Reboot

学校に着くと、如月の所属する2年4組の担任の先生にゴミ屋敷崩壊の説明を簡潔にした。


その後、急いで自分の教室に向かったが、気がつけば遅刻スレスレの時間になっていたらしい。


ひらきと教室の前で分かれると、すぐにチャイムが鳴った。


ホームルームで担任の伊東先生から緊急の連絡があると告げられた


「え〜、現国の担当をしている山井先生ですが……え〜、今月付けで退職になります」


クラスが少しざわめく。


だが、我々高校生にとって、教師の進退などに関心があるはずもなく、すぐにいつものクラスに戻った。


まあ、普通はこんなもんだろう。


でも、俺はどうしても聞きたいことがあるので、手をあげて質問しようとしたところ、前の席の関本が立ち上がった。


「伊東先生、なんで山井先生は退職されるんですか?」


「え〜、ご家庭の事情と聞いています」


『え〜』は伊東先生の口癖だ。ご高齢のためか反応が少し鈍く、話すまでに『え〜』で間をとることが多いようだ。


「山井先生はまだ学校にいるんですか?没収された俺の漫画返してほしいんですけど!」


関本は鼻息荒く、どうでもいい話を熱弁し始めた。


まあ、俺の聞きたかった山井がやめた理由は聞いてくれたので良しとする。


しかし予測はしていたが、学校側は裏サイトの件を無かったことにしようとしているようだ。


そして、伊東先生を問い詰めても無駄そうだ。この声は事務連絡をしているだけの中身のない感触を感じる。


ホームルームが終わり、授業開始のチャイムが鳴る。


現国、数学Ⅱ、日本史、地学……。


あまり、勉強が得意なわけではないが日本史は結構好きだ。


事実は小説より奇なりと言うが、日本という国がこれだけの史実の積み上げでできていると思うとワクワクする。


なんて、ぼんやり授業を受けている間にあっという間にお昼になっていた。




バタバタバタバタ。ガラッドン!ピシャ!!



終業のチャイムが鳴り終わる前に後ろのドアが勢いよく開いた。


デジャヴか……。


「藤井くんお昼だ!ご飯食べよう!」


地学の巴先生がギロッとひらきを睨む。


「まだ、授業が終わってないぞ、桧川?藤井、彼女の手綱をしっかり握っておきなさい」


ち、ちがう、彼女じゃない。やめて……。


ひらきが空気を読まずに反論をする。


「私は悪くありません!巴先生が時間にルーズなのがいけないんじゃないですか? 」


あ、巴先生の顔が……鬼のような形相に……。まずい。


「せ、先生!」


気がついたら立ち上がり、声が出ていた。言い訳せねば……。


「何だ……?藤井? 」


「お、おれは……関係ありません!!」


「はぁ?」


巴先生の笑顔が怖かった。



――



「おいっ、残念。俺に何か言うことはないか?」


「残念って何?私はひらきだよ」


「ひらき……お前、残念な美人って呼ばれてるんだろ?もう、いっそ美人を取って残念で良いんじゃないか?」


昼休みを30分も無駄にされたので、腹いせに彼女のあだ名を『残念』にしてやった。


いつものオープンテラス……という名の中庭で急いで昼ごはんを食べていた。


「二人揃ってお説教とか、仲がよーござんすね」


山下が口を尖らせ、嫌味を述べる。


「俺は残念に巻き込まれたんだよ……」


「ちょっと!私は残念じゃなくて、美人のひらきちゃんだよ! 」


こいつ……ついに自分で自分のことを明確に美人とか言い出した。完全に調子に乗っている……。


「はぁ……もう、ひらきちゃんが1人で行動するとろくなことがない」


山下のため息が深かった。俺が知らないだけできっと苦労しているのだろう。


大分遠回りしたが、俺から本題を切り出す。


「今日は予定通り、放課後に遺失物一覧の確認と江川拓夢くんにヒアリングに行こうか」


「部活後だと拉致があかないから今日は部活休むよ」


山下がそういうと、ひらきが話に乗っかってきた。


「なら、私もサボる〜♪」


何故か、嬉しそうだ。ひらきは美術部があまり好きではないのか?


「俺は元々幽霊部員だから、俺も……」


「ちょっと待った!堂々と部活をサボられては困るな!」


横を振り向くと正樹部長が腕を組んで立っていた。


うっ……気が付かなかった。


「いや、俺が部活にいてもダラダラしているだけなんで……」


「ダラダラしている暇なんてないぞ!お前から依頼を受けていた裏サイトの件に進展があった」


すっかり忘れていた。そんなことお願いしてたな。


でも、裏サイトの管理者は山井先生ということで決着が着いたと思ったのだが……?


山下も同じ事を思ったらしく、正樹部長に質問をする。


「正樹く……船場先輩、裏サイトの犯人は山井先生だったんでしょ?」


山下に名前を言い直されたのが何か琴線に触れたらしく、正樹部長は少し微妙な顔をしている。


「ああ、その通りなんだが、回収した裏サイトの中身を調べるうちに分かったことがあってな、それを……」


昼休み終了の予鈴が聞こえた。


「……続きは部活でだな。山下、ひらきどうせサボるなら、一旦、うちの部に遊びに来ないか? 」


「うん、行く!」


「そうだね、何かヒントがありそうだし」


ひらきと山下は二つ返事で了承した。


「裏サイトも復活したようだし、いよいよ面白くなってきたな!では、放課後に会おう! 」


「えっ!?」


「えっ」


「へっ?」


俺、山下、ひらきの声が被った。


「どうしたんだ、お前ら声を揃えて? 仲良しだな!!」


ガハハッと笑いながら去っていく正樹部長の後ろ姿を見送りながら、さらりと漏らした衝撃発言に唖然とした……。



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