ロード・オブ・ツヴァイ  悪魔に取り憑かれると自分の時間が少ない

湯ヶ崎

1節 あくまでイントロ

  どうやら、この世に悪魔というものは存在するらしい。今…… 君、鼻で笑ったね?あぁ、そうだよね、側から聞いてると確かに馬鹿馬鹿しいよね。さっきから憑依だの、魔術だの、悪魔だのって中学生の時になるやつみたいだと僕でもそう思う。でもそんなんじゃないよ。


 作り話を本当にあったみたいに話すやつがいるけど、そんなのとは全然違うよ。これは本当なんだ。……別に傷つけるつもりはなかったって?

 

 ほら、聴いてくれ、また”あいつ”が笑ってるよ。

 

 とにかく、どこから説明したらいいんだか。……僕のことを知りたい?あぁ、そうだね。お互いのことを知るのは大事だよね。

 

 自分で言うのもなんだけど、普通よりちょっといい人生を送ってたと思う。小、中、高では成績は優秀だった。上から数えた方が早かったし、運動だってそこそこできた。今年で終わったけど幼馴染の由梨とは中三から付き合ってた。彼女、元気にしてるかな……?


………… とりあえず、そんな感じだったと思う。具体的なエピソード? 記憶に残るようなことは何もないかな、思い出せないし。

 

 なんか、人生自慢に聞こえる?大丈夫ここがピークだから。ここから先は色んなことがおかしくなった。

 さぁ、地獄の始まりだ。



10/23 19:56


 朝、七時になったら起きる。水を飲み、コーンフレークに牛乳をかけて食べる。そして洗面所で歯を磨き、顔を洗い、鏡を見て、荷物を持って、鍵をかけて家を出る。その後、大学に、行き講義をいくつか適当に済ませて、バイトに出て、家に帰って寝る。最近の僕の人生はこの繰り返しだ。

 

 今は駅のホームで電車を待ってる。つまり帰って寝るの、帰るの行程だ。でもやっぱりこの時間だと、電車は混んでる。まぁ、仕方ない帰宅ラッシュだからね。

 

 都心からは少し離れてはいるが、やはり東京ということには変わりない。この時間になると都内から埼玉へと家路に着く社会人は大勢いる。双川リョウは電車を三回も見送っていた。

 

 なんだか、待つのも飽きたし歩いて帰ろう。何回か、歩いて帰ったこともあるし、そんな距離もない。二時間くらいかかるけど……。

 

 駅前の通りは赤い光に包まれていた。そし

て、すぐ後にけたたましくサイレン音が聞こえる。少し歩いて、住宅街の中を通る。その細い道に入ってもまだ聞こえる。いや、駅の方からじゃない。さっきから大通りをパトカーが行ったり来たりしている。


  なんか、最近パトカーを何回も見かける。治安が悪くなったのかもしれない。また、通った。でも、それにしても多いな。なんか、この近くで事件でもあったのかも。まぁ、でもそれは警察に任せれば大丈夫だろう。僕は早く帰ろう。

 サイレンの音を聞くと、なんだか追われてる気になるのはなんでだろう。そういえば、大学の先生が、人間が原罪を犯したから……とか言ってた気がする。さっぱり意味がわからないけど。

 そのまま歩いていると、川沿いの道にでた。街灯がしょぼくて、暗いから人がほぼいない。けど近道だ。この道を通ると、毎回考える。もし、今何か起きたらどうなるんだろうと。


  この道を通ると、毎回考える。例えば、急に強盗が出てきて殴られたら。殺人鬼と鉢合わせて、腹部を刃物で刺されたら……こんな感じに。

 実際起きて欲しいわけじゃない。でも、もし何かあったら、人生は大きく変わるだろう。妄想に耽るリョウを照らす街灯が、ついたり消えたりしていることに彼は気づかなかった。また、暗く淀んだ橋の下から、彼を見つめている人影があることも。

 

 少しすると、歩いていたリョウは立ち止まった。彼が気づいた異変とは、先程から周囲に立ち込める霧でも、地面に浮かぶ不可思議な文字と魔法陣のような模様でもない。強い光で照らす街灯の下に佇む何かである。


  スポットライトを浴びながら、その場にいる何かを、僕は見てしまった。最初はその美しさに見惚れた。夜霧の中にさす、一筋の光を受け、フードを被った何かが黄色い光をメラメラと放っている。確かに綺麗だ。けど、すぐにわかった。心臓の鼓動が早まり、全身の産毛が逆立ち、足と手が震え、脳が、神経がサイレンを鳴らす。アレは人間が見てはいけないものだと。


 すぐに逃げようと思った。けどダメみたい。視線を逸らしても、惹きつけられるし、手と足に力が入らない。とうとう僕は立てなくなった。

 

 あまりに、非現実的だ。あぁ、そうか多分これは幻覚かな。脱水症状かなんかで、倒れそうなんだろう。確かにさっきから一滴も水を飲んでない。口も渇いて、言葉も話せない。耳がぼわぼわして、音が遠くなる。視界も紫と黄色が混じってぼやけてきた。

 

 あれ、これ救急車とか……呼ばなくていいのかな?このまま……死んじゃう?でも……もう……意識が。

 世界が闇に染まるなか、自分以外の何かの声が聞こえた。


『喜ぶがいい。お前の体は、この悪魔ゼウルがいただこう。永遠にな』



……なんか、言ってることが安っぽくない?

 



 

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