第41話 髭親父の昔語り

四年前…

俺がウズメと出会ったのは、教会が経営している薬局の中だった


「おい!痛み止めの薬が売り切れ…って、どういう事だよ!」

俺はつい声を荒げて、神父に文句を言ってしまう


「貴族の方が買い占めていったのです…息子さんが病気だとかで…」

「一人で店にあるやつ全部買うこたぁはねえだろ!?」

「心配だから予備の薬も持っておきたいと…」

「くそっ…金がありゃ何でもありかよ……」

こっちは根詰めて働き続けて、ようやく手に入れた金なんだぞ

せめて使わせろよ…

頭を抱えて悩む俺

どうする?今から遠くの街に足を運ぶか…?


そんな俺に、一人の青髪の少女が近寄り、声をかけてきた

年は娘と同じ…十三くらいだろうか?

質素な服を着ているが健康的な身体で…胸が大きい


「おじさん…痛み止めが必要なんですか?」

…なんだ?

どうしてこいつはそんな事を聞いてくる?


「ああ…娘が病気でな…

 医者が言うには先天性の病で、治る病気じゃないんだが…

 体の痛みは薬がありゃ抑えられるんだ」

薬はそれなりに高く、毎日となるとかなりの額になる

それでも、娘が少しでも楽になるならと、仕事を増やしてなんとか賄っている


「…あんた、薬を売ってくれるのか?」

「いえ、私も薬は持ってないですけど…」

「なんだ…ないのか……」

単なる親切心で、薬を分けてくれるのかと期待したが…そうではないらしい


「けど、採れる場所は知ってますよ!」

謎の少女は俺の手を取り、ドヤ顔で告げた


「え…採れ……は?」

俺は少女の言ってる意味が分からず、ただ首をかしげるだけだった



それから数時間後


「お、おい!ここはどこだ!?」

「ヒンダル山です!ご存じないですか?」

俺は少女の導きで、どこかの山奥の山小屋にやってきていた

結構な距離を歩いたが、俺はともかく少女も全然平気な感じだった

…何者だ、こいつ


「痛み止めに使われる薬草はここで採れるんですよ」

「…!マジか!」

そうか…この少女は、薬草を仕入れて薬局に届けている薬草師!


「ただ、モンスターが出るので、普通の人は入らないだけで」

「お、おいおいおい?!」

「私たちのギルドは、薬草の採集も請け負ってて、この山にはよく来るんです」

ぼ、冒険者ギルドの人間だったか…


「私、思うんですけど…おじさんは冒険者に向いてるとおもうんです

 自分で薬草を採取して、自分で薬を作れば、先に買われる事もありませんよ」

「…ま、まあ確かに、言ってる事はわかるが」

「あの薬なら、薬草を取る以外は、難しい作業ではないですし

 もし、ギルドに入って頂けるんでしたら、サポートもしますよ」

「あー…要するにアレか、ギルドへの勧誘か」

「はいっ」

初めからそう言ってくれれば早かったのに…

というか、俺も素直に聞いとけばよかったな


「…俺みたいな素人のおっさんを入れるメリットは無いと思うが…」

「そんな事無いですよ!街で宅配のお仕事をしてるのを見かけましたけど

 足腰が丈夫で、フィールドワークに向いてると思います!」

「ああ、俺は足が強くなるユニークスキル『スレイプニル』があるからな」

「いいじゃないですか~」

手を合わせてにっこりと微笑む少女

これはなかなか…人を乗せるのが上手そうな笑顔だ


「しかし、いきなりモンスターのいる場所に行くのは…」

そのせいで薬の値段が上がってると言ってたしな

金持ちほど、危険に首を突っ込みたくないもんだ


「大丈夫です!お二人がサポートしてくださいますから!」

手を叩く少女

すると、山小屋の影から、黒づくめの冒険者と金髪碧眼の冒険者の二名が出てきた


「ようやく説明が終わったか」

…なんか偉そうなやつだな…


「…このような雑事、他のメンバーに任せられないのか?」

「そうだ、ユピテルに薬草取りの指導をさせるなんて…」

「みなさん出払ってまして…」

後から知ったが、この二人がギルドリーダーのユピテルと、お供のロキだった


「それに、この体験会でおじさんにギルドに入りしてもらえれば

 ユピテルさんも他のお仕事に精を出せると思いますし」

「確かに、それはそうだが…」

「…まあ、いいだろう。ただし、大きな仕事が入ってきたら必ず回せ」

「それはもう」

少女はどうやら、ギルドのマネージャーとかそういう仕事のようだ

若い身でありながら、苦労してるんだな…


「おい、そこのお前…行くぞ」

「採集のような仕事はできれば他人に任せたい。早くものになれ」

この二人は、どうも採集は下働きがやるものだと思っているようだ

しかしまあ、それで俺にやらせてくれるんなら、願ったり叶ったりだ

俺に必要なものが、俺自身で手に入れられるようになる


「…わかった、よろしく頼む」

俺は自分より随分と若い青年二人に頭を下げ、教えを請う

少女にもらったチャンス…絶対にものにしてみせる!


そうして、いいおっさんの俺は、今更ながらに冒険者の道を進み始めたのだった

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