14節 現状のデビルパーティー
『もしもし、リョウ。リンだよ、元気? なんか、この前会ったきりじゃん?…… だからさ、元気かなって思って? なんか、ほら、様子おかしかったけどさ…… 大丈夫? 私もナオトも何回か電話してるけど出ないしさ…… 学校にもきてないしで…… 心配でさ。色々、忙しいとおもうけどなんかあったら、連絡してね。じゃあ 』
夕暮れの教室で小平リンは一人スマホを眺めていた。薄暗い蛍光灯が途切れながら点滅している。周りには誰もいないため、一層心細さを感じられるだろう。
これで、三回目の留守電。本当どうしたんだろう…… リョウは。この間のリョウは、確かに変だった。一週間、経ってるとか言ってたけど…… もし。
「なぁ、そろそろ帰ろうぜ。もう暗いし、部屋もさ」
いつのまにか、ドアにもたれかかるナオトによって現実に、引き戻される。
「うん…… 帰ろ」
荷物をまとめ部屋を出る。校内にはほぼ誰もいないのか影が潜んでいる。
「今日もリョウ来なかったな…… 」
影の中に潜む寂しげな背中を見送るものがいることを、二人はまだ知らない。
同日 深夜
……まぁ、こんなことだろうと…… 思ったけど。流石に、これは酷くない? あの誘い方で。デート的なことだと、期待しちゃうんじゃない? あんな言い方したら、でも、ここは。
静まり返った、薄暗い遊園地に佇むリョウとルナ。ただの遊園地ではない。平成の初めの頃に廃園となり、この令和の世の中まで廃棄された時代の墓場。
「な、なぁ、こんなところに連れてきて…… ど、どうするんだよ…… 」
「おや? 悪魔と共生してる貴方が、怖がっていると? 不思議なこともあるものですね」
『なんだ? 震えているぞ。怖いのか、お前も所詮そんなものか。ふっふっふっ、安心しろ我がついている、文字通りにお前の体にな』
「別に、怖がってるわけじゃ…… いや、まぁそうなんだけど、でもこの景色をみてビビらないやつが、どれだけいるのか気になるよ!」
電気はかろうじて先が見えるほどの灯りで、遊具はほぼ壊れているらしいが、所々稼働しているものもあるらしく、時々楽しそうな音にノイズが掛かったような音が不気味に聞こえてくる。壁や床には意味不明の文字がスプレーで落書きされているために、とても治安の良い場所だとも考えづらい。それに長く白い石がいくつも落ちている。考えたくはないが、あれは人間の…… かもしれない。
これで、恐怖を感じない者が世間にどれだけいるだろうかアンケートを取りたいところだ。正直情けないことだが、ゼウルが指摘した通り全身の震えが止まらない。あぁ、もう早く帰りたい…… 。
『まぁ、お前の気持ちもわかる。確かにここは、あまり気持ちのいい場所ではないな。何か我でもわからぬ嫌な力を感じる。おそらく、それで強い存在を引きつけない。だから獣の魔族、魔獣どもが住処にしてるようだな』
「えぇ、その通りです。今回あなた方を連れてきたのもそのためです。数が多いため私だけでは対処しきれません。この場所では先日も紛れ込んだ動画配信者が、行方不明になっています。早期解決のためにご協力ください」
『いいだろう、引き受けよう。リョウ、ここはお前が言ってたように治安が悪い。こちらの世界でいうとこの貧民街のような場所だな』
貧民、スラム街、確かにそんな印象を見受けられる。悪い人間と、反乱を起こした下級魔族たちもここに集ってるらしい。体がゾクゾクするのはそのためかもしれない。今は大きな室内にいる。多分、ここはゲームセンターだが、子供たちで賑わっていた面影はもうなく、ただのゴミと鉄屑の山になっている。
Urrrrr…… rrrrr
周りの至る所でガタガタと音が聞こえる、唸る声も、何かが近づいてくるようだ。
不意に大きな物音がした、すぐ後ろで、僕の。…… 振り返るといる、暗闇に光る目をした猛獣のような恐ろしいものが。
