第12話 プリンセスの虚言

わたくしがユピテル様に想いを馳せていると、他からも反対の声が上がってきた


「私もパスさせてもらいますね

 今日は魔法学校の定期試験がありますので」

そう言ったのは、学校指定のローブを着た、髪がぼさぼさなメガネの男


「ラグナロク所属なら、入学試験の面接が免除されると聞いて入ったのです

 本業を疎かにする気はありません」

メガネをくい、と持ち上げて語る

カッコつけてるつもりかも知れないですけど

言ってる事は全然カッコよくないですわよ


「嫌だよそんな危ない所…僕はいずれ王宮の兵士になるんだよ

 洞窟なんて探索専門の奴が行けよ」

茶色い髪の小柄な少年が、牛乳を飲みながら話す

…王宮勤めをしたいなら、わたくしに媚を売るのが正解ではなくて?

下民が変にプライドが高いと損しますわよ

まあ、今はその方がわたくしは助かりますけどー?


「薄情なヤツらだな…!

 おい、リーダー!一緒に行くぞ!」

髭親父だけは、助けに行く気があるようですわ

ユピテル様を連れて行こうとしていますが…


「…すまない、俺は行くことができない」

「なんだと?」

怪訝な顔をする髭親父


「ギルドに依頼が入っている

 俺は今から、ロキと共に村を襲っている魔物を、討伐しに行かなければならない

 …早く行かなければ、30人は下らないだろう村人が犠牲になる

 30人と1人…比べるまでもない事だ」

ざあ~んねん!

ユピテル様の予定が、埋まるだろう時に計画を実行してるんですわ!

時間的にも、もはや助からない女を、わざわざ助けに行く気にはならないでしょう

それでも、愛人を助けに行く可能性は、わずかにありましたが…

いや、そこまで根は深くないはず…あれは一時の気の迷いですわ…

…これで目をお覚まし下さい、ユピテル様……


「ど、どいつもこいつも…!」

憤る髭親父

…むしろ、何でこいつは無理して行こうとしているのかしら?


「…おい、銭ゲバ!」

髭親父は先ほどの、いやらしい痩せ男に向かって、何か袋のようなものを投げましたわ


「?」

いきなりの事でびっくりつつ、それをキャッチする痩せ男

袋の中のものがじゃりっ、と音を立てる

……硬貨…?


「俺がラグナロクで貯めこんでいた、3か月分の報酬だ

 これやるからついてこい!」

「…は?マジかよおっさん?!」

驚く痩せ男

い、いや…わたくしも驚きですわ……


「向こうは何とも思ってないだろうがな…俺にはあの子に恩がある」

くっ…これは想定外ですわ…

まさか…こいつもあの女にたぶらかされて……?


「へへっ、毎度ありぃ。そういう事ならついてくぜ」

ニィ…と顔を歪ませて笑う銭ゲバ

反吐が出そうな顔しますわね!


「それとな…王族!」

髭親父は、机をダン!と叩いてわたくしを睨む


「お前が何のつもりで、あの子を陥れたのかは知らねえが…

 あまり、冒険者を舐めるなよ」

「は?何を言って…」

悪女を処分しただけですわよ?

…と、言ってしまいたいですが…通じないでしょうね

めんどくさいですわ…


「何を言っても何も…そりゃぁそう思うだろ!

 わざわざ王族様が薬草取りなんざする訳ねえ!」

銭ゲバがケタケタ笑いながらこちらを見る

…そのいやらしい顔、見せないでもらえます?


「なんかあるとは思ったが、まさかコロシちまうとはなぁ!」

「何の事かわかりませんわね。証拠を見せてもらえます?」

疑うだけでは罰なんて下せませんわよ?

証拠なんて出るはずありませんけど


「…行くぞ」

「おう、貧乏王族なんかにゃ用はねえ」

誰が貧乏王族よ!

第五王女だから、自由になるお金が少ないだけですわ!


…けど、ユピテル様との婚約で、父上の見る目も変わってきてますわ

もうすぐ、上の兄妹どもを出し抜ける…!



ギルド酒場から外に出ていく二人

……大丈夫、ですわよね…?

あの女が死んでるのは確定として…何か証拠になるような物が残る可能性は…?

何か見落としは無かったかしら…?


「あ、味方して欲しいんだったら、こいつの倍の金額で仲間のフリしてやるぜー?」

ドアの手前で、先ほどもらった金の袋をじゃりじゃりさせて

いやらしい笑みを浮かべ振り向く銭ゲバ

…いりませんわよ!うざいですわね!

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