きっと

たけ

お手紙


きっとね、だいじょうぶだよ

そう言おうと思ったのに、なかなか口が動かなくて。そんな私に呆れたあなたはどこかへ行ってしまったね。

ありがとうもさようならも言えずに、私はお気に入りのスカートの端を強く握り締めて泣きながら立ち尽くすだけでした。

頭の中に残っているあなたとの最後の優しい記憶は、幼い私にありがとう、と笑ってくれるあなたが、小さいけれどきれいなお花を私に渡したことです。とても嬉しかった思い出、でもそんな思い出も手放すことにします。

もうあなたがいなくなって5年も経ちました。

幼い頃の記憶はほぼないけれど、あなたとの記憶は全て残ったままなんです。それくらい、大切な思い出ばかり、私の頭の中にあるんです。

きっとあなたは忘れているでしょう。

また新しい出会いをして、私の妹か弟なんかもできているかな、と思います。ただそんなことを思う度に、心が締め付けられるように痛みます。苦しいです。

あぁ、また会えるとするなら新しい旦那さんと私の兄弟も見せてくださいね。私には他の兄弟がいませんから、沢山遊びたいです。

関係の無い話にはなってしまいますが、ここでいくつか話をさせてください。

あなたがいなくなって、お父さんは変わりましたよ。あなたがいなくなったのが悲しかったのか分かりませんが、よく怒鳴るようになりました。あぁ、あと、アプリで配信を見るようになりました。なので話す時間は怒られている時だけです。すこし寂しくも感じますが、しょうがないですね。

それとね、お友達が沢山できたんですよ。

中学生になって色々な人と話しました。みんな面白くて、個性豊かです。あなたにも、いつかみんなと合わせてあげたいです。

でも最近はやけにあなたのことが頭に浮かんで、体調が心配です。


このお手紙はあなたの友人であったみさちゃんに渡します、きっと届けてくれるでしょうから。いつか、お返事書いてね。お母さん。


きっと大丈夫。ななより。



死んでしまった娘より送られた手紙。

厳密に言うともう娘では無いけれど、愛を持って育てたつもりだ。だから、更に心が傷んだ。

この手紙を送ってくれた娘、ななは、事故で死んでしまったらしい。中学1年生、まだまだ生きていて欲しかったのに。

まぁ、酷い別れ方をした私に、そんなこと言う筋合いはないけれど。

ななはいい子だった。誰にでも優しく、笑顔が可愛らしい子だった。例えば、リレーの時、隣の子に足を引っ掛けられ転けても、たまたまだよ。きっと反省してくれてる。と庇ってあげるような子だった。なのに、事故で命を落とすなんて。神様なんて居ないんだと思えた。溢れる涙を机に落としながら、手紙を封筒に戻そうとしたら、何かが落ちた。

これは、…

あの子が小さい時、私があげた小さい花が入った、しおり。

すぐにその栞を拾って握りしめた。折れ曲がらないように、シワがつかないように。丁寧に、丁寧に、優しい力で。


これ程までに泣いたことは今までに1度もない。それほどまで悲しかった。嬉しかった。悔しかった。


ただこれだけは言いたいんだ。


「 きっと 、 大丈夫 。 」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る