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そんな生活を、続けていた。
たまに多めに作ったご飯は持って行き一緒に食べたり、お金を渡されて買い出しに行ったり。
そんな生活を、続けていた・・・。
私が高校3年生になると、イチはもっと忙しくなった。
家に何日も帰ってこなくなった。
それでも、“働いていない”と言っていた。
お金も“仕送り”と言っていて、バイトもしていなかった。
それでも忙しくて・・・
それでも、今年も・・・
「ミツ、誕生日おめでとう。」
5月15日、私の誕生日には今年もプレゼントをくれた。
私が高校3年生になった瞬間から、忙しそうにしていたイチ。
それでも、夜に帰って来て、家に行くとプレゼントを渡してくれた。
高校1年生の時も2年生の時も、プレゼントをくれた。
そして、3年生の今年も・・・。
今年も、このクマのキャラクターの物・・・。
そして、たぶん今回も・・・
「クレーンゲーム?」
「1回で取れた。」
「ありがとう。」
クマのキャラクターのストラップを受け取り、胸に抱き締めた。
「でも、何でこのクマのキャラクターなの?」
「女の子が好きな物、僕はそれしか知らないから。」
「誰か好きなの?これ。」
「幼なじみ。
ミツと幼なじみ、生年月日が同じ。」
「そうなんだ。
その女の子がこのクマのキャラクター好きなんだ?」
「ゲームセンターが好きな子だから、クレーンゲームでプレゼントするよう言われてた。」
イチには幼なじみがいるらしい。
私と生年月日が同じ女の子で、ゲームセンターが好きな子。
このクマのキャラクターが好きで、誕生日にプレゼントをあげていた・・・。
それを考えたら・・・なんでか、なんでか、泣きたくなって・・・
泣きたくなって・・・
泣いた・・・。
「ミツ?」
イチは、何故か私を“ミツ”と呼ぶ。
「その幼なじみ、ミツって名前なの?」
「違う。」
「このプレゼントは、私に取ってくれた物・・・?
私にプレゼントしようと思って、取ってくれた物・・・?」
「そうだけど・・・。
このクマ、好きじゃなかった?」
そう聞かれ、首を横に振る。
「好き。ありがとう。」
涙を拭いて、イチを見る。
「初めて、イチがくれたプレゼント・・・。
それがこのクマのキャラクターだったから、私は好きだよ。」
前髪と眼鏡で表情が分からないけど、そんなイチに言う。
「好きだよ・・・。」
そう、言った・・・。
私は、イチが好きなんだと思う・・・。
イチが、好きなんだと思う・・・。
約1ヶ月後に25歳になるイチ。
それでも働いていなくて、仕送りをしてもらっているイチ。
自分のことは聞かないと教えてくれなくて、顔も見せてくれないイチ。
そんなイチのことが、私は好きなんだと思う・・・。
そう、思っていた時・・・
「遅いから、早く家に帰るように。」
イチが真面目な雰囲気でそう言って、玄関の扉を開けた。
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