初恋の手記

彼岸花

初恋の手記


 僕の初恋をここに記そうと思う。




 僕の初恋、それは小学生の時だった。


 相手は同じクラスの女の子。


 彼女を好きになったのは、同じ剣道場に通っていたから。


 何度打たれても、めげずに向かってくる姿に恋をした。


 彼女とはよく話をした。


 剣道の事、勉強の事、その他色々な事。


 彼女の隣にいるだけで胸がドキドキした。


 ある日、彼女に相談があると言われた。


 何かと思ったら、なんとラブレターをもらったらしい。


 相手は僕の親友だった。


 心がザワザワした。


『どうしよう?』


 そう問いかける彼女に、僕はどう答えればいいのか分からなかった。


 親友がフラれるのは嫌だ。


 だけど、彼女をとられるのはもっと嫌だ。


 僕は黙り込むしか出来なかった。


 暫しの沈黙の後、彼女は『断るよ、好きでもないし。どうせOKだしても意味ないし』


 意味がない?


 その言葉の意味を、その時の僕には理解出来なかった。


 ラブレターの翌日から、彼女の様子がおかしくなった。


 授業中なのにボーッとしていて先生に怒られたり、ドッジボールの最中にボーッとして顔面セーフになったり。


 心配でどうしたのか聞いても、『何でもないよ』としか返ってこなかった。


 それからなんとなくお互い気まずくなって、道場でも学校でも二人で話す時間は減っていった。


 そして、いつしか言葉を交わす事もなくなった。


 辛くて、悲しくて、苦しい、そんな感情が心を蝕む。


 また以前のように楽しく会話したい。


 また以前のように彼女の隣にいたい。


 でもどうすればいいか分からない。


 悩みに悩んだ末に、彼女の親友に話を聞いてみる事にした。


『はあ?そんな事、本人に聞けばいいじゃない。まったく……鈍いんだから。あの子も苦労するわね』


 呆れた顔で溜め息まじりにこう言われた。


 本人に聞けないから聞いたんだけど。


 それに鈍いって何?


 僕には難しくて、謎が増えただけだった。


 言われた通り、翌日彼女に話かけようとすると、彼女の方から話しかけてきた。


『ごめんね。色々考えてたら、二人で何を話せばいいのか分からなくて。でももう大丈夫だから。本当にごめんね』


 そう言って微笑む彼女は、僕の好きないつもの彼女だった。


 それからまた楽しい毎日が戻ってきた。


 いつも隣に笑顔の彼女がいる。


 本当に幸せだった。


 季節は過ぎて冬、クリスマス。


 彼女へのプレゼントは流行りのキャラのキーホルダー。


 彼女に渡すと、彼女は笑いながら同じキーホルダーをくれた。


『こんな偶然あるんだねー』と二人で笑いあった。


『あのさ……君に言わなくちゃいけない事があるの』


 そう言って彼女は真剣な面持ちで僕を見据える。


『あのね、私、三学期で転校するの』


 一瞬思考が停止してしまった。


 転校?


 もう彼女に会えなくなるの?


「ほ、本当に……?」


 ようやく絞り出せたのは、この一言だけだった。


『うん、本当。でもね、君とは離れ離れになるけど、手紙いっぱい書くから。だから……だから、絶対に私のこと忘れないでね……!』


 彼女は目に涙を浮かべながら、僕に抱きついてきた。


「僕も手紙書くよ……絶対に忘れないから……」


 僕は彼女を抱きしめて、二人でわんわん泣いた。


 時は過ぎ、彼女の引っ越しの日、僕は彼女を見送りに行った。


『来てくれてありがとね。約束、絶対に忘れちゃ駄目だからね!』


「うん。絶対に忘れないよ」


『最後に、君に伝えたい事があるの』


「何?」


『初めてあった時から、ずっと君が好きでした!』


「え?」


 僕の事を好きだった?


 彼女の告白で心臓が高鳴る。


『気持ちを言いたかっただけだから!返事はいらないからね!l


 彼女はそう言って俯いてしまった。


 そんな彼女の言葉に、僕も自分の気持ちを伝える決意をした。


「……あのね、僕も君が好きだった」


『え……?本当に……?」


「うん、本当」


『そっか……そうだったんだ……もっと早く告白すればよかった……』


 そう言って彼女は、クリスマスの日と同じように抱きついてきた。


 あの日とは違い、頬を赤く染めてとても嬉しそう表情をしていた。


 たぶん、僕も同じ顔をしていたと思う。


『じゃあ、そろそろ行くね。さよならじゃないからね!また会おうね、バイバイ!』


 僕達は再会を誓い、彼女を乗せた車を見送った。


 これが僕の初恋の物語。


 今も色褪せない大切な思い出。




「ご飯できたよー。あれ、ニヤニヤしてなーに書いてるの?」


「ああ、僕の初恋を手記にして残そうと思ってさ」


「へえ、面白そう。私にも読ませてよ」


「いいよ、はい」


「どれどれ……ちょっ、待って待って!」


「どうしたの?」


「どうしたのじゃないよ!美化しすぎ!こんなにドラマチックじゃないから!」


「そうかな?僕の記憶だとこんな感じなんだけど」


「これは処分!焼却処分にする!」


「処分してもいいけど、また書くから意味ないと思うよ」


「だいたい、何でいきなりこんな物書いてるのよ!」


「いやさ、産まれる子供に読ませてあげようと思って」


「産まれてすぐ読めるわけないでしょ!」


「それは分かってるよ。でも、成長すれば読めるでしょ?僕がいかに君を愛しているか伝えたくてね」


「……もういい!ご飯できてるから、早く下りてきてね!」


 顔を赤くして彼女は階段を下りていった。


 僕の初恋の人はどれだけ歳を重ねても変わらない。


 愛しい愛しい彼女はいつも僕を笑顔にしてくれる。


 それはこれからも変わらないだろう。


 だって、僕達はこれからもずっと一緒にいるんだから。

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