第31話 魔法のカーネーションと不思議な本


前回のあらすじ:鎖依頼チェーンクエストで花屋に行ったらなんか変な教会についた。

        ここってどこ?


「わぁ…」


そこは小部屋だった。

真ん中に腰まである白い台座だいざがあって、その上に鉢があって白い…、カーネーションが植わっている。

青と銀の光の粒子りゅうしが空中に浮かぶ。

あかりもないのに、青色の光が太陽光たいようこうが差し込まない小部屋を照らす。

神秘的だった。

そして、俺はその花になぜだかすごく引かれた。

これが欲しい。これがいい。


『セイ、ボクこれがいい!』


雪花が瞳を輝かせて言う。


「あぁ…、わかった。」


花の鉢に手を当てる。

なんだかそうしないといけないような気がしたから。

そしてだれにともなく念じる。


あなたを連れて行ってもいいですか?…と。


───いいですよ。どうか私に、外の世界を見せてください。


「?」


風に乗って女の人の声が聞こえたような気がした…。

気のせいか?


「よし、それじゃあ行こうか」

『うん!』


持ち上げると、白色の花が揺れた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「は?なんだこれ!!」


最近泊まっている宿屋に帰ってきた翌日。

本屋のおじさんから勝った本を見てみると、白紙だったところにひとつページが映っていた。


ーーーーーーーーーー

白き魔法のカーネーション


『白き魔法のカーネーション』は、この世のどこかにある花だ。

その花は量産不可能と言われ、花弁は上位魔力回復薬ハイ・マナポーションの原料になる。

伝説の存在だが、私はあると信じている。

ーーーーーーーーーー


白き魔法のカーネーション?これ絶対俺たちが持って帰ってきたやつじゃねえか!


「うっわぁ…」

『セイー』


トテトテと雪花が走ってくる。


『みてー、なんか昨日のカーネーションからタネが取れたよー』


量産不可能じゃないの?


「あー、うん、よかったな、雪花…」


少し顔が引きつる。

はは…


『ねぇ、セイ。ちょっと街で聞いたんだけどさ、家って買えるの?』

「家?」


あー、そういえば買えるらしいな。

でもめっちゃお金とツテがいるらしいし………

あれっ?

お金…、散々雪花のレベル上げに付き合ってゲットしたウサギの毛皮売っぱらってゲット済み。

ツテ…、高感度(けっこう)高め。

あれっ?

いけるくね?


「いいかもな」


そしたら倉庫ストレージ問題も解決だし、カーネーションの研究もできる。

いいんじゃね?


『ほんと!?ボク欲しい!』


すっかりその気になった俺と雪花は、大工屋に向かって走り出す。

机の上に置き忘れた、精霊伝説のことも忘れて…。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


夜。

住民NPSも寝静まり、セイもログアウトした、静寂に包まれた街の中。

ひとつの宿の一室に青色の光が灯る。

机の上に置かれた本が、パラパラとひとりでにページをめくる。

そしてひとつの白紙のページを開くと。

まるで刻印こくいんするように。刻み付けるように字が焼き付けられてゆく。

そうしてひとページ、すべて書き終わると、まるで満足したように光は消える。

この不思議な出来事は、夜の深い深い闇の中、だれにも見つけられぬままに沈んでゆく────。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る