「情報は、使うことで力を発揮します」令嬢は彼のために動きます!

甘い秋空

ショートショート 情報は、使うことで


「どうせ、誰が生徒会長になっても、この学園は変わらないよね」


 私の名前はジジです。もちろん、学園内での愛称です。王立魔法学園の中等部2年生、金髪にメガネ、伯爵家の孫娘です。


 今年も、次年度の生徒会長を決める選挙が始まります。



「学園は変わる。俺はそんな気がするよ」


 そう呟いたのは、隣の席のレオです。隣国からの留学生で、黒髪、黒い瞳の令息です。よく見ると、イケメンです。


 見つめていると、ちょっと恥ずかしくなりました。


(レオと、もっと仲良くなりたいな)と思ったからです。



 選挙では、二人の伯爵令息が立候補する予定です。学園に、王族や侯爵以上の貴族がいないエアポケットの世代なので、伯爵家の令息で争われます。



「ジジ、いつも休み時間に席から離れるけど、どこに行っているんだ?」


 私は、授業の合間に、各教室を回って井戸端会議に加わるのが趣味なんです。

 でも、こんな趣味は、彼に言えませんよね。


「乙女の秘密よ」

 笑って、誤魔化しました。



   ◇



「ジジ、選挙の応援メンバーとして、名前を貸してくれ」

 レオから頼まれました。


「名前だけだよ」

 面倒くさいのは嫌ですけど、レオと一緒にいる時間は、心地よいかも。



 生徒会長へ立候補したのは、噂された二人だけです。


 レオが応援する伯爵令息の公約は「礼節を踏まえた上での平等」で、爵位や男女に関わらず、すべての生徒にチャンスを与えるという内容です。


 対抗する伯爵令息の公約は「爵位による階層と男性社会を強固にする」で、学園の7割を占める男子を取り込む作戦です。


 ちょうど、二人の父親が競っている貴族社会の覇権争いの縮図になっています。


 私の実家、伯爵のおじい様は、中立派なので、私は、静観しているつもりでした。

 でも、お友達の令嬢たちから苦労話を聞いていますし、レオの頼みでもあるので、ここは、まぁいいかで押し通します。



   ◇



 こちらの応援メンバーは、伯爵令息と仲が良い子爵令嬢、留学生のレオ、私です。

 現状は、こちら側が、かなり劣勢です。


「何か手伝う事はある?」

「ジジには、各教室で流行っている話を集めてきて」


 私は名ばかりのメンバーなので、表に立っての選挙運動には参加せず、いつものとおり、各教室を回って、お友達の井戸端会議に参加します。



 何か、レオの役に立てないかな? そうだ!


「レオ、ちょっといいかな?」


 私の考えを伝えました。


   ◇


 演説の原稿が出来ました。素晴らしいです。執筆した彼女は、私のお友達で、弁論大会で優勝した才女です。


 応援ポスターが出来ました。描いたのは、お友達で、絵画の大会で優勝した令嬢です。


 こちらでは、生徒たちに応援をお願いする手紙を書いています。お友達で、ペン字大会で優勝した令嬢です。


 配る係りは、お友達の美人令嬢にお願いしました。これまでに誘われた令息に配ってと、お願いしたら、ものすごい数になりました。


 レオにも、これまで告白された令嬢に配ってと頼んだら、予想以上の数でした。彼は、モテるのですね!


「スゴイ人達を集めてきたなぁ」


 レオから褒められ、嬉しいです。少しうつむいて、メガネのふちを、クイッと上げます。


   ◇


「向こうの陣営は、令息を一人ずつ呼び出して、投票を強要してます」

 各教室で話を聞いて回っている時、耳にしました。被害者にも確認しました。


「伯爵家の力を使った一本釣りか」

 レオは渋い顔をします。そんな顔をしないで欲しいです。



「学園へも、何かあったら、寄付金を止めるって言ってます」

 各教室で話を聞いて回っている時、耳にしました。教師にも確認しました。


「教師の口までふさいだか」

 レオは怒っています。この顔は、けっこうカッコいいです。



「まだありますけど、聞きますか?」

「もちろんだ」


 令嬢から、言葉によるセクハラを受けたと、訴えが数多くあります。

 中には、お尻を触られた令嬢もいます。

 令息からは、パワハラを受けたと、多くの証言があります。


 一気に話します。


「ひどいな」


 私が聞いた被害報告を、リストにして渡しました。


「こんなにか、どうするんだ、これ?」



「情報は、使うことで力を発揮します」


 集めて分析した情報は、真実を浮かび上がらせます。



 生徒会長の選挙戦は、接戦にまで押し込みましたが、あと少し票が足りません。



   ◇



 投票日の朝です。


「速報だ、王宮で、向こうの伯爵が断罪された」

 レオは驚いています。


 対立候補の親が、不正した件で、貴族院で断罪されました。


「それはそれは」

 私は、涼しい顔です。



「ジジが情報を流したんだろ」

 レオが、呆れた顔で聞いてきます。


「さて、なんのことやら」

 私は、涼しい顔です。



 はい、私が、王宮へ情報を流しました。


 王宮の貴賓室で、あの伯爵令息が、祝勝会と称し、応援メンバーと婚活パーティーを開き、女性を連れ込み、お酒まで飲んだからです。そこに、親の伯爵様も参加していたからです。


 さらに、あろうことか、王女の部屋に忍び込んだからです。伯爵の力で、もみ消そうとしたことも許せません。



 自業自得です。



 学園にも、令息の悪事を書き記し、私のおじい様の名前を借りて、質問状を出していますが、もう必要ないかもしれません。



 伯爵令息は、家から追放されるでしょうね。伯爵家が存続できていればの話ですが。


 応援メンバーの令息も、退学は確定ですね。



   ◇



 生徒会長を選ぶ投票は、学園の大ホールで行われ、即時に開票されました。


 投票結果は、火を見るよりも明らかです。

 すべての票を得て、勝利しました。


 相手候補、応援メンバー全てが、学園を休みましたもの。



 応援メンバーを代表して子爵令嬢が、新生徒会長に花束を渡しました。

 生徒たちから拍手が湧き上がりました。



「いいのか、新会長は、ジジを副会長に指名したかったのだぞ」

 ドン帳の陰で、レオが聞いてきます。


「いえいえ、仲の良い子爵令嬢が適任ですよ」

 笑って答えます。



(レオとの仲が深まったことが、私への一番のご褒美です)



 壇上から下がってきた新生徒会長が、手にした花束から一輪の赤いバラを抜きだし、笑いながらレオに渡しました。


 こ、これは、男子同士の友情の証ですか? まさか、そんな関係だったなんて!

 スクープです! てぇてぇッです!



 しかし、レオは、その一輪の赤いバラを、なんと、私に差し出しました。



「ジジ、俺と付き合ってくれ」


 レオの言葉で、私の魂が口から飛び出て、天に昇っていきました。

 私は、幸せ者です。



 ━━ FIN ━━



あとがき

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