第28話 魔法学校の黒イケ先生

『古代への道』

未だに最下層まで到達した者はいないとされる、古代遺跡が眠る洞窟

その暗闇の底で、円筒状の身体の、長く巨大な白い影が蠢いていた

それの目指す先には、巨大な蜘蛛と巨大な巣

縄張りを荒らしに来たと思った蜘蛛は、白い何かにかぶりつこうとする

しかし…


バゴン!


白い何かの、恐るべき速度の体当たりによって、蜘蛛は壁へと叩きつけられる

そして、動けなくなった蜘蛛は、大口を開けた白いものに飲み込まれ…




………

……




手を横に、足を上げてくるりと回転

かがむ動作の後、跳ねるように飛び上がる


冒険者カードを手に入れて、アマミさんの別荘に戻ってきた私たち

次の日の朝、感謝をしつつ朝食をいただいて、今はその後の休憩時間

お手伝いは執事さんに断られてしまったので、一人別荘のお庭にて

いつもの宴会芸(裸踊り)スキルを踊りながら、色々思案中


戦闘で使おうとすると、たった5秒、相手を止める使いどころの無いこのスキル…

そう思ってたけど、テラスちゃんの高速魔法との組み合わせで、思わぬ力を発揮した

諦めていたこのスキルも、もっと使い道を見つけられるかもしれない

…正直恥ずかしいし、できれば使いたくないけど、それで冒険を失敗にする方が嫌だ

このスキル、なぜかレベルだけは高いんだから、なんとかうまく利用して

テラスちゃんとの冒険者レベル格差を、埋めれるようにしたい


…それはそうと、いつまでもここでごやっかいになる訳には、いかないよね…

冒険依頼を受けたいけど、私のような0レベルに依頼する人間はいない

一か八かで、テラスちゃんに手伝ってもらって、モンスター相手のレベリングか

地道にアルバイトをしながら教室に通うか

探索者のスキル教室は1レベルになるまで半年ほどはかかる

テラスちゃんをそこまで待たせていいのだろうか…


などと、あれこれ考えていたところに


「ほお…なかなかどうして…上手いものだな」

男の人の声がした


「?!」

振り向いてみると、入り口の方で端正な顔立ちの黒髪二十代後半男性が

腕組をしながらこちらを見つめていた


「え、あ、み…見てたんですか?!」

「ああ」

「……ほあああああああああああああああ?!」

み、見られた!若い男の人に!ちょっとえっちなダンスを!


「い、いや、ダンスは人に見せるものだろう?何を恥ずかしがってるんだ?」

「複雑な事情があるんです!」

誘っているえっちな子だって誤解されて、暗がりに連れ込まれて

いやらしいこといっぱいされちゃったりなんて事…

だ、大丈夫だよね…?


「…?」

うう、表情が硬い人だからわからない…


「どうしたのお姉ちゃん?!」

テラスちゃんとアマミさん、執事さんが私の叫び声を聞いて駆けつけてくれた


「あ、せんせーやん!おひさー」

「お久しぶりです先生殿。いつもアマミ様がお世話になっております」

「ああ、久しぶりだな」

「うえ、黒イケじゃん…何しに来たの?」

「…お前は相変わらずだな」

…おや?

なんだかこの男の人と親しい間柄のご様子


「この方、どちら様なんでしょうか…?」

「魔法学校時代の、うちらのクラスの担任の先生やで」

「えっ?!わ、若いですね…」

教鞭に立つような魔法使いさんって、もっとお年寄りだと思ってた…

テラスちゃんといい、最近の魔法使いさんは早熟なんだろうか


「はは…まあ、こいつほどじゃないけど、よく言われるよ」

彼はテラスちゃんの頭を、その大きな手でくしゃくしゃと撫でる


「なでるなー!」

「まあまあ、とりあえず上がってお茶でもどうぞ

 何かお話が…あるんですよね?」

「ああ」

私もこの前通された応接室に、全員で移動することに


そうして再びやってきた応接室

柔らかいソファーに執事さん以外の全員が座る

執事さんはお茶を入れに

…私もつい最近までお茶入れに行く側だったから

そわそわして落ち着かない…


「言っとくけど、研究室に入る気は無いからね!」

テラスちゃんがソファーに座るがいなや、先生に牽制を入れる

あ、そっか…前にテラスちゃんが言ってた担任って、この人かぁ


「ああ、それはもう諦めた」

静かに首を振る先生

残念だけどしょうがない、といった感じだった


「…それで、どうだ?ソロでギルド活動なんぞ始めてみた感想は」

「残念だね!もうソロじゃ無くなったよ!

 ウズメお姉ちゃんが入ってくれたもん!」

隣に座っていた私に抱きつくテラスちゃん

あ、いやその、そんな見せつけるようにされると、恥ずかしいんですけど…


「…おい待て、こんな普通そうな人を、お前の遊びに巻き込むな」

「遊びじゃないよ!」

「わ、わたしも覚悟して入りました。心配は無用です」

「そ、そうなのか…案外変わった人だな」

表情は変わらないが、声はかなり驚いてるように聞こえる

…なるほど、この人は感情が顔に出ないんだ

誤解されやすそうなタイプだなぁ…

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