17節 魔本は妖刀に似てる
先月少しだけ、少しだけ自分のことを傷つけた。お前がいるからうまくいかないんだ、と言われた。全てがダメな自分への罰だ、気持ちが少し楽になった。
二週間前もうちょっと傷つけた、自分を。言われたからだ、いなくなればいいのにと。私の存在って間違えなのかな。やっぱりちょっと楽になった。
一週間前、傷つけた。手のひらを。生まれなければよかったのにって言われた。本当にそうなのかな。前よりも楽にならない。
三日前、また手のひらを傷つけた。あざと傷だらけの左手で今度は右手に。私は普通の日常に戻れないのかな。ちょっとも楽にならない。
二日前、泣きながら今度はお腹に傷をつけた、お臍の少し上くらいに。言われた、死ねばいいのにと。痛みで生を実感させられた、私の日常はもう。
昨日、死ぬ決意をした、右腕の血管を切った。
耐えられなくなった。普通の生活がしたかっただけなのに、存在を認めてほしかっただけなのに、でも今日は、し………… もういい、アンタは寝てな!
その人生、あとはアタシがもらう!! だから休んでな。仇は取ってあげるから…… さ。
アンタの…… ハナの体、頂戴するよ!
ひとつ不思議に思ったことがある。最新の認識では、この世の中において悪魔と呼ばれてるのは実際は魔族という種族である。
彼、彼女らが居るとされている地獄は、実際には魔公国もしくは魔界と呼ばれる異世界だという。
その世界の住民である魔族は、いくつかの階級に分かれており、常に闘争を求め魔獣と呼ばれる最下級、大部分を占めそのほとんどが平和な暮らしを望む下級魔族、公国の管理などを行う上級魔族、圧倒的な能力を持ち魔界を実質支配する最上級魔族、このように区分されているらしい。
その最上級の中でも抜きん出ている三体の魔族は三公と呼ばれる。そして人間よりも進んでいる魔族達のうちでも、畏怖と尊敬の対象になっている人智を超えた存在。
………… の筈だが…… 僕の中にいるのは少し違うらしい。
『おぉい、リョウ! こ、これはどういうことだ。このあとは、このあとはどうなるのだ?!
何故無いのだ…… この次の…… 物語が』
そう、僕の中にいるゼウルは三公と謳われる最上級の魔族、だが今は漫画に夢中である。そして次巻がないので喚いている。
「それは最新巻だから次はないんだよ、まだ。えっと…… 巻末には半年後だって次のやつが出るの」
『な…… 何だと、そんなに待たねばならないのか? …… 早く続きが知りたいぞ。やはり人間というのはくだらないな」
あの…… 大量のグルメ雑誌とコミックを、僕に買わせたやつが言うことじゃないよね。おかげで、財政難だけど…… 。
「そういえば、ルナはなんか買った?」
「えぇ、私も少々購入しました。こちらを」
一冊の料理本を大事そうに抱えていた。もしかして…… 同居中の僕に作ってあげるために。
「食べ物は悪魔に効果的なのではないかと思いまして、今後の任務のためです」
まぁ、そうだよね、なんかそんな感じかなと…… 期待してないからね。
『お前は本当に短絡的だな。良いか、ルナは我のために料理をするのだ。我をもてなすためにな』
「いえ、今後の対悪魔に備えてです」
対象は僕でもゼウルでもなかったようです、その答えは本当にルナらしいよ。
『魔族に料理で対抗とは…… おかしなやつだ。ふっふっふ、魔族は本来食事など取らないから意味はないぞ。お前も意外と愚かなのかもな、リョウのように』
「じゃあ、今日は食事が必要ないのかな?」
『な…… それはダメだ! 我を他の魔族どもと一緒にするな。だからこれより昼食にするぞ、そうだな…… 今日はこのサンドイッチというのがいいな。最初に食べたハンバーガーとやらに似てて、良さそうだ』
結局、いつもこんな感じになる。ゼウルに振り回されて付き合うのだ、でもそれも悪くないかもしれない…… こういう日々が続いても。
「確か駅の方に、パン屋さんがありますね。そこが良いと思いますよ」
「そうだね、じゃあそこに向かおう。ゆっくりできそうだから、買った本もそこで読めるし」
この不思議な共同生活も案外良いものだね。この日常がいつまで………… 続いてくれるかな。
でも今日は、しあわせな気分かもしれない。初めて髪を染めて、初めて服を買って、初めてお洒落をした。アタシにとっては初めての今日。何より人間として街を歩いたのも、初めて。
いやぁ、凄イ! 都会って! 色彩ゆたかで活気があって、金属でできてて、まるでアタシみたい。でも、歩いてる人間は全て同じに見えるねー、特に黒と白の服着た人達、アレは嫌いだね。死装束みたいな服着て、辛気臭い顔して、あれって生き物? 部品じゃないの? アタシ以下っしょ、真面で。
楽しい話題に戻そっ、この制服ってのに色もつけたし、見てよこれ。今風の染料、すぷれぇっての右は紫、左は桃色、真ん中は元のまま黒、洒落てない? アタシの目とお揃いで。それに髪も染めちゃった、こっちも右の毛先は紫、左の毛先は桃、間は黒って感じで! さいっこうに決まってない?
でさでさ、楽しんでたらお腹空いちゃってね、アタシったら、なうい食事処の一つも知らないわけ、で途方に暮れてさ街を歩いてたの!
そしたら不思議な二人? 三人?がいてさ。不思議ってのは見た目じゃないよ青白ちゃん。一人はなんか完璧な未完成の羽細工でね、もう一人は、いや二人かな? カラクリでできた宝石入れの中に、黄色の金剛石がしまってあるみたいでもう綺麗で綺麗で!! 思わず追っちゃいましてね、アタシ。
で、ついていったら美味しそうな香りの店に入ってね、えっ? なにこれってもう運命? とか思っちゃってね、もういてもたってもで相席しちゃってるのが今のアタシというわけだね!
なるほど、そういう経緯があるのか? …… なるほど ?さっぱりわからない。
僕たちは複合デパートの中にある本屋を出たあと、駅のそばにあるパン屋に行った、ゼウルがサンドイッチを食べたいといったから。ルナがたまに訪れるお店らしく、買ったパンを店内で食べれるという。今はお昼過ぎなので中は空いていた。周りからみると二人なのだが、広々と使いたいので四人席に座った。
「行きつけの店なので、私が注文してきます。ついでにお代も」
「おぉ、ありがと。ゴチになります」
『流石ルナだな、気が利く』
ルナが、注文のため席を立つと一人の少女が急に僕の横に座り、こちらが何かを尋ねる前に語り出した、そして今に至る。この娘は誰なんだろう?
『む、お前の知り合いではないのか? 何者だこの娘は』
(いや、知らないよ。魔族関連じゃないの?見たところ高校生っぽいけど)
『我は知らんぞ、こんなもの』
「ねぇねぇ、せっかくさ相席したんだから、アタシと話さない?………… おにいちゃん! 」
…………………… えっ? お兄ちゃん?
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