『………… 確かに羽宮の言う通りだな。二十ほどはいる、囲まれているな』
「えぇ、そのようですね。気づかれていましたか…… どうします、リョウ? 」
「どうするって………… 倒すしかないでしょ…… ゼウル、右腕の準備! 」
右腕に意識を集め、力を込める。すぐに光を放つ、黄色の腕甲に変化した。前よりも素早く。
『準備をするのは我ではなくお前だ。望めば、すぐに出せるのだ、戦うのはお前だからな』
「こちらも準備はできてますよ。どうしましょう…… 」
どうしましょうって、ルナのほうが経験あるんじゃないの? ルーキーに求めないで、指示を。
『羽宮、お前は左の奴らをやれ。頭部を潰せ!そのほうが、手間がかからない。そっちに二体いる水色のは麻痺毒を使うから気をつけろ、先に手足を狙え!!』
「…… 了解しました!対象を殲滅します」
少し間が空いたが、ルナは魔族に向かっていく。光る傘を構えながら。
「凄いよ、ゼウルはこの状況でも冷静で……ねぇ……. 僕はどうすれば良いかな? 」
『それは、自分で考えろ、心配するなサポートはするぞ』
—— とりあえず、前倒したことがあるやつからにしよう。まずはあいつからだ。
リョウをめがけて飛びかかる四足歩行の魔族の頭に、拳での重い一撃を加える。首から下だけの獣は、すぐに消滅した。
「結構……. いけるかも。慣れてきたかな」
『少しだがな。だが油断するな、左だ! 防御しろ! 』
ゼウルの声に合わせ、左からきた爪が長いタイプの獣の攻撃を右手で防ぐ。
「う、ぅあぁぁ」
—— 右手に鈍い痛みが走る。肘の少し先に爪が食い込んでいた。赤い液が、少し流れている。
『バカもの! 防御といっただろうが、硬化させなくてどうする!! 』
「それは……. 早く言ってよ。うぅ、すごい痛いよ、ほんとに。…… で、こうかってなに? 」
『…… そんなことも知らないのか。我の体なのだぞ、もっと丁寧に扱え! む…… そうだな、盾だ、自分の腕も盾だとおもえ。またくるぞ! 』
右手が盾、ね…… やるだけやってみよう。緩和されているけど、腕に切れ込みを入れられるのはもう嫌だ。盾、盾、僕の右手は盾。やるしかない。
金属と金属がぶつかる音が響く。腕に纏う光の形が変わっている。どうやら、成功したらしい。
『よし、良くやったな。次はあれだ、攻撃だ。剣だ剣、剣でいけ!』
「あぁ、この手は剣…… ね」
爪を弾いた後、獣の腹を切り裂いた、光の剣で。首を落とし、唸りながら悶絶する魔獣を介錯する。
『まだ二体だけだ気を抜くな。だが、今のは上出来だ。その調子でいけ、次は壁に張り付いてるやつがいい。あいつは牙を飛ばしてくるから注意だ。防御しながら近づいて、攻撃しろ』
「あぁ、わかった…… 盾のままでいいんだね」
六本の足で張りつく獣の魔族に、リョウは駆けながら向かっていく。獣は蜘蛛のようにくっついているが、頭は背中側にあるためそこから鉛筆のような牙を六、七本ずつ放つ。
『そのままだ。絶対に腕を動かすなよ!顔面に直撃するぞ』
「……はぁはぁはぁ、そ、それは避けたいね」
『そんな程度で息をあげるな!情けない。』
あぁ、そうだね。…… もっと運動しよう、息が切れてきた、帰ったらジョギングとか始めようかな。
『我の体なのだから日頃から動けるように調整しておけ、たるんでいるなお前は。ルナをみろ! 凄いなあの女は』
ほんとにすごい。ルナは光る傘を振り回し、獣を次々と消滅させている。例の水色のやつに関しても、毒のある爪や角を速攻で切り離し、頭部を美脚で蹴り上げ倒した。全ての攻撃に無駄がなく効果的、相当訓練をしていると容易に想像できる。
………… ルナと戦わなくて本当に良かった。味方だと心強いな。
『あの女の体が良かったな…… 』
「僕だって……. 頑張ってるけどね、新品にしては」
