雷鳴
ひらきが腕組みする。
「一旦、バケツ落下事件は横に避けない?なんか、情報が足りないからこれ以上考えても分からない気がするんだよね」
一理ある。芳川が事件に関与している可能性も、我々の一方的な推測に過ぎない。
山下の直感も、ひらきや俺のシナスタジアも万能というわけではないし。
山下がひらきに振り返り、答える。
「それもそうだね。でも、芳川くんには警戒したほうがいいと思う」
「それは俺も賛成だ。山下が芳川を挑発しちゃったしな……」
山下がむくれながら言った。
「もう、その話はいいでしょ」
「でも、この件で一つだけ調べたいことがあるの。加害者の男子生徒の名前と普段の素行は確認しておきたい」
ひらきが手をあげる。
「なら、それ私がやるよ。多分、すぐ分かるし」
妙に自信満々だ。理由を聞いてみた。
「友達が214人いれば、情報なんてホイホイ入ってくるよ」
「あれ、213人じゃなかったっけ?」
「えへへっ、藤井くんをカウントし忘れてたんだよね」
俺はつい最近まで友達ではなかったらしい。
……ま、別にいいけどさ。
そういうと、スマホを取り出し文章を打ち始めた。やはり、ひらきは思い立ったら、すぐに行動タイプのようだ。
その間に話を進める。
「本題の遺失物事件だけど、今のところヒアリングできたのは、今村……さんだっけ?」
うろ覚えだが、そんな名前だったはず。山下が答える。
「うん、あまり収穫は無かったけどね。一つだけ気になったのは裏サイトの情報と実際に無くした時計の特長が違ったことかな?」
……普通に考えれば、裏サイト側の誤植の可能性は高い。
だが、ここで一つ疑問が湧く。裏サイトの投稿者はどこから遺失物の情報を得ているのだろうか?
山下はそこはそんなに問題じゃないと言う。
「遺失物の一覧表を見たんじゃないかな。警備室の前に置いてあるし、誰でも見れるところにあるから」
遺失物一覧には、無くした物と名前、日付、クラス、……後、発見された場合は横にチェックがついているだけの表のようだ。
「念のため、明日遺失物一覧を見に行くか」
山下がメモを取る。
「後、もう一人の遺失物事件の被害者、江川拓夢のヒアリングに行こうか」
すると、ひらきが会話に割って入る。
「バケツ落下事件の男子生徒二人の情報がわかったよ」
もう分かったのか早い。目を丸くしてしまった。
友達が沢山いるとこんなに早く情報が手に入るものなのか?
二人は陽芽高1年3組の生徒で、今村伊織と同じクラスということもあり、詳しく話が聞けたらしい。
今村曰く、
『あいつら素行が悪いなんてもんじゃないんですよ。先生の前では大人しいけど、裏じゃやりたい放題ですからね』
学校の備品の破壊や他人への嫌がらせ。SNSへの根も葉もない噂を写真つきで投稿。
噂によると一部の生徒を恐喝しているなんて噂まであるらしい。入学したての一年生とは思えない所業である。
こんな物騒な一年生がいるという事実に正直驚いた。
バケツ事件の件も相まって、ひらきや山下が段々心配になってきた。
「山下、明日から登校と下校は一緒に行こう」
「えっ……うん」
俯きながら山下は返事をしてくれた。
「待って、私は?」
ひらきが割って入る。
「登校は厳しいけど、下校なら美術部のひらきの方が部活が終わるの早いし、ひらきが先に、その後に山下と一緒に帰ればいいだろ?」
「あっ……本当に一緒に帰ってくれるんだ」
「そりゃ、そうだろ」
ひらきは不思議な表情をしていた。声はフワフワしている、戸惑っていような感じか。
「さ、そろそろおひらきにしようか。続きは明日に……」
その直後だった。
ガシャーンという大きな音が聞こえた。
自分の部屋の窓ガラスが割れて勉強机の上に拳くらいの大きさの石がゴトンと落ちた。
部屋は一瞬でガラスが散乱し、強く降りしきる雨が中まで吹っ掛けてきた。
「キャー」
ひらきと山下が叫んだのを見て、自分の顔の頬から血が出ていることに気がついた。
部屋の中を明るい光がカッと入り込んできて、数秒後にバリバリと空気を割く轟音で雨音が聞こえなくなった。
雷が落ちたのかもしれない。
もしかして、俺たちは……誰かに狙われている?
そんな考えが頭をよぎった。
遺失物事件の調査を始めて、精々4日程度だ。しかも俺たちの動向を監視していた人間なんて山井くらいのものだ。
考えすぎか?
「悟くん!こっちに来て、雨戸を閉めてガラスを片付けるから、顔も手あてしないと……」
山下の声で自分の部屋の惨状が現実であることを思い出した。
後に分かったことだが、俺たちは遺失物事件の犯人から、かなり早い段階から目をつけられていたらしい。
それも俺がひらきと出会うよりも前に。
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