私は、誰から婚約破棄されたの?
甘い秋空
1)婚約破棄で王宮から追放される
「ピーチ嬢との婚約を破棄する」
第一王子が宣言しました。
国政を話し合う御前会議に、なぜ私が呼ばれたのか不思議でしたが、こういう事でしたか。
お父様が、キレそうですが、もともと国王から押し付けられた政略結婚なので、私に任せるという事ですね。
私は、侯爵家令嬢のピーチです。銀髪でピンクの瞳を持つ、桃のようにかわいい娘でした。
でも、今は、厳しい王妃教育のせいで、可愛げが無くなったと、自分でもわかります。
「理由を聞かせて下さいますか」
お互いに愛情などありませんでしたが、良好な関係を築いてきたつもりでした。
それが、突然、人が変わったように婚約を破棄するなんて……
「俺は、真実の愛を見つけた」
第一王子が、演劇のようなセリフを言います。
「王子様の横に立つ令嬢が、新しい婚約者なのですか?」
横に立つ令嬢は、見たことがありませんが……
あれ? もしかしたら第一王子の侍女さんかも?
「そうだ、彼女の献身的な働きに、俺は惚れた」
彼は、頭のネジが緩んでいるようです。
侍女さんは、お仕事で王子の身の回りの世話をしているのですよ。
上流階級の皆さんはザワついていますが、国王と王妃は微笑んでいます。
「私への慰謝料を、婚約時の契約書に基づき、請求いたします」
契約書には、不貞が原因となる場合、慰謝料を支払うことが明記されています。
「でたらめを言うな! そんな女は、国外へ追放する」
第一王子は、暴君のように宣言しました。
「後悔するわよ」
私は不敵に微笑み、第一王子の顔は引きつっています。
「待って下さい、兄上」
「ピーチ嬢との婚約は、王国の安定に必要な契約です、お考え直し下さい」
第二王子が、暴君になった兄を止めようとします。
「逆らうのか!」
「お前も、ついでに、その女と一緒に追放する」
第一王子は、第二王子にも矛先を向けます。
貴族院の皆さんは、自分に害が及ばないようにと、黙り込みます。
爆発直前のような静けさです。
「第二王子様、この場は、引きましょう」
私が促します。
二人で会議室から退場します。
◇
「ここは王族しか入れない部屋だぞ、ピーチ」
「この部屋は、宝物庫ですよ、ラルフ」
知ってますよと答えます。
「王宮では、ランドルフ第二王子と呼べ」
「追放先ではお金が必要なのです、ラルフ」
第二王子は、学園時代の同級生です。あの頃が懐かしいです。
扉に手を触れます。触れた個所が淡く光り、カチャッと、カギが開きました。
「なぜ、開けることができるのだ。俺でも開け方は知らないのに」
「私は、王太子妃の厳しい教育をクリアした令嬢ですよ」
愛情のない婚約であっても、やるべきことはやります。
宝物庫の中には、貴重な魔道具や、高価な宝石などが整理され、保管されています。
目を付けていた宝石箱を開け、小さくて高価な宝石を、慰謝料として頂きます。
なんだか、以前より宝石が少ないですね。小さくて高価な宝石が、もっとあったはずなのに、おかしいですね。
「でも、これくらいあれば、平民として暮らしていけるわね」
宝石を胸の秘密ポケットに詰め込みます。今の私は巨乳です。
「ラルフ、何をぼんやりしているの。ここで働かないと、将来、食えなくなるわよ」
「なぁピーチ…兄は人が変わったようだった」
「父と母も、そうなんだ」
彼にとって、かけがえのない家族です。心配になるのは当然です。
「ですね、私もそう思います」
あ、冷静になると、若い男女が、部屋に二人きりです。
今は緊急事態なのですが、照れくさいです。
もし、政略結婚が無ければ、私は第二王子と婚約していたと思います。
学園時代の淡い恋心を思い出しました。
◇
使用人の出入り口に出ました。
ここに馬車が止めてあるはずです。
「どの馬車を盗む?」
第二王子は楽しそうです。
「遅かったじゃない、ピーチ」
馬車の陰から、女性の声です。
「「レモン!」」
彼女は、学園で同級生だった男爵家の令嬢です。王宮で文官として働いています。
「二人とも、早く乗りなさい、この馬車で王宮を出るわよ」
彼女は、信用できる人物なので、指示に従います。
「レモンは、馬車を動かせるの?」
「任せなさい」
どうやら御者の資格を持っているようです。
「ラルフ、どこへ行く?」
「当てはない、ピーチは?」
「私も、隠れ家なんて持っていません」
困りました。こんな事態への備えなんてありません。
「私に任せて。心当たりがあるわ」
ここは、レモンに任せるしかありません。
王宮が遠ざかり、夕焼けで赤く染まっています。
「必ず戻ってくる…」
第二王子がつぶやきました。
(次回予告)
王宮を追放された第二王子とピーチ嬢。
隠れ家で力を蓄える二人は、はたして、逆転できるのか?
あとがき
最後まで読んでいただきありがとうございました。
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