第51話 居候の存在
うちは自他ともに認めるくらいの気分屋さんや。
おとんとおかんが他のエルフの里へ仕事に出てから、ここ数年。
ひとりでの仕事のルーティンにも慣れてきたし、茶釜の所有者になることも神に茶を点てさせていただくことも評価をいただくことが出来た。
それが好きとか嫌いとか、あんまり考えなかったんに。
ポットと出会ったことで、日常に大きな変化が出来てきた。具体的には日常生活やねんけど。
(……保管しとくだけが、もったいない思ったんよな?)
定期的に行う茶席で、ちょっとした変化があった。その程度やと思っていたのに……まず、茶釜がしゃべり出したことにびっくりしたわ。
声は男やのに話し方は女ぽい言うか、正直気色悪い。
でも、聞き続けるとおもろいもんと思った。どっちかというと、無関心だったうちが初めてほかのものに興味を持ったんや。恋愛とかにはピンと来なくて、里の男らをことごとく振ってきたうちがや。
変わった男のような存在。器は茶釜なのに。その相手を、居候させると言い出したんや。事実、話し相手にはもってこいの存在やったわ。どうやら、前世は人間の男でも男相手に愛を語らうのを生業にしていた、水商売の人間だったそうな。
それでも、女を毛嫌いしているわけでもなく、うちはむしろ安心できる存在として受け入れてもろてるそうや。それを直接言われたわけちゃうけど、似た事を言われたときに……うち、『嬉しい』と思ったんや。
うちがやで?
声とか魂は男でも、男女しているような相手が。
なんか、ほんまに男やったら、相手にして欲しいとか……ちょっとずつ思ってきたんや。普段は茶を沸かすとか話し相手とかそれだけやのに。職人としてひとりに慣れ過ぎた生活へ、潤いをくれたのがポットやったんや。
結ばれんでも、相棒としてこのまま過ごしていきたいとか……今日の祭りを通じて、はじめてわかった。
友愛以上に、うち……好きなんや。
多分、初恋に近いと思う。ポットをもっと知りたいんやって。いっしょに居たいって。
だから、川から家に帰りながら決めたんや。神へ明日とかに、頼み込んでみようと決意したくらい。
(ポットを……茶釜から出したるんや)
魂を取り出して、人間に戻せるかどうか……前は神から方法がないとはおっしゃっていたけれど。
このまま過ごすのが楽しくても、うちは嫌や。もう、無関心なうちでいたくない。
ポットと結ばれんでも、ポットと友人のままでいれるような環境にしていきたい。
人間やなくて、エルフに転生させてあげれば……ずっと、うちと友人とか相棒でいられると思う。おこがましい考えでも、ポットの繰り返す転生をここで終わらせたい。
だったら、無関心どうのこうの言ってる場合ちゃう!
『ミディアちゃんの好きな濃いめのおかずに、藻塩も色々活用できるわよん?』
「詳しいん?」
『店の提案料理を味見はしなくちゃ。ホストとしても仕事の内よん?』
「口頭でええから、レシピ頼むわ~」
こんな、なんてことない会話。兄ちゃんとも出来んかったのに……多分生まれた『恋』って、結構凄いんやな? せやから、絶対ポットをなんとかするで!!
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