。

 地上に沢山のシャープスパイダーがいたのは、真下に巣があったからだろうな。ここはおそらく奴らの縄張りなのだ。


 そして、二つ目。

 汗を拭うためにマナゴーグルを外した時に気づいたのだが、ボスのいる部屋には外の光が差し込んでいる。

 つまりは、あの部屋には外へつながるルートがある可能性があるのだ。


 さっきの衝撃が、あのボスが外から戻ってきた音だとすれば、天井がかなりの範囲に渡って崩落しているのかもしれない。ボスやシャープスパイダーたちが外に出るのに使う道もあるだろう。それが人間にも登れるものであればいいんだが……。


「……いや、そういえば! 製作クラフトアイテムにこんな時に使えそうなのがあったな」


 俺はふと思い出し、クラフトツリーで≪ワイヤー射出機≫を確認する。


―——————―——————

≪ワイヤー射出機≫ 未開放

 伸縮自在なワイヤーを射出し、高所への高速移動を可能とする。

―——————―——————


 まだ未開放なため、必要素材の確認はできないが、アイテム名のあとに≪〇≫がついていないため、製作に必要なアイテムが揃っていないことは分かる。

 だが、おそらくスパ〇ダーマン的な移動を可能にするクラフトだろう。これならボス部屋のルートを使わずとも、一日目に飛び降りてきた縦穴から地上に上がることもできるかもしれない。


 まずはこの神殿を探索してみるか。


 そうすれば≪ワイヤー射出機≫に必要な素材が見つかるかもしれない。

 それでもし、出口も素材も見つからなかった場合。

 ……その時は、ボスと戦うしかない。


「そうならないことを祈るしかないな」


 俺は『巣』に背を向けた。

 『巣』の中には、数えるのも馬鹿らしいほど(おそらくは百や二百はいるだろう)のシャープスパイダーと、そしてそれを従える圧倒的なボスがいる。


 今の俺では到底勝ち目を感じられない。

 強大な存在感を背中に感じながら、神殿の前半部に戻った。探索していない部屋を改めて探索するために。

 

 無視できない危機感を、抑え込むために。

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