リョウはぼやきながらも、壁の獣に剣のような右腕を突き刺した。獣は消滅すると穴が空いたコンクリートの壁だけが残った。
『なんだ拗ねているのか? 冗談だ冗談。ふふお前は面白いやつだな』
「いや、別に、そんなんじゃ…… 」
めんどくさいやつだな、意外と。
『お前!面倒くさいとはどういうことだ!!そんな小言をいうようなやつの方が面倒なのだ!!』
戦闘中に、一体何をやってるんだろうかあの方々は。本当に不思議だ。でもあのくだらなさが、特別な理由なのかもしれない。—— さて、こちらは片付いた。向こうも、もうすぐだろう。しかし、こんなにたくさんの悪魔がいたとは、何か理由でもあるのか。
「よし、こっちも終わったよ。大丈夫ルナ? 」
「えぇ、ご心配ありがとうございます。貴方の方こそ怪我はありませんか? 」
怪我はない、いや正確にいうと治った。ゼウルのおかげで。でも、ダメージは前よりも少ない。少し慣れてきたみたいだ。
「平気そうだよ。僕も、で今回はこれで終わりでいいの? 」
「はい、ご協力ありがとうございました。リョウ、それに…… 悪魔さんも」
『統括きょ…… いや、長いからゼウルでいい。悪魔と呼ぶなゼウルと呼べ。我らにも名はあるのだぞ』
これで、ここに魔獣はもういないみたいだね。やつらの体はもう無いけど。なんで消えちゃうんだろう毎回。
『それはな、我らがこの世界のものでは無いからだ。人間の体に憑依するのはそのためだ。さっき倒した奴らだって人間か生き物を喰って同化している、だから存在し続けられるのだ。そして倒すと体が死ぬ、だから元いた世界つまり魔界に引き寄せられるのだ』
「そうなのですね。だから悪魔を倒すとこの世の存在証明が、できなくなるというわけですね」
『うむ、そういうことだ。リョウ、お前はわかったか?』
いや、正直いうとさっぱりだ。もう少し簡単に説明できないかな?
『お前はやっぱりバカだな、わからんのか。むぅ…… どうしたものか』
「つまり、歩行者は車道を歩けないけれど、車に乗れば走れます。ですが、歩行者は車がなくなると歩道を歩かなければならない…… こんな感じですかね。どうでしょうかリョウ」
「おぉ、なんかわかる気がする。凄いねルナは、ほんとに」
つまり、乗り物というその場に居るための体が必要で、その体がないと居れなくなる…… ということかな。
『ま、まぁそういうことだと。我の説明で理解できるだろうに…… まったく』
ごめん、イメージできないとわからないタイプで。だいたい普通に生きてるだけだとわからないよ、そういうのは。
『そうだな、お前たちが世界の在り方など考えながら生きてるわけもないな。だから目先の食事などにあれほど、こだわるのだ』
「でも、その食事が好きなのは誰だっけ? もう食べないようにしようか、もっと広く考えるために」
『それはダメだ!絶っ対にダメだ!!別に…… 否定してないからな。必ずまた、食べにいくぞ」
なんでこんな俗っぽいんだろう、この魔族。
「すいません、少し良いですか?」
少し遠くから、ルナの声が聞こえた。僕たちを呼んでいるようだ。
「すいません…… リョウ、ゼウルさん。これはどういうことなんでしょう」
ガラクタの山を超えて、声の方向に向かうとそこには死体があった。おそらく魔族だ、グレーな毛に覆われ大きな体をしている。だが頭がないのだ、まるで刀で斬られたような断面をした首から上の部分が。表面は一度丸めた紙のように皺皺で長時間放置されていることを、表している。
「ちょっと、ゼウルこれ、消えてない。魔族なのに…… なんで?」
『確かに下級魔族だろう。メイゼルの弟でヘイゼルとかいうやつだ。すでに力を抜かれているな。………… 一体どういうことだ?』
嘘でしょ、ゼウルでもわからないの?…… もしかして、着ぐるみじゃないよね。
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