第27話 プリンセスと後悔

ギルドメンバーからの文句は、ユピテル様だけに留まらなかった


「僕は前衛なんだよ!

 最後尾を守るなんてカッコ悪い役、他のやつにやらせろよ!」


「はぁ?困るんですよね!私がギリギリ動いてやるのは日曜のみですよ?

 それをこんな火曜なんかに依頼を入れるとは!」


「あなた方のせいで、私は来期から授業を受けられなくなったんですよ!

 今は一日も惜しいんです!スケジュールの管理もできないんですか!」


編成やスケジュールに不満のあるギルドメンバーが次々と押しかける

こいつら、どれだけ小娘に頼ってたんですの?!


「…姫様……その…無理です……」

「我々では、彼女の代わりはこなせません…」

「どうかプロを雇ってください」

ついにメイドたちもプライドを捨てギブアップ


「ぐっ…どういう事?!

 役立たずがギルドにしがみついてたんじゃなかったんですの?!」

「その認識は間違いだったと言わざるを得ません」

「そんな…そんな事ありえませんわ!」

「…残念ながら……」

…結局あの小娘は、ギルドに必要だった…?

い、いや、プロに任せればいいだけですわ!

流石に専門外の事を、メイドに任せすぎましたわ

代わりを速やかに用意すればいいだけの事…!



わたくしは仕方なく、ギルド管理の専門業者を雇うことにしましたわ

机の上に、業者の配るパンフレットを並べる

この中から、小娘の代わりを見つけるのですわ

金額が正当かどうか判断が難しいので、断腸の思いで銭ゲバを連れてきましたわ


「なんで俺が」

「ちゃんとした業者をみつくろったら、ボーナスをくれてやりますわ」

「おお、俺の扱いわかってきたじゃねえか…なら真剣にやりますか」

舌なめずりをする銭ゲバ

生理的にきついんですけれど…選び終わるまでの我慢、ガマン…


そうして、わたくしと銭ゲバはパンフレットをチェックし始めましたわ


「コイツは安いがダメだな…詐欺で捕まったヤツが代表じゃねぇか」

「お、流石ですわ。詐欺に詳しい顔してますもんね」

「はったおすぞテメー」

さりげなく嫌味を言って、ストレスを軽減させる

王宮で長く生き残るコツですわ


「仕入れ、清掃、受付、会計、メンバーのスケジュール管理…

 別々にしか雇えませんのね」

「2種類こなせる奴もいるにはいるが…料金は倍になるぞ」

「何でですの?」

「組合でそう決まってんだよ

 1種で契約した人間を2種働かせて給料を節約しよう

 …なんて考える、俺みたいな悪いヤツが多かったんだよ」

「……」

「ウズメのやつは、そんな事知らずに働いてたようだけどな」

あの小娘…ほんとどんだけですの…


「ほら、こんだけ雇えば、以前と同じくらいにギルドが動くぞ」

「ほほう…どれどれ?」

銭ゲバからパンフレットの束が手渡される

これでメイドたちにも楽をさせてやれるというもの…


「全員雇うとなると…180万G?!」

…ちょうど、ユピテル様の給料の3倍…!


「あなた、わざとお高い業者選んでるのではなくて?!」

「信じねえならそれでいいぜ」

「い、いや…」

こいつはクソ生意気なやつですけど、銭勘定の腕だけは確かですわ

選ばれたパンフレットの中身を見てみる

…確かに、あの小娘がいなくなって困ってる事が、全部仕事内容に含まれてますわ…


必要経費が3~4割増しになるのと合わせると…かなりの赤字ですわ

ギルドに蓄えは残っているけど…半年後、一年後まではもたない…!


「け、けど…だったら、元ラグナロクはどうやって経営を維持してましたの?!

 小娘だって、成長する前にこれだけ働いていたとは思えない…!」

「そりゃ単純に、入ってくる金の方が多かったんだよ」

銭ゲバは、そう言って肩をすくめる


「お前のユピテル様でさえ、冒険者レベルで言えば

 元ラグナロクメンバーの平均くらいなんだよ」

「そんな…彼らはユピテル様クラスの仕事を、バンバンこなしていたと…?」

「そういうこった」

ユピテル様の4レベル級がごろごろいる…

そんな強大なギルドだったんですの…ラグナロク…


「本来なら、メンバーに見合った安っぽいギルドに変えてかなきゃなんねぇ

 けれど、ラグナロクの名声を頼りに集まった連中には、それができねぇ

 そいつらをなんとか支えていたのがウズメって事だ」

「ま、まさか…まさかそんな……」

信じられない事実を突きつけられて、打ちのめされる

あんなゴミのようなユニークスキルしか持ってないのに…

適正も何もない人間が、そこまで働けるはずが…!


「沈みそうな船を、必死で支えてたやつすらわからないんなら…王族なんてやめちまえ」

銭ゲバから、とどめの一言を告げられる

そう、わたくしは何も理解できていなかった

小娘が…彼女が、どれだけギルドに貢献していたのかを…


「あ…う……うああああああああああああああああっ……!」

もはや限界だった

両手で顔を覆い、声を上げながら泣いてしまう

自分は、なんていう事をしてしまったんだという、後悔と共に…

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