第50話 エルフの里②

 ミディアちゃんの歩行ペースで、川とやらに到着したんだけど。


 あたしたち以外誰もいなかったから、思わず声を上げちゃうくらいの絶景だったの!



『でっかーい! 川っていうか河川くらいあんじゃない!?』



 ミディアちゃんが岸辺に行かなくても、だいたいの面積が見えるくらいのバカでかさ。比較すると、琵琶くらい幅があるんじゃないかしら? そうすると、もはや湖とかダム湖くらい?


 そんな幅の川とやらが、定期的に氾濫して森に恵みを与えると言ってたわね? 納得の大きさだわん。



「ここで取れる魚もやけど、もうちょいおもろいのもあるでー?」


『何々?』


「藻や」


『……も??』


「勘違いせんで? 簡単に言うと、川の中の草やな」


『えぇ? 汚くない??』



 海ならともかく、川の中の濁りがあんまりなくても藻草とかのイメージは基本的に悪いのよねぇ? あたしの中途半端な知識じゃ追いつかないだけかもだけど。


 ミディアちゃんは、そんなあたしの言葉にも笑ったり貶したりはしなかったが、『見ててや』って、何か魔法を使ったのか聞き取りにくい言葉をつぶやいたわ。



「ほーれほれ~」



 ミディアちゃんのかけ声と同時に、水の中から出てきた物体は。


 どう見ても、『海藻』のようにしか見えなかったわぁ……。



『……あれなのん?』


「これを人間とかドワーフの職人に素材で売ったら、うんまい塩にしてくれるんや」


『! 藻塩ねん!』



 たしかに。あたしがいた前世の世界では、注目されていた塩のひとつだったわね? 最初は黒い異物っぽいのと、色の感じから敬遠されがちなものだったとされていたけど……トリュフ塩とか、岩塩にクレイジーソルトの類いが需要されるようになったら、あたしも試したけど店のシェフが作ってくれたおつまみでハマったのよね?


 風味は最初独特だけど、慣れたらすんごく美味しい。特に、藻塩は日本でも古くから伝わる塩の一種だから、結構好きになれた。


 てことは、淡水の藻草でも製造可能とくれば、興味はあるわぁ。そんな活用の仕方があるのよねぇ?



「そんな呼び方が、ポットのいた世界にはあったん?」


『そうねん。人間たちにとっては伝統的な塩だったの』


「そうかぁ。これを軽く湯がいて、刻むとねばねばしたもんになるから、糊にも使えるんよ」


『食べ物だけじゃないのねぇ?』


「うちの仕事の材料にもなるんよ。修復材料にもなるんや」


『なるほど~』



 採るの?と聞けば、塩への加工作業は専門の職人さんがいるそうなので、ミディアちゃんは『自分用の食材』として魔法で持ち帰るって言ったの。


 どうやら、そのねばねば食材もなかなかに珍味なんですって。


 健康食にもなるそうよ?



「これを米に載せるのに、魚醤と混ぜたらうまいんよなあ」


『食いしん坊さんねぇ? けど、健康食を積極的に食べるのはいいことだわ』



 あたしは、オクラは食べれるけど納豆はだめだったのよねぇ……。最低、濃口醤油と卵や固いチーズ入れないときつい。ねばねばより、匂いがだめなのよ!!


 でも、別にほかの人が食べるのを否定する気はないわ。個人の自由だものん?


 この藻草は興味あるけど、食べれる身体じゃないからミディアちゃんと味わえないのよね!!

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