ループスープ

ゆきなる

バーナム

「ああ、神様。僕はいったいどうしたらいいんですか」


僕は将来の不安に押しつぶされそうになった時、必ず天に手を合わせる。

でも、神は僕に答えを教えてくれたことはない。

僕は神の言葉を聞く耳も、神を視認する目も持っていないのだ。


「また悩んでるのかい?」


旧友のしょうが、やれやれといった素振りで声を掛けてきた。


「ああ。それはもうどうしようもなく悩んでいるんだ」


僕は翔に言葉を返すと、再び天に手を合わせる。

その姿を見ていた翔が僕にある提案をしてきた。


「神の声が聴けると噂の占い師がいるんだけど、興味あるかい?」


神の声が聴けるだって? それは願ってもない提案じゃないか。


「それは本当か? ぜひ詳しく教えてくれ」


「まじかよ。俺は冗談のつもりだったのに」


翔は若干ひきつった笑いを浮かべた。


「人がこんなに困っているのに、酷いことをするなぁ」


「悪かったよ。でも、その占い師の噂は本当だ」


「なんだって? 早く教えてくれよ。気がおかしくなりそうなんだ」


僕は翔の方に向き直り、話を促した。


「電話占いって知ってるか? 直接会わなくても占ってくれるサービスなんだけど」


僕は首を大きく横に振り、話を続けるよう目線を送る。


「SNSで見たんだけど、どうやら本当に当たるって人気なんだ。気になるならお前も占ってもらえよ」


そう言って翔はスマホを取り出し、なにか操作をはじめる。

しばらくすると僕のスマホがブブッと震え、翔からサイトへ繋がるURLが送られてきた。


「そこから登録すれば10分間分のポイントが入ってくるから。占い師の名前は、天に導くで『天導てんどう』だからな」


「助かるよ。すぐに登録してみる」


「おう。悩みが解消されるといいな」


そう言って、翔はバイトがあるからと帰っていった。


僕はさっそくそのサイトに登録してみることにした。

名前、住所、電話番号、クレジットカードの情報を打ち込み、登録を完了させる。

スマホの画面上部には『無料チケット 10分間』と書かれていた。

そして占い師検索欄に『天導』と打ち込み、検索。

一番に表示された天導先生は、評価4.8という驚異の評価を獲得しているではないか。

僕は天導先生に導いてもらうべく、鑑定を申し込んだ。

すぐに電話番号が表示され、この番号に電話をかけると天導先生に繋がるらしい。


「ただいま、占い師にお繋ぎしております。しばらくお待ちください」


音声ソフトで作られたような声が、待つようにと繰り返し言っている。

僕ははやる気持ちを抑えながら待っていると――


「大変お待たせいたしました。占い師と繋がります」


そうアナウンスが流れたあと、妖艶な女性の声が電話口から聞こえてきた。


「もしもし。わたくし、天導と申します。本日はどの様なお悩みでしょうか?」


「僕は就活中なんですが、第一希望の会社に入れるでしょうか?」


「では、貴方の仕事運をタロットカードで見てみましょう。生年月日を教えて下さい」


僕が天導先生に生年月日を伝えると、電話の向こうからカシャカシャとカードを切るような音、そしてカードを配る様な音が1分弱続いた。


「お待たせしました。結論から言うと、悪くないですよ」


僕は息をふぅっと吐き出し、腹の底から安心した。


「でも、今のままでは運気が下がるかもしれません」


天導先生の続きの言葉に、さっきとは一転、不安が押し寄せた。


「先生、どうしたらいいんですか? 教えて下さい」


僕はそれから、30分程先生の話に耳を傾けた。

気が付いた頃には、天導先生の言葉を聞き逃さない為に用意したノートが文字で埋め尽くされていた。

要するに運気は良いが、これからの未来が安定したものになるかは、自分次第らしい。


天導先生は素晴らしい方だ。僕の就活の悩みだけでなく、人間関係に悩んでいることまで的中させたんだ。

神の言葉を聞き、神から力を分け与えられ、タロットカード、霊能力、果ては宇宙パワーまで使いこなす。僕の知る限り、神に一番近い人間である。


電話を終えてすぐは安心感に満たされ、未来のために努力する活力に溢れていたのだが、ふと不安が滲んできたのだ。

会社に入るよりも、入った後はどうなるんだろう。

不安を感じた途端に、不安が全身を駆け巡った。


「もう一度、先生にみてもらおう」


僕は急いでスマホを取り出し、さっきと同じ手順で占いを申し込んだ。

またあのアナウンスが流れる。

天導先生に出会えてよかった。僕は翔に感謝しながら、天導先生の声を待った。

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