第16話 できることとやりたいこと

右手を横に伸ばし、そこから垂直にあげる

一回転をしつつ、左に移動

左手と左足は横に伸ばし、動きを大きく見せる


スキルの効果は使わない、普通の踊り

執事さんは真剣な顔で、二人はキラキラした瞳で、私の踊りを見つめている

…あ、今、視線が胸の方に行った

うう…恥ずかしい……


別荘の広いお庭で踊り続ける

意識せずとも、やると決めたら勝手に身体が動く


昔の人類は、自分の才能を確認できなかった

現在は、神様の手によって、才能がユニークスキルという把握できる形になった

…どちらの方が幸せなのかは、よくわからない


動かしていた両足を閉じ、踊りはおしまい

胸に両手を当て、深くお辞儀をする


「以上です、ありがとうございました」

「…は……はえー………」

しばらく呆気にとられていた三人

しかし、そのうち執事さんから拍手が飛んできて

それに呼応して、アマミさん、テラスちゃんからも拍手される


「ええええ……ど、どないなってるん…

 なんか上手く言われへんけど、めっちゃすごいやん!」

「あ、あはは…」

自分から練習をして手に入れた技術ではないので

褒められると少し恥ずかしい気持ちになる


「お、お嬢様…ちょっとトイレに行ってきてよろしいですか?」

「ちょ…執事ぃー?!」

「……」

「ほら、ウズメお姉さん赤くなってぷるぷる震えてるやないか!」

「執事さん男の子だもんね、仕方ないよ!」

「ちょ、テラスっち!?なんでこういう時だけ理解を示すん!?」

小さな頃は、ギルドのおとうさんたちに、踊りを見せた事あったけど

この歳になってから、男の人に見せるのは初めてだったなぁ…

…今だとこんな反応になるのかぁ…


「…まあ確かに、うちらでもドキドキするんやもん、しゃーないか…

 ちょっと離れて落ち着いてき」

「はっ、すみませんお嬢様」

執事さんは真剣な顔のまま、この場を離れ屋敷に入っていった

…感情を顔に出さないのは流石だと思う


「うへー…初老の執事までああなるとは…ホンマすごいな…

 これならダンサーとして食うていけるな!」

アマミさんが興奮しながら言う

いや、でも…これを大勢にみられるとか、恥ずかしくて死ぬかも…!


「ちょ、ちょっと、マミりん…

 できる事とやりたい仕事は、違う場合もあるんだよ」

「そ、そっか、お姉さんギルドの雑用やったって言うてるもんな…

 何か事情があるんやろうな…」

何かを感じ取ったのか、ごめんなさいムードになる二人


「あ、いや、そんな気にしないでください」

家を継ぎたい鍛冶屋の息子に、鍛冶の才能が与えられなかった

これはそんな感じの、どこにでもよくある話


「でも実際…これからどうするの?」

「ウチのおとんに頼んで、お姫様と対抗…は難しくても

 誤解が解けるように手を回してもええで」

「い、いや、そこまでして頂かなくても…!」

こんないい子たちを、私の事情で大変な目に合わせたくない


「それに…追放されたのは残念だけど、ラグナロクは昔と変わってしまいました

 もうあそこに私の居場所は無いんだと…わかりました」

認めたくなかったのだ

おとうさん、おかあさんたちが、もういないんだって

たとえ目に見えなくても、その魂はラグナロクというギルドに

引き継がれていくんだって……信じたかったのだ


「だからもう、戻る気も無いんです」

「そっかぁ…」

一人…あのおじさんにだけは、連絡したいと思うけど…

でも、死んだはずの人間から手紙が届いて

万一お姫様に目をつけられたら、迷惑だよね…


「だ、だったらさ!」

テラスちゃんが、真剣な瞳で、私の正面に立ち話しかける



「あたしのギルドに…タカマガハラに入らない?